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生成AIがもたらす革命3:生成AI活用戦略

こんにちは、広瀬です。

生成AIが爆発的な広がりを見せていますね。ChatGPTをはじめ、様々な生成AIツールが登場し、私たちの生活やビジネスに大きな影響を与え始めています。

従来、AIの導入には専門的な知識や技術が必要とされてきましたが、最近では、 ノーコードツールの活用により、AI導入のハードルが下がっています。専門知識を持たないビジネスユーザーでも、ドラッグ&ドロップなどの簡単な操作で、AIモデルを構築・運用できるようになり、多くの企業がAI導入を加速させています。

しかし、生成AIを効果的に活用するためには、適切な導入と運用が不可欠です。そこで今回は、Harvard Business Reviewの「How to Deploy and Scale Generative AI Efficiently and Cost-Effectively(生成AIを効率的かつ費用対効果の高い方法で展開し、拡張する方法)」の記事を参考に、生成AIを効率的かつ費用対効果の高い方法で展開し、拡張する方法について解説していきます。

これらのポイントを理解し、適切な生成AI活用戦略を講じることで、企業は生成AIの導入を成功させ、競争力を強化することが可能になります。




1. はじめに

ビジネスリーダーと開発者の双方にとって、今、問われているのは、なぜ生成AIがさまざまな業界に展開されているのかではなく、いかに展開するのか、そしていかにより迅速かつ高性能に活用できるのか、ということです。2022年11月のChatGPTの登場は、エンドユーザーの間で、大規模言語モデル(LLM)爆発の始まりを告げました。LLMは膨大な量のデータでトレーニングされ、質問への回答、ドキュメントの要約、言語の翻訳など、多様なタスクを同時に行うための汎用性と柔軟性を備えています。

今日、多くの組織が、顧客を喜ばせ、社内チームを強化するために、生成AIソリューションを求めています。しかし、2024年初頭のマッキンゼーのAIの現状調査によると、世界中で生成AIを本格的に利用している企業はわずか10%に過ぎません。これは、生成AIの導入には、技術的な課題だけでなく、組織的な課題や費用的な課題など、様々なハードルが存在するためです。

最先端のサービスを開発し続け、競争に勝ち続けるためには、組織は高性能な生成AIモデルとワークロードを安全、効率的、そして費用対効果の高い方法で展開し、拡張していく必要があります。

補足:生成AI導入の現状と課題

生成AIは、多くの企業にとって、ビジネス変革の鍵となる可能性を秘めた、魅力的なテクノロジーです。しかし、その導入には、克服すべき様々な課題が存在します。

  • 技術的な課題
    高性能なAIモデルの開発、大量のデータ処理、セキュリティ対策など、技術的なハードルが高い。

  • 組織的な課題
    既存の業務プロセスとの統合、部門間の連携、人材の確保など、組織的な変革が必要となる。

  • 費用的な課題
    AIモデルの開発・運用コスト、人材育成コスト、インフラストラクチャ整備コストなど、多額の投資が必要となる。

これらの課題を克服し、生成AIを効果的に活用するためには、戦略的な計画と適切なリソースの投入が不可欠です。


2. ビジネス変革を加速する生成AI

ビジネスリーダーは、生成AIが複数の業界に根付くにつれて、その真の価値に気づき始めています。アクセンチュアによると、LLMと生成AIを採用している組織は、収益を少なくとも10%増加させる可能性が2.6倍高いとのことです。生成AIは、まさにビジネスを再構築し、成長を加速させる力を持つと言えるでしょう。

しかし、生成AIの導入には注意が必要です。ガートナーによると、2025年までに、データ品質の低さ、不十分なリスク管理、コストの増加、または不明確なビジネス価値のために、生成AIプロジェクトの30%がPoC(Proof of Concept:概念実証)後に中止されるといいます。その原因の多くは、大規模な生成AI機能を展開することの複雑さにあります。

ガートナーの予測が示すように、多くの生成AIプロジェクトがPoC段階で頓挫してしまう可能性があります。これは、生成AIの導入が、単に技術を導入するだけでなく、ビジネス戦略、データ管理、リスク管理、組織文化など、多岐にわたる要素を考慮する必要があるためです。

特に、データ品質の低さは、生成AIの精度や信頼性に大きな影響を与えます。生成AIモデルは、学習データの質に大きく依存するため、偏ったデータや不正確なデータで学習すると、その出力も偏ったり不正確になったりする可能性があります。また、リスク管理の不足は、倫理的な問題やセキュリティリスクを引き起こす可能性があります。生成AIは、差別的な発言や個人情報の漏洩など、予期せぬリスクをもたらす可能性があるため、倫理的な側面やセキュリティ対策をしっかりと考慮する必要があります。さらに、生成AI導入の目的やビジネス価値が明確になっていない場合、プロジェクトが迷走し、最終的に中止に追い込まれる可能性があります。生成AIを導入する目的、期待される効果、ビジネスへの貢献を明確に定義し、プロジェクト全体の方向性を定めることが重要です。

企業は、これらの課題を認識し、PoC段階から綿密な計画と準備を進めることが重要です。ビジネス戦略と整合した明確な目標設定、高品質なデータの確保、リスク管理体制の構築、そして組織全体での理解と協力が、生成AI導入を成功させるための鍵となります。

補足:PoC段階で考慮すべきポイント

PoC(概念実証)は、生成AIを実際に導入する前に、その効果や実現可能性を検証するための重要なステップです。PoC段階では、以下のポイントを重点的に検討する必要があります。

  • 明確な目標設定
    PoCの目的を明確に定義し、達成すべき目標を設定する。

  • データの準備
    PoCで使用するデータを選定し、前処理(不整合なデータや欠損値などを修正、異なる形式のデータを統一等)を行う。必要に応じて、外部データの活用も検討する。

  • モデルの選定
    目的に合った生成AIモデルを選定する。必要に応じて、複数のモデルを比較検討する。

  • 評価指標の設定
    PoCの効果を測定するための評価指標を設定する。

  • 結果の分析
    PoCの結果を分析し、課題や改善点を特定する。

PoCを効果的に実施することで、生成AI導入のリスクを軽減し、成功の可能性を高めることができます。


3. 生成AI導入のための二つの選択肢:マネージドサービス vs セルフホスト型

すべての生成AIサービスが同じように作られているわけではありません。生成AIモデルは、それぞれ異なるタスクを処理するように調整されており、テキスト、画像、ビデオ、音声、合成データなど、生成するデータの種類も多岐にわたります。組織は、これらの多様なニーズに対応するために、最適な生成AIモデルを選択する必要があります。

生成AIモデルを展開するには、大きく分けて二つのアプローチがあります。

  1. マネージドサービス
    Google CloudやAWSなどのクラウドプロバイダーが提供する、構築、トレーニング、展開が容易なサービス。ユーザーフレンドリーなインターフェースとAPIを備えており、専門知識がなくても利用しやすいのが特徴です。

  2. セルフホスト型ソリューション
    オープンソースや商用ツールを活用し、自社のインフラストラクチャ上でAIモデルを構築・運用するアプローチ。柔軟性が高く、カスタマイズ性に優れている一方、導入や運用には専門知識が必要となります。

マネージドサービスは、手軽に生成AIを導入したい組織にとって魅力的な選択肢です。セットアップが容易で、専門知識がなくても利用できるため、AI導入の初期コストを抑えられます。また、セキュリティやメンテナンスなどの運用面もサービス提供者に任せられるため、運用負荷を軽減できます。

一方、セルフホスト型ソリューションは、カスタマイズ性や柔軟性を重視する組織に適しています。独自のニーズに合わせてモデルを調整したり、既存のインフラストラクチャと統合したりすることが可能です。ただし、導入や運用には専門知識が必要となるため、技術的なハードルが高く、運用コストも高くなる傾向があります。

どちらのアプローチを選択するかは、組織のニーズ、リソース、技術的な専門知識、そして予算によって異なります。組織の規模やAI活用の方針、データセキュリティ要件などを考慮し、最適なアプローチを選択する必要があります。

どちらのアプローチを選択する場合でも、高スループット、低レイテンシ、セキュリティを確保することが重要です。これらの要素は、ユーザーエクスペリエンスやシステムの安定性に大きく影響するため、導入前に十分な検討が必要です。高スループットとは大量のデータを効率的に処理する能力を指し、低レイテンシとはデータ送信とリアルタイムインタラクションの遅延を最小限に抑えることを指します。

補足:二つの選択肢のメリットとデメリット

  1. マネージドサービス

    • メリット
      導入が容易、運用負荷が低い、コストが低い。

    • デメリット
      カスタマイズ性が低い、ベンダーロックインのリスク、セキュリティへの懸念。

  2. セルフホスト型

    • メリット
      カスタマイズ性が高い、柔軟性が高い、セキュリティレベルを調整できる。

    • デメリット
      導入が複雑、運用負荷が高い、コストが高い。

近年では、マネージドサービスの機能が充実し、カスタマイズ性も向上しつつあります。また、オープンソースのツールやフレームワークも進化しており、セルフホスト型ソリューションの導入障壁は徐々に低くなってきています。組織は、これらの最新動向を踏まえ、自社の状況に合わせて最適なアプローチを選択することが重要です。


4. 生成AIプロジェクトを成功に導くための三つの鍵

組織が生成AIとLLMを大規模に展開する際には、克服すべきいくつかの課題が存在します。これらの課題に迅速かつ効率的に対処しなければ、プロジェクトの進捗が遅延し、実装のタイムラインに影響を及ぼす可能性があります。生成AIプロジェクトを成功に導くためには、以下の三つの鍵となる要素に焦点を当てる必要があります。

1. 低レイテンシと高スループット

良好なユーザーエクスペリエンスを確保するために、組織は要求に迅速に対応し、効果的に拡張するために高いスループットを維持する必要があります。生成AIモデルは大量のデータを処理するため、応答速度が遅くなったり、処理能力が不足したりする可能性があります。ユーザーに快適な操作性を提供し、大量のアクセスにも耐えられるように、低レイテンシと高スループットを実現することが重要です。

低レイテンシと高スループットを実現するためには、適切なハードウェアとソフトウェアの選択、効率的なアルゴリズムの設計、最適なシステム構成など、様々な要素を考慮する必要があります。例えば、高速なGPUや専用ハードウェアの利用、並列処理技術の導入、キャッシュの活用などが有効な手段となります。

2. 一貫性のある推論プラットフォーム

安全で安定した標準化された推論プラットフォームは、一貫性のあるAPIを備えた使いやすいソリューションを重視するほとんどの開発者にとって優先事項です。開発者が効率的に作業を進めるためには、安定した動作環境と使いやすいインターフェースが不可欠です。標準化されたAPIを備えた推論プラットフォームを構築することで、開発者はモデルの開発や統合に集中することができます。

また、プラットフォームの一貫性を保つことで、メンテナンスやアップデート作業を効率化し、システムの安定性を向上させることができます。バージョン管理システムの導入、自動テストの実施、ドキュメントの整備などを行い、開発プロセス全体を効率化することが重要です。

3. 強固なデータセキュリティ

組織は、社内ポリシーと業界規制に従って、会社データ、クライアントの機密性、および個人を特定できる情報(PII: Personally Identifiable Information)を保護する必要があります。生成AIは、機密性の高いデータを取り扱うことが多いため、データセキュリティ対策は非常に重要です。個人情報や企業秘密を保護するために、適切なアクセス制御、暗号化技術、セキュリティ監査などを導入する必要があります。

特に、近年では、データプライバシーに関する規制が強化されているため、法令遵守の観点からもデータセキュリティ対策を徹底する必要があります。日本企業は、国内法だけでなく、GDPRや CCPAなどの海外の個人情報保護法についても遵守し、データの収集、利用、保管、削除に関する適切なポリシーを策定する必要があります。

これらの課題を克服することによってのみ、組織は生成AIとLLMを大規模に活用し、ビジネスの成長を加速させることができます。


5. 推論マイクロサービス:生成AI開発を加速するゲームチェンジャー

競争に先んじるためには、開発者は高性能な生成AIおよびLLMモデルを迅速、信頼性が高く、安全に展開できる、費用対効果の高い方法を見つける必要があります。費用対効果の重要な指標となるのは、高スループットと低レイテンシです。これらはAIアプリケーションの配信と効率に大きく影響します。

APIを備えた小規模な独立したソフトウェアサービスに接続されたトレーニング済みAIモデルを介してデータを実行する、使いやすい推論マイクロサービスは、まさにゲームチェンジャーになり得る技術です。業界標準のAPIを備えた包括的な生成AIモデルへのインスタントアクセスを提供し、既存のインフラストラクチャやクラウドサービスとシームレスに統合できるオープンソースおよびカスタムの基盤モデルに拡張できます。これにより、開発者はAIアプリケーションの構築に伴う課題を克服し、モデルのパフォーマンスを最適化し、高スループットと低レイテンシの両方を達成することが可能になります。

生成AIの開発において、推論マイクロサービスは、効率性、費用対効果、拡張性を向上させるための重要なツールとなります。従来のAIシステムでは、モデルの開発、展開、運用に多くの時間とコストがかかっていました。しかし、推論マイクロサービスを利用することで、これらのプロセスを簡素化し、迅速にAIアプリケーションを構築することができます。

推論マイクロサービスの主な利点は以下の点が挙げられます。

  • 迅速な展開
    あらかじめトレーニングされたモデルを利用することで、モデル開発の時間を大幅に短縮し、迅速にAIアプリケーションを展開することができます。

  • 費用対効果
    クラウドベースのサービスを利用することで、インフラストラクチャのコストを削減し、費用対効果の高いAIシステムを構築することができます。

  • 拡張性
    必要な時に必要なだけリソースを拡張できるため、トラフィックの増加にも柔軟に対応することができます。

  • 柔軟性
    オープンソースモデルやカスタムモデルにも対応しているため、様々なニーズに対応したAIアプリケーションを開発することができます。

エンタープライズグレードのサポートも、本番環境で生成AIを実行している企業にとって不可欠です。継続的な更新、専用の機能ブランチ、セキュリティパッチ、厳格な検証プロセスなどを提供することで、組織は貴重な時間とリソースを節約し、安定した運用を実現することができます。

推論マイクロサービスの活用事例:Hippocratic AI

生成AIに焦点を当てた大手ヘルスケアスタートアップであるHippocratic AIは、推論マイクロサービスを活用し、目覚ましい成果を上げています。同社は、推論マイクロサービスを使用して、それぞれが700億を超えるパラメーターを持つ25を超えるLLMを展開し、セキュリティを強化し、AIの幻覚(hallucinations)を減らした共感的なカスタマーサービスエージェントアバターを作成しました。合計1兆を超えるパラメーターを持つ基礎となるAIモデルにより、患者と仮想エージェント間の流暢なリアルタイムの議論が可能になっています。

Hippocratic AIの事例は、推論マイクロサービスの有効性を示す好例です。同社は、推論マイクロサービスを活用することで、多数のLLMを効率的に展開し、高性能なカスタマーサービスエージェントを開発することに成功しました。

推論マイクロサービスは、生成AIの開発を加速させ、企業の競争力強化に貢献する重要な技術と言えるでしょう。APIの標準化やオープンソース化が進んでいることで、推論マイクロサービスの導入障壁は低くなってきています。今後、ますます多くの企業が推論マイクロサービスを活用し、生成AIの開発を効率化していくことが期待されます。


6. まとめ:生成AIが切り拓く未来

生成AIは、今日の組織のビジネスのやり方を変革しています。そして、このテクノロジーが進化し続けるにつれて、企業は、低レイテンシと高スループットといった、より高度なパフォーマンスを生成AIに求めるようになるでしょう。

生成AIは、単なる技術革新ではなく、ビジネスのあり方そのものを変革する可能性を秘めています。企業はこのテクノロジーを積極的に活用することで、新たなビジネスチャンスを創出し、競争優位性を築くことができます。

顧客サービス、マーケティング、製品開発、人事など、様々な分野で、生成AIの活用が期待されています。例えば、顧客サービスにおいては、AIチャットボットが顧客からの問い合わせに自動応答することで、対応時間の短縮や顧客満足度の向上が見込めます。マーケティングにおいては、AIによるパーソナライズ化された広告配信やコンテンツ作成により、顧客エンゲージメントを高めることができます。

しかし、生成AIを効果的に活用するためには、低レイテンシと高スループットを確保することが重要です。大量のデータを高速に処理することで、リアルタイムの応答や複雑なタスクへの対応が可能となり、ユーザーエクスペリエンスを向上させることができます。

推論マイクロサービスは、これらの課題を解決するための有効な手段となります。安全で効率的、かつ経済的に生成AIを展開することで、企業は競争力を強化し、市場をリードすることができます。これらの課題に安全、効率的、そして経済的に対処するために推論マイクロサービスを採用する組織は、成功し、それぞれのセクターをリードするための態勢を整えることができます。

生成AIは、まだ発展途上の技術ですが、その可能性は無限大です。企業は、常に最新技術をウォッチし、積極的に活用していくことで、未来のビジネスを創造していくことができるでしょう。

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。


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広瀬 潔(HBR Advisory Council Member)
いつも読んでいただき、ありがとうございます。この記事が少しでもお役に立てたら嬉しいです。ご支援は、より良い記事作成のために活用させていただきます。