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成長する製品:いつまでも色褪せない製品開発

こんにちは、広瀬です。

私たちの身の回りには、スマートフォン、家電、自動車など、様々な製品があふれています。しかし、技術の進歩は目覚ましく、せっかく購入した製品も、すぐに時代遅れになってしまうことが少なくありません。新しい機能を搭載した製品が次々と登場し、以前のモデルは陳腐化し、買い替えを迫られるという経験は、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか?

この「製品の陳腐化」は、消費者にとって経済的な負担となるだけでなく、大量の廃棄物を生み出し、環境問題にもつながっています。

では、どうすればこの問題を解決できるのでしょうか?

それは、近年注目されている「成長する製品」という考え方です。

従来の製品は、一度開発されるとその機能が固定されていましたが、「成長する製品」は、ユーザーのニーズや技術の進化に合わせて、まるで生き物のように変化し、成長し続けることができます。

例えば、ソフトウェアのアップデートによって新しい機能が追加されたり、ハードウェアのモジュールを交換することで性能が向上したりする製品が、「成長する製品」と言えるでしょう。

この「成長する製品」という概念は、Harvard Business Reviewに掲載された論文「Design Products That Won’t Become Obsolete(時代遅れにならない製品を設計する)」で提唱されました。

本解説文では、この論文を基に、「成長する製品」とは何か、そのメリット、実現方法、そして企業がどのように「成長する製品」をビジネスに活用できるのかについて、詳しく解説していきます。

特に、Job理論、デザイン思考、そしてプロダクトマネジメントといった、現代の製品開発において重要な役割を担う考え方と「成長する製品」との関連性についても深く掘り下げていきます。

「成長する製品」は、単なる製品開発のトレンドではなく、いつまでも色褪せない製品開発と言う、持続可能な社会を実現するための重要な鍵となる可能性を秘めていると言えるでしょう。




1.「成長する製品」が解決する7つの課題

「成長する製品」は、ユーザーの様々なニーズの変化に対応することで、従来の製品では解決できなかった課題を克服できる可能性を秘めています。論文では、特に以下の7つの課題に対応できると述べています。

1.1 年齢に伴う発達

子供が成長するにつれて、体格や能力は大きく変化します。従来の製品では、特定の年齢層にしか対応できないものが多く、すぐに使えなくなってしまっていました。「成長する製品」は、子供の成長に合わせて調整できるため、より長く使用することができます。

例えば、Radio Flyerの「Grow with Me Racer」は、子供の年齢に合わせて操作モードを切り替えることができるおもちゃの車です。最初は親がリモコンで操作し、子供が大きくなったら自分で運転できるようになり、最終的には完全に子供自身でコントロールできるようになります。

1.2 年齢に伴う身体機能の変化

高齢になると、視力や体力など、身体機能が低下することがあります。従来の製品は、これらの変化に対応できないものが多く、高齢者は不便を感じることが少なくありませんでした。「成長する製品」は、高齢者の身体機能の変化に合わせて調整できるため、より長く快適に使用することができます。

例えば、自動で焦点を調節する老眼鏡や、歩行を補助する杖など、高齢者の身体機能の変化に対応する製品が登場しています。

1.3 先天的な制限

生まれつき身体的な制限を持つ人々もいます。従来の製品は、これらの制限に対応できないものが多く、不便を感じることが少なくありませんでした。「成長する製品」は、個々のニーズに合わせてカスタマイズできるため、より多くの人が快適に利用することができます。

例えば、車椅子、義肢、補聴器など、障害者のニーズに合わせてカスタマイズできる製品が開発されています。

1.4 新規性への欲求

人々は、常に新しいもの、刺激的なものを求めています。従来の製品は、すぐに飽きられてしまうものが多く、頻繁に買い替える必要がありました。「成長する製品」は、ソフトウェアのアップデートやモジュール交換などによって、常に新しい体験を提供できるため、顧客の飽きを防ぐことができます。

例えば、スマートフォンのOSアップデートや、ゲームの追加コンテンツなどが挙げられます。

1.5 変化する学習ニーズ

学習する内容やレベルは、人によって、そして時間によって変化します。従来の教育教材は、特定のレベルの学習者にしか対応できないものが多く、学習者の進捗に合わせて教材を買い替える必要がありました。「成長する製品」は、学習者のレベルに合わせて難易度やコンテンツを調整できるため、より効果的な学習を支援することができます。

例えば、子供の学習レベルに合わせて難易度やコンテンツを調整できる教育用玩具やゲームが開発されています。

1.6 技術の進化

技術は常に進化しており、従来の製品はすぐに時代遅れになってしまう可能性があります。「成長する製品」は、ソフトウェアアップデートやモジュール交換などによって、最新の技術に対応できるため、製品寿命を延ばすことができます。

例えば、スマート家電や電気自動車など、ソフトウェアアップデートによって機能が追加・改善される製品が登場しています。

1.7 性能ニーズの変化

製品に求められる性能は、使用状況や環境によって変化することがあります。従来の製品は、特定の条件下でしか最適な性能を発揮できないものが多く、状況が変わると買い替える必要がありました。「成長する製品」は、ユーザーのニーズや環境に合わせて性能を調整できるため、様々な状況に対応することができます。

例えば、農業機械や産業用ロボットなど、作業内容や環境に合わせて性能を調整できる製品が開発されています。

このように、「成長する製品」は、ユーザーの多様なニーズの変化に対応することで、従来の製品では解決できなかった課題を克服し、より良いユーザーエクスペリエンスを提供できる可能性を秘めていると言えるでしょう。さらに、製品のライフサイクルを延ばすことで、資源の消費を抑え、廃棄物を削減し、環境負荷を軽減することに繋がり、以下のSDGsの目標達成にも貢献する可能性を秘めていると言えるでしょう。

  • 目標7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに
    エネルギー効率の高い製品の利用を促進

  • 目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう
    革新的な技術やサービスの開発を促進

  • 目標12 つくる責任 つかう責任
    循環型社会の構築に貢献

特に、環境問題への意識が高まる現代において、「成長する製品」は、企業が持続可能な社会の実現に向けて取り組む姿勢を示す、重要な手段となる可能性を秘めていると言えるでしょう。


2.「成長する製品」を実現する4つのアプローチ

「成長する製品」を実現するには、どのような方法があるのでしょうか? 製品を進化させ、成長させるためのアプローチは、大きく分けて以下の4つに分類できます。

2.1 構成可能なハードウェア

このアプローチでは、製品のハードウェア自体がユーザーのニーズに合わせて変化します。モジュール式設計を採用することで、ユーザーは必要に応じて部品を交換したり、追加したりすることができます。

例えば、モジュール式の家具は、部屋の広さやライフスタイルの変化に合わせて、自由に組み合わせたり、拡張したりすることができます。また、医療機器においても、患者の成長や症状の変化に合わせて調整できる車椅子や義肢などが開発されています。

メリット

  • ユーザーの多様なニーズに対応可能

  • 製品の寿命を延ばすことができる

  • 廃棄物を削減できる

デメリット

  • 設計・製造が複雑になる場合がある

  • コストが高くなる場合がある

2.2 事前構成済みソフトウェア

このアプローチでは、製品に組み込まれたソフトウェアが、ユーザーの行動や状況を学習し、自動的に動作を調整します。AIや機械学習の技術を活用することで、ユーザー一人ひとりに最適化された体験を提供することができます。

例えば、フィットネストラッカー(日本語では「ウェアラブル活動量計」と訳される)は、ユーザーの活動量や心拍数などのデータを分析し、運動量や睡眠の質を向上するためのアドバイスを提供します。また、スマート家電は、ユーザーの生活パターンを学習し、自動的に照明や空調を調整します。

メリット

  • ユーザーにパーソナライズされた体験を提供できる

  • ユーザーの利便性を向上させることができる

デメリット

  • 個人情報の漏洩が発生する危険性がある

  • AIを利用している場合は、何らかのバイアスが反映される可能性がある

2.3 更新可能なハードウェア

このアプローチでは、ハードウェアの一部を交換したり、アップグレードしたりすることで、製品の機能を拡張したり、性能を向上させたりすることができます。

身近な例で言うと、自動車が挙げられます。

自動車は、様々な部品を交換・アップグレードすることで、機能や性能を向上させることができます。

例えば、

  • タイヤ
    季節や路面状況に合わせてタイヤを交換することで、走行性能を向上させることができます。冬に雪道や凍結路面を走行する場合は、スタッドレスタイヤに交換することで、グリップ力を高め、安全性を確保することができます。

  • バッテリー
    ガソリン車のバッテリーは、経年劣化によって性能が低下します。新しいバッテリーに交換することで、エンジンの始動性や電装品の安定性を向上させることができます。ハイブリッド車や電気自動車では、より高性能なバッテリーに交換することで、燃費を向上させたり、航続距離を伸ばしたりすることができます。

  • ヘッドライト
    従来のハロゲンランプから、より明るく長寿命なLEDヘッドライトに交換することで、夜間の視認性を向上させることができます。

  • オーディオシステム
    最新のカーナビゲーションシステムやオーディオシステムに交換することで、より快適なドライブを楽しむことができます。

メリット

  • 製品の機能・性能を向上させることができる

  • 最新技術に対応できる

  • 製品の寿命を延ばすことができる

  • ユーザー自身でカスタマイズできる

デメリット

  • 部品の互換性を確保する必要がある

  • アップグレード費用がかかる

  • ある程度の知識やスキルが必要な場合がある

自動車は、「更新可能なハードウェア」の好例であり、ユーザーは部品を交換・アップグレードすることで、愛車を長く使い続け、常に最適な状態に保つことができるのです。

2.4 更新可能なソフトウェア

このアプローチでは、ソフトウェアのアップデートによって、製品の機能を追加したり、性能を向上させたりすることができます。まるで人が成長していくように、ソフトウェアもアップデートを通じて進化し、新たな可能性を広げていくのです。

テスラ自動車

テスラ自動車は、ソフトウェアアップデートによって、走行性能や安全性能を向上させることができます。まるで、あなたの車が成長し、より賢く、より頼もしくなっていくかのようです。

例えば、

  • 自動運転機能の進化
    ソフトウェアアップデートによって、自動運転機能が進化し、より安全で快適な運転を実現することができます。まるで、あなたの車があなたを守り、導いてくれるパートナーのような存在になるのです。

  • パフォーマンスの向上
    モーター制御やバッテリー管理のソフトウェアをアップデートすることで、加速性能や航続距離を向上させることができます。まるで、あなたの車がスポーツカーに変身したかのような、力強い走りを体感できるのです。

  • 新機能の追加
    新しいエンターテイメント機能や快適装備が、ソフトウェアアップデートによって追加されることがあります。まるで、あなたの車が常に新しい驚きと感動を与えてくれる、魔法の箱のような存在になるのです。

  • セキュリティの強化
    セキュリティの脆弱性を修正し、サイバー攻撃から車を守ることで、安全性を向上させることができます。

メリット

  • 製品の機能・性能を向上させることができる

  • 最新技術に対応できる

  • セキュリティの脆弱性を修正できる

  • ユーザーに新しい価値を提供できる

  • ユーザーに負担をかけずに、製品を最新の状態に保つことができる

デメリット

  • アップデートに時間がかかる場合がある

  • 互換性の問題が発生する場合がある

  • ストレージ容量を圧迫する場合がある

このように、「更新可能なソフトウェア」は、製品の可能性を無限に広げ、ユーザーに常に最高の体験を提供するための、重要なアプローチと言えるでしょう。


3.「成長する製品」がもたらす競争優位性

「成長する製品」は、企業に様々な競争優位性をもたらします。ここでは、主な競争優位性として、顧客エンゲージメント、市場対応力、イノベーション、社会貢献の4つの側面から解説し、「成長する製品」の優位性を強調していきます。

3.1 顧客エンゲージメントの強化

「成長する製品」は、顧客との長期的な関係構築を促進し、エンゲージメントを高める強力なツールとなります。

  • 継続的な関係性
    製品が進化し続けることで、顧客は飽きることなく、長期間にわたって製品を使い続けることができます。これは、顧客との継続的な接点を生み出し、深い関係性を築く基盤となります。

  • 双方向のコミュニケーション
    ソフトウェアのアップデートや新機能の追加を通じて、企業は顧客に新たな価値を提供し続けることができます。同時に、顧客からのフィードバックを収集し、製品開発に活かすことで、顧客参加型の製品開発を実現できます。

  • コミュニティ形成
    製品を軸としたコミュニティを形成することで、顧客同士の交流を促進し、ブランドへの愛着を高めることができます。

例えば、テスラは、ソフトウェアアップデートを通じて、顧客に新しい機能や性能向上を提供し続けています。また、オンラインフォーラムを通じて、顧客同士が情報交換したり、意見を述べたりできる場を提供しています。

3.2 柔軟な市場対応

市場のニーズやトレンドは常に変化しています。「成長する製品」は、変化する市場に柔軟に対応し、競争力を維持するための武器となります。

  • 迅速な製品改善
    ソフトウェアアップデートやモジュール交換などを通じて、製品を迅速に改善することができます。これにより、市場の変化や顧客のニーズに、より迅速に対応することが可能になります。

  • 新市場への参入
    製品をモジュール化することで、異なる市場のニーズに対応するバリエーションを容易に開発することができます。

LEGOは、ブロック玩具の代表格ですが、近年では、子供だけでなく大人も楽しめる高度な製品や、デジタル技術と融合した製品を展開することで、市場の変化に対応しています。

  • モジュール化による多様な製品展開
    LEGOは、基本的なブロックをモジュール化し、様々なテーマや年齢層に合わせた製品を開発しています。例えば、幼児向けの「LEGO DUPLO」、子供向けの「LEGO City」や「LEGO Friends」、大人向けの「LEGO Technic」や「LEGO Ideas」などがあります。このように、モジュール化によって、多様なニーズに対応した製品を効率的に開発し、市場の変化に対応しています。

  • デジタル技術との融合
    LEGOは、デジタル技術と融合した製品も展開しています。例えば、「LEGO BOOST」や「LEGO Mindstorms」は、プログラミングによってロボットを動かすことができる製品です。また、「LEGO Super Mario」は、専用のアプリと連動して遊ぶことができる製品です。このように、デジタル技術を取り入れることで、新たな顧客層を獲得し、市場の変化に対応しています。

https://www.lego.com/ja-jp/product/bumblebee-10338

このように、LEGOはモジュール化とデジタル技術の活用によって、市場の変化に柔軟に対応し、世界中で愛されるブランドであり続けています。

3.3 継続的なイノベーション

「成長する製品」は、企業に継続的なイノベーションを促し、競争力を強化します。

  • イノベーションのサイクル
    製品を継続的に改善していくという考え方は、企業にイノベーションのサイクルを生み出し、常に新しい技術やアイデアを追求するモチベーションを高めます。

  • 競争優位性の維持
    常に進化し続ける製品は、競合他社との差別化を図り、市場における競争優位性を維持するための強力な武器となります。

例えば、多くのゲーム会社は、ソフトウェアアップデートを通じて、ゲームに新しいコンテンツや機能を追加し、プレイヤーを飽きさせないようにしています。

3.4 社会貢献

「成長する製品」は、環境負荷を低減し、持続可能な社会の実現に貢献することができます。

  • 資源の有効活用
    製品寿命を延ばすことで、資源の消費を抑制し、廃棄物を削減することができます。

  • 環境意識の向上
    環境に配慮した製品を提供することで、企業は環境問題に対する意識を高め、社会的な責任を果たすことができます。

例えば、Patagoniaは、古着の回収・リサイクルプログラムを実施し、循環型経済を促進しています。

このように、「成長する製品」は、企業に様々な競争優位性をもたらし、持続的な成長を可能にする、未来志向の製品開発アプローチと言えるでしょう。


4.「成長する製品」の収益化モデル

「成長する製品」は、従来の製品とは異なる特性を持つため、それに合わせた収益化モデルを検討する必要があります。従来の製品は、購入時点で提供される価値がほぼ固定されていましたが、「成長する製品」は、ソフトウェアのアップデートやハードウェアのモジュール交換などによって、継続的に新しい価値を提供することができます。また、アップデートやアップグレードによって、長期間にわたって使用することができます。さらに、ユーザーのフィードバックを収集したり、ユーザー自身でカスタマイズしたりすることができるなど、ユーザーとの相互作用を重視した設計となっています。

これらの特性により、「成長する製品」は、従来の製品よりも高い顧客生涯価値(CLTV)を生み出す可能性を秘めています。そのため、収益化モデルにおいても、これらの特性を活かした戦略を立てる必要があります。これらの特性を活かした収益化モデルを構築することで、企業は「成長する製品」から大きな収益を得ることが可能になります。

ここでは、「成長する製品」に適した多様な収益モデルを、事例を挙げながら具体的に解説していきます。

4.1 プレミアム価格設定

「成長する製品」は、長期間にわたって使用できる、あるいは継続的に価値を提供できるという点で、従来の製品よりも高い価値を提供することができます。そのため、プレミアム価格を設定することが可能です。

  • 高価格帯の製品
    高機能・高品質な製品を、プレミアム価格で販売する。

  • ブランド価値
    ブランド力のある製品は、プレミアム価格でも顧客に受け入れられやすい。

  • 長期的な価値
    製品のライフサイクルが長いほど、顧客は総コストを抑えることができるため、プレミアム価格を許容しやすい。

事例:

  • テスラ
    高性能な電気自動車をプレミアム価格で販売し、ソフトウェアアップデートを通じて継続的に価値を提供している。

4.2 アップグレード料金

製品の機能や性能を向上させるためのアップグレードを有料で提供するモデルです。

  • ソフトウェアアップデート
    新機能の追加や性能向上のためのソフトウェアアップデートを有料で提供する。

  • ハードウェアアップグレード
    新しいモジュールや部品への交換を有料で提供する。

  • サブスクリプション
    定期的にアップデートやアップグレードを提供するサブスクリプションサービスを提供する。

事例:

  • Adobe Creative Cloud
    ソフトウェアをサブスクリプション制で提供し、常に最新バージョンを利用できるようにしている。

  • スマートフォン
    アプリ内の追加機能や、ストレージ容量のアップグレードを有料で提供している。

4.3 サービスとしての製品

製品を販売するのではなく、サービスとして提供するモデルです。

  • 利用料金
    製品の利用時間や回数に応じて料金を支払う。

  • サブスクリプション
    定額で製品をレンタルしたり、サービスを利用したりできる。

事例:

  • レントゲン装置
    レントゲン装置を病院に販売するのではなく、撮影回数に応じて料金を請求する。

  • コピー機
    コピー機を販売するのではなく、印刷枚数に応じて料金を請求する。

  • ソフトウェア
    ソフトウェアを買い切りで販売するのではなく、サブスクリプション制(SaaS)で提供する。

4.4 補完製品・サービス

製品本体に加えて、補完的な製品やサービスを販売することで収益を上げるモデルです。

  • アクセサリー
    ケース、カバー、ストラップなどのアクセサリーを販売する。

  • 消耗品
    インクカートリッジ、フィルターなどの消耗品を販売する。

  • メンテナンスサービス
    修理、点検、クリーニングなどのメンテナンスサービスを提供する。

  • トレーニング
    製品の使い方を学ぶためのトレーニングを提供する。

事例:

  • Apple
    iPhoneなどの製品に加えて、Apple WatchやAirPodsなどの補完製品、Apple MusicやiCloudなどのサービスを提供している。

  • ゲーム機
    ゲームソフト、追加コントローラー、オンラインサービスなどを販売している。

4.5 再販・改造サービス

製品を回収し、修理・再生して再販したり、ユーザーの要望に合わせて改造したりするサービスを提供するモデルです。

  • 中古品販売
    中古品を回収し、修理・再生して再販する。

  • アップグレード
    古い製品を回収し、新しい部品やモジュールに交換してアップグレードする。

  • カスタマイズ
    ユーザーの要望に合わせて、製品を改造する。

事例:

  • 中古車販売
    中古車を回収し、整備・修理して再販する。

  • パソコン再販
    中古パソコンを回収し、部品を交換したり、OSをアップグレードしたりして再販する。

これらの収益化モデルは、単独で用いられることもあれば、組み合わせて用いられることもあります。企業は、それぞれの製品の特性や市場の状況に合わせて、最適な収益化モデルを検討する必要があります。

「成長する製品」の収益化モデルを検討する際には、その特性を理解し、長期的な視点で顧客に価値を提供し続けることが重要です。


5. Job理論・デザイン思考・プロダクトマネジメント:「成長する製品」開発を成功させる鍵

「成長する製品」の開発を成功させるには、Job理論デザイン思考、そしてプロダクトマネジメント、この3つの考え方をバランス良く組み合わせることが重要です。まるで、それぞれが異なる楽器を奏で、美しいハーモニーを奏でるオーケストラのように、それぞれの考え方がそれぞれの役割を果たし、互いに連携することで、優れた「成長する製品」を生み出すことができるのです。

では、それぞれの考え方について詳しく見ていきましょう。

5.1 Job理論とは

Job理論とは、ユーザーが製品を購入する真の動機は、特定の「Job(仕事)」を達成するためである、という考え方です。ユーザーは、製品そのものが欲しいのではなく、その製品を使って何かを達成したいと考えている、という点に着目します。

例えば、ある人がドリルを買うとします。その人はドリルが欲しいのではなく、「壁に穴を開けたい」というJobを達成するためにドリルを購入するのです。

Job理論では、この「Job」を理解することが、ユーザーのニーズを捉え、製品開発を行う上で非常に重要だと考えます。

5.2 デザイン思考とは

デザイン思考とは、ユーザー中心のアプローチで、共感、問題定義、創造、プロトタイピング、テストといったプロセスを通じて、革新的なソリューションを生み出す手法です。

  • 共感
    ユーザーインタビューやフィールドワークなどを通じて、ユーザーのニーズ、行動、課題を深く理解します。

  • 問題定義
    収集した情報に基づいて、ユーザーの抱える真の課題を明確に定義します。

  • 創造
    アイデア発想やブレインストーミングなどを通じて、Jobを解決するための多様な解決策を検討します。

  • プロトタイピング
    アイデアを形にし、具体的な製品やサービスのプロトタイプを作成します。

  • テスト
    プロトタイプをユーザーに試してもらい、フィードバックを収集します。

5.3 プロダクトマネジメントとは

プロダクトマネジメントとは、製品のライフサイクル全体を管理し、顧客に価値を提供し続けるための戦略的な活動です。市場調査、顧客分析、製品戦略の策定、開発、リリース、改善などを含みます。

5.4 3つの考え方を「成長する製品」開発に活かす

これらの考え方を、「成長する製品」の開発にどのように適用すればよいのでしょうか?

  1. Job理論に基づいたユーザー理解
    ユーザーが製品に求めるJobを深く理解します。ユーザーインタビューやアンケート調査などを通じて、ユーザーが製品を使ってどのようなJobを達成したいのかを明確にし、そのJobを解決できるような製品を開発することで、顧客満足度を高めることができます。

  2. デザイン思考によるソリューションの創出
    Job理論で得られたユーザー理解を基に、デザイン思考のプロセスを通じて、ユーザーのJobを解決するソリューションを創出します。ユーザーの行動、課題を深く理解し、真の課題を明確に定義することで、最適な解決策を導き出すことができます。

  3. プロダクトマネジメントによる製品ライフサイクル管理
    「成長する製品」は、長期的な視点で製品を管理し、継続的に改善していく必要があります。プロダクトマネジメントは、製品のライフサイクル全体を管理し、顧客に価値を提供し続けるためのフレームワークを提供します。

5.5 具体的な手法の紹介

「成長する製品」の開発においては、Job理論、デザイン思考、プロダクトマネジメントの考え方を組み合わせ、様々な手法を活用することが重要です。

  • ユーザー調査
    ユーザーインタビュー、アンケート調査、行動観察などを通じて、ユーザーのJobやニーズを深く理解します。

  • プロトタイピング
    ペーパープロトタイプ、3Dプリンター、ソフトウェアプロトタイプなど、様々なツールを用いてプロトタイプを作成し、アイデアを検証します。

  • アジャイル開発
    短いサイクルで開発とリリースを繰り返すアジャイル開発を採用することで、市場の変化に柔軟に対応します。

  • MVP (Minimum Viable Product)
    必要最低限の機能を備えた製品を早期にリリースし、顧客からのフィードバックを収集することで、製品開発の方向性を修正します。

  • データ分析
    製品利用状況などのデータを分析することで、ユーザーの行動を理解し、製品改善に活かします。

Job理論、デザイン思考、そしてプロダクトマネジメントを効果的に活用することで、「成長する製品」の開発を成功に導くことができるでしょう。


6. 「成長する製品」が創造する未来 - 両利きの経営で持続可能な社会へ

「成長する製品」は、単なる製品開発のアプローチの一つではありません。それは、持続可能な社会、顧客中心主義、そして継続的なイノベーションを実現するための、重要な鍵となる可能性を秘めているのです。そして、それは企業が「両利きの経営」を実践し、持続的な成長を遂げるためにも、欠かせない考え方と言えるでしょう。

6.1「両利きの経営」で未来を掴む

「両利きの経営」とは、既存事業の深化と新規事業の探索を両立させることで、持続的な成長を図る経営手法です。

  • 既存事業の深化
    既存の製品やサービスを改善し、効率化を図ることで、収益性を高めます。「成長する製品」は、顧客との長期的な関係を育み、顧客生涯価値(CLTV)を高めることで、既存事業の深化に貢献します。

  • 新規事業の探索
    新しい製品やサービスを開発し、新たな市場を開拓することで、成長を促進します。「成長する製品」は、進化し続けることで、顧客の新たなニーズを捉え、新市場の開拓を可能にします。

まさに、「成長する製品」は「両利きの経営」を体現する、理想的なアプローチと言えるでしょう。

6.2 持続可能な社会の実現に向けて

大量生産・大量消費・大量廃棄の時代は終わりを告げようとしています。地球温暖化、資源枯渇、環境汚染など、地球規模の課題を解決するためには、持続可能な社会への移行が不可欠です。

「成長する製品」は、製品のライフサイクルを延ばすことで、資源の消費を抑え、廃棄物を削減することができます。また、修理やアップグレードを容易にすることで、製品を長く使い続けることを促進し、循環型経済の実現に貢献します。

6.3 顧客中心主義の深化

「成長する製品」は、顧客との継続的な関係性を築き、顧客の声を製品開発に反映することで、顧客満足度を高めることができます。

ソフトウェアのアップデートや新機能の追加を通じて、顧客に新たな価値を提供し続けることができます。また、顧客からのフィードバックを収集し、製品開発に活かすことで、顧客参加型の製品開発を実現できます。

6.4 イノベーションの加速

「成長する製品」は、企業に継続的なイノベーションを促し、競争力を強化します。

製品を継続的に改善していくという考え方は、企業にイノベーションのサイクルを生み出し、常に新しい技術やアイデアを追求するモチベーションを高めます。

常に進化し続ける製品は、競合他社との差別化を図り、市場における競争優位性を維持するための強力な武器となります。

6.5 未来への期待

「成長する製品」は、私たちの生活をより豊かに、より便利にするだけでなく、地球全体の未来にも貢献する可能性を秘めています。近い将来、私たちの身の回りには、「成長する製品」があふれているかもしれません。

  • AIを搭載した家電製品が、私たちの生活パターンを学習し、より快適な生活空間を提供してくれる。

  • 自動運転車が、交通事故を減らし、移動のストレスを軽減してくれる。

  • 個別化された医療機器が、病気の予防や治療に役立ってくれる。

そして、これらの製品は、常に進化し続け、私たちに新たな価値を提供してくれるでしょう。

「成長する製品」は、持続可能な社会、顧客中心主義、そして継続的なイノベーションを実現するための、希望に満ちた未来への道しるべとなるはずです。


今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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広瀬 潔(HBR Advisory Council Member)
いつも読んでいただき、ありがとうございます。この記事が少しでもお役に立てたら嬉しいです。ご支援は、より良い記事作成のために活用させていただきます。