拝領唱 "Signa eos qui in me credunt" (グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ111)

 GRADUALE ROMANUM (1974) / GRADUALE TRIPLEX pp. 437–438; GRADUALE NOVUM I pp. 212–213.
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【教会の典礼における使用機会】

 現行「通常形式」のローマ典礼におけるこの拝領唱の最重要の使用機会として,主の昇天の祭日 (B年) があるということだけ記しておく。ほかにもいろいろあるが,それは後日書くことにする。
 

【テキスト,全体訳,元テキストとの比較】

Signa eos qui in me credunt, haec sequentur: daemonia eicient: super aegros manus imponent, et bene habebunt. T. P. Alleluia.
しるしとして,私を信じる者たちには次のことが (どこへ行っても) ともにあるであろう: 彼らは悪霊を追い出すであろう。彼らが病人たちの上に手を置くと,病人たちはよくなるであろう。(復活節には) ハレルヤ。

 マルコによる福音書第16章第17節と第18節の一部が用いられている。詳しい比較は他日に譲る。
 

【対訳・逐語訳】

Signa eos qui in me credunt, haec sequentur:

しるしとして,私を信じる者たちにはこれらのことが (どこへ行っても) ともにあるであろう。
別訳:私を信じる者たちには,これらのしるしが (……)
別訳:(……) ついてくるであろう。

signa しるしとして;しるしが (いずれにせよ中性・複数・主格)
eos「以下の関係詞節 (qui節) で示す者たち」を (英:漠然とした先行詞としてのthose。男性・複数・対格)
…… 男性形だが,必ずしも男性に限った話をしているわけではない。男女関係なく話題にするときにはラテン語では男性形を用いることになっているだけである。
…… 後に出てくる動詞 "sequentur" の目的語。
qui (関係代名詞,男性・複数・主格) …… 直前の "eos" を受ける。
in me 私を (me:私 [対格])
credunt 信じる (動詞credo, credereの直説法・能動態・現在時制・3人称・複数の形) …… ここまでが関係詞節 (qui節)。
haec これらのことが;これらの (いずれにせよ中性・複数・主格) …… 冒頭の "signa" の解釈次第で,この "haec" は単独で名詞的に用いられているとも,"signa" にかかっているとも取ることができる。
sequentur 後についてくるであろう,忠実に同行するであろう (動詞sequor, sequiの直説法・受動態の顔をした能動態・未来時制・3人称・複数の形) …… 目的語は前の "eos"。

  •  語義からすると,"sequentur" はまずは「ついてくるであろう」と訳したいところだが,この文脈でこの訳語だと商品の特典かなにかのような響きを持ちかねないように思い,全体訳では「(どこへ行っても) ともにあるであろう」を採った。

  •   「ついてくるであろう」と訳すにせよ「同行するであろう」「ともにあるであろう」と訳すにせよ,この動詞の目的語となっている代名詞 "eos" が対格 (「~を」) をとっているのが分かりづらいかと思うが,このことを考えるときには "sequentur" を「追うであろう」と頭の中で訳すとうまくつながり納得できるだろう。

daemonia eicient:

彼らは悪霊どもを追い出すであろう。

daemonia 悪霊どもを …… 単数・主格形は "daemonium" (中性名詞)。"daemon" という同じ意味の別形 (こちらは男性名詞) もある。
eicient 彼らが外へ放り投げるだろう,彼らが追い出すだろう (動詞eicio, eicereの直説法・能動態・未来時制・3人称・複数の形) …… GRADUALE NOVUMでは "ejicient" で,本来ここに子音 [j] があることがはっきり示されている。この綴りだと,この動詞がe + iacio, iacere (jacio, jacere) という成り立ちになっていることが分かりやすい。e (ex) は「~から」,iacio, iacereは「投げる」の意である。

super aegros manus imponent, et bene habebunt.

彼らが病人たちの上に手を置くと,病人たちはよくなるであろう。
直訳:病人たちの上に手を彼らは置くであろう,するとよい状態に彼らはなるであろう。

super aegros 病人たちの上に (super:~の上に,aegros:病人たち [対格]) …… "aegros" は「病気の」という形容詞を名詞的に用いているもの。男性・単数・主格形は "aeger"。
manus 手を (複数形) …… 手は2つあるから複数形なのか,手を置くのが「彼ら」つまり複数の人物だから複数形なのか,私には判断しかねたので, 「両手を」と訳すのはやめておくことにした。
imponent 彼らが置くだろう (動詞impono, imponereの直説法・能動態・未来時制・3人称・複数の形)
et (英:and)
bene habebunt 彼らが調子よくなるだろう (bene:よく [副詞],habebunt:彼らが~の状態になるだろう [動詞habeo, habereの直説法・能動態・未来時制・3人称・複数の形]) …… 古典ギリシャ語でこのhabeo, habereに (英語でいうhaveに) 相当する動詞ἔχω, ἔχεινは,基本的には「持つ」という意味だが,副詞とともに用いると「~の状態である」という意味になる。もとになった新約聖書のギリシャ語原典にこの形が現れており,ラテン語にそのまま移されたことになる。手元の複数のラテン語辞書でもこの用法は確認できた。

T. P. Alleluia.

(復活節には) ハレルヤ。

T[empore] P[aschali] 復活節に (奪格) (Tempore:季節に,Paschali:復活祭に関する)
Alleluia ハレルヤ

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