心理的安全性:組織のパフォーマンスを上げる鍵
こんにちは。広瀬です。
あなたの会社では、社員一人ひとりが年齢や性別に関係なく、会議で自由に発言し、新しいアイデアを提案し、活発な議論を交わすことができていますか? 上司は、そのような環境を積極的に作っていますか?
残念ながら、多くの組織では、発言や提案に対するためらいや不安が少なからず存在し、それが組織の成長を阻害している可能性があります。会議で発言すると「出る杭」と見なされたり、発言内容が自分の負担を増やすだけだと感じたりする社員もいるかもしれません。
このような状況は、組織が本来持つ潜在能力を大きく制限してしまいます。なぜなら、組織のパフォーマンスを最大限に引き出す活発な意見交換や革新的なアイデアの創出は、まさに「安心して発言や行動ができる組織」、つまり「心理的安全性」が高い組織においてこそ生まれるからです。
本日は、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱し、近年、組織行動学においてますます注目を集めている「心理的安全性」について、ハーバード・ビジネス・レビューの論文「What Is Psychological Safety?」を基に、その本質、重要性、そして具体的な向上方法を、学術的な裏付けや事例を交えながら解説していきます。
この論文は、心理的安全性の定義から始まり、リーダーシップとの密接な関係、さらには組織における具体的な実践方法まで、多岐にわたる論点を網羅しています。 今日の内容を通して、あなたの組織における心理的安全性の現状を客観的に見つめ直し、より良い組織作りに向けた具体的な一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
特に、組織における「失敗」に対する考え方や、リーダーシップのあり方、そして組織文化の醸成など、具体的な事例や最新の研究成果を交えながら、あなたの組織変革の一助となるような実践的な情報を提供していきます。ぜひ、今日の内容を参考に、あなたの組織における心理的安全性の向上に取り組んでみてください。
心理的安全性の重要性
現代社会は、かつてないほどのスピードで変化しています。グローバル化、デジタル化、そしてAIの台頭は、企業を取り巻く環境を激変させ、従来のビジネスモデルや組織構造の陳腐化を加速させています。このような環境下で、企業が生き残り、成長していくためには、変化に柔軟に対応し、イノベーションを継続的に生み出すことが不可欠です。
しかし、多くの組織では、変化への対応やイノベーション創出を阻害する様々な課題が存在します。例えば、
失敗を恐れるあまり、新しい挑戦を避け、現状維持に甘んじてしまう。
上司や同僚の評価を気にして、自分の意見やアイデアを率直に言えない。
部署間の連携が不足し、組織全体としての協力体制が構築できない。
これらの課題は、組織の硬直化、創造性の低下、そして従業員のエンゲージメントの低下を招き、結果として組織のパフォーマンスを大きく損なう可能性があります。
このような状況を打破し、組織の潜在能力を最大限に引き出し、持続的な成長を実現するための重要な鍵となるのが、「心理的安全性」です。心理的安全性の高い組織では、メンバーが安心して発言や行動を起こせるため、活発な意見交換、革新的なアイデアの創出、そして迅速な問題解決が促進されます。これこそが、現代社会における企業の競争優位性を築く上で必要不可欠な要素と言えるでしょう。
心理的安全性の定義と概念
心理的安全性とは、一体どのような概念なのでしょうか。エドモンドソン教授は、それを「チームメンバーが、対人関係のリスクを冒しても安全だと感じる共有された信念」と定義しています。これは、率直な意見や質問、懸念、さらには間違いを表明しても、否定的な反応や報復を受けることなく、受け入れられると信じられる状態を指します。心理的安全性が確保された環境では、個人が安心して自己表現し、能力を最大限に発揮できるため、組織全体の活性化に繋がります。
心理的安全性の構成要素
心理的安全性を深く理解するためには、その構成要素を紐解く必要があります。
対人関係における懸念の払拭 これは、自分の発言や行動が、周囲からの評価や人間関係に悪影響を及ぼすのではないかという不安や懸念を指します。例えば、上司に反対意見を述べる、同僚の間違いを指摘する、あるいは自分の弱みや失敗を率直に打ち明けるといった行為は、このような懸念を生み出す可能性があります。心理的安全性の高い組織では、これらの行為が奨励され、建設的な対話へと繋がるため、個人が安心して発言や行動を起こすことができます。
揺るぎない安心感 これは、対人関係における懸念を払拭し、拒絶されたり、罰せられたり、無能だとレッテルを貼られたりしないと信じられる感覚です。この安心感が、メンバーの発言や行動を後押しし、組織全体の活力を高めます。
類似概念との比較
心理的安全性は、信頼やエンゲージメントといった概念と混同されがちですが、明確な違いがあります。
信頼
信頼は、相手が能力があり、誠実であり、善意を持っていると信じることです。一方、心理的安全性は、たとえ能力が不十分であったり、間違いを犯したりしても、受け入れられると信じられることです。つまり、信頼は個人の能力や人格に対する評価に基づくものであるのに対し、心理的安全性は、失敗や弱みを許容する組織文化に根ざしたものです。エンゲージメント
エンゲージメントは、仕事への熱意や献身を表します。心理的安全性がエンゲージメントを高めることはありますが、エンゲージメントが高いからといって、必ずしも心理的安全性が高いとは言えません。その理由として、以下の4つの要因が考えられます。成果主義・競争主義
成果主義や競争主義が強い組織では、個人のパフォーマンスが重視され、失敗や弱みを露呈することが許容されない雰囲気があるかもしれません。このような環境では、社員は高いエンゲージメントを示していても、安心して発言したり、助けを求めたりすることが難しい場合があります。リーダーシップスタイル
リーダーが権威主義的であったり、批判的な態度を取ったりする場合は、社員は萎縮してしまい、自分の意見やアイデアを自由に表現することができません。リーダーへの恐怖心から、表面上は熱心に仕事に取り組んでいても、内面では不安やストレスを抱えている可能性があります。組織文化
組織内に、失敗を許容しない、あるいは異なる意見を尊重しない文化が根付いている場合、社員はリスクを冒して新しいことに挑戦したり、率直な意見を述べたりすることをためらいます。このような組織では、社員は自分の役割をこなすことに集中し、エンゲージメントは高くても、心理的安全性が低い状態に陥ることがあります。個人の性格
責任感が強く、完璧主義的な性格の人は、周囲の目を気にして、自分の弱みや不安を隠そうとする傾向があります。このような人は、高いエンゲージメントを示していても、安心して自分の本音を打ち明けたり、助けを求めたりすることが難しい場合があります。
つまり、エンゲージメントは、個人の仕事に対する姿勢や意欲を表す指標であり、組織における心理的安全性の有無とは直接的な因果関係はありません。エンゲージメントが高い社員がいるからといって、その組織に心理的安全性が高いと判断するのは早計であり、注意が必要です。
心理的安全性は、組織における「安心の基盤」と言えるでしょう。この基盤が強固であれば、メンバーは安心してリスクを取り、学習し、成長することができます。逆に、この基盤が脆弱であれば、メンバーは萎縮し、組織の潜在能力は発揮されません。
次の章では、心理的安全性が組織にもたらす具体的な効果について、最新の研究成果や事例を交えながら解説していきます。
心理的安全性の効果
心理的安全性の向上は、単に個人の安心感をもたらすだけにとどまりません。それは、チームパフォーマンスの飛躍的な向上、組織文化の活性化、さらには組織全体の成長を力強く牽引する「触媒」としての役割を果たします。
チームパフォーマンスへの多面的効果
心理的安全性の高いチームは、学習、イノベーション、生産性など、様々な側面で優れたパフォーマンスを発揮します。
学習促進
心理的安全性が確保された環境では、メンバーは「無知だと思われるのではないか」「能力が低いと評価されるのではないか」といった不安を感じることなく、自由に質問したり、助けを求めたりすることができます。これにより、個人の学習意欲が高まり、チーム全体の学習が促進されます。イノベーション創出
新しいアイデアや意見を表明することは、常に拒絶や批判のリスクを伴います。しかし、心理的安全性の高いチームでは、そのようなリスクを恐れずに、メンバーが自由にアイデアを発信し、建設的な議論を交わすことができます。これにより、革新的なアイデアが生まれ、組織の競争優位性を高めることができます。生産性向上
心理的安全性の高いチームでは、メンバー間の信頼関係が強固であり、協力体制が自然と構築されます。互いに助け合い、補完し合うことで、個人の能力が最大限に発揮され、チーム全体の生産性が向上します。
組織文化の活性化
心理的安全性は、組織文化そのものをポジティブに変革する力も持ち合わせています。
部門を超えたコラボレーション
心理的安全性の高い組織では、メンバーは自分の意見やアイデアを共有することにためらいを感じず、積極的に発信します。これにより、部門や職種を超えた活発なコミュニケーションとコラボレーションが生まれ、組織全体の知識や経験を共有し、より質の高い意思決定へと繋げることができます。オープンで透明性の高い情報共有
心理的安全性の低い組織では、情報を隠したり、共有しなかったりする傾向があり、これが組織全体の効率性や生産性を低下させる要因となります。一方、心理的安全性の高い組織では、メンバーは積極的に情報を共有し、問題の早期発見や解決に貢献します。これにより、組織全体の迅速な対応力と問題解決能力が向上します。従業員エンゲージメントの向上
心理的安全性の高い組織では、メンバーは自分の仕事にやりがいを感じ、組織への貢献意欲を高めます。これは、離職率の低下や、組織全体のモチベーション向上に繋がり、組織の持続的な成長を支える重要な要素となります。
Google:心理的安全性の実証研究
心理的安全性の重要性を裏付ける実証研究として、Googleが実施した「プロジェクト・アリストテレス」が挙げられます。この研究では、数百のチームを対象に、効果的なチームの条件を徹底的に調査しました。その結果、最も重要な要素として「心理的安全性」が特定されました。心理的安全性の高いチームは、そうでないチームと比較して、より高いパフォーマンスを発揮し、革新的な成果を生み出す傾向があることが明確に示されました。
心理的安全性は、組織のパフォーマンス向上に不可欠な要素であり、組織の成長を加速させる「触媒」としての役割を果たします。リーダーは、自らの言動を通じて心理的安全性を高め、組織全体の成長を促進していく必要があります。次の章では、心理的安全性を阻害する要因について解説し、具体的な改善策を探っていきます。
心理的安全性を阻害する要因
心理的安全性の高い組織を築くためには、その効果を理解するだけでなく、安全性を阻害する「落とし穴」についても深く認識する必要があります。これらの要因は、組織の成長を阻む「静かなる毒」として、気づかないうちにチームや組織のパフォーマンスを蝕み、組織の活力を奪っていく可能性があります。
リーダーシップスタイルが及ぼす負の影響
リーダーの言動は、チームの心理的安全性に計り知れない影響を与えます。リーダーシップのスタイルによっては、意図せずとも心理的安全性を阻害してしまう可能性があるのです。
権威主義的なリーダーシップの弊害
リーダーが自分の意見を一方的に押し付けたり、部下の意見を軽視したりするような権威主義的な態度を取ると、メンバーは萎縮し、安心して発言することができなくなります。創造性や主体性が抑圧され、組織は停滞してしまいます。批判的な態度の悪影響
リーダーが常に批判的な態度を取り、失敗を厳しく責め立てるような環境では、メンバーはリスクを冒すことを避け、新しいアイデアや意見を提案することをためらいます。組織の学習能力が低下し、イノベーションが阻害されるでしょう。不透明なコミュニケーションが生む不信感
リーダーが情報を独占したり、曖昧な指示を出したりすると、メンバーは不安を感じ、安心して仕事に取り組むことができなくなります。情報の非対称性は、チーム内の不信感を増幅させ、協調性を損なう可能性があります。
組織文化に潜む罠
組織文化も、心理的安全性の形成に大きな影響を与えます。組織に深く根付いた文化や価値観が、心理的安全性を阻害する「見えない壁」となることがあります。
過度な競争主義の副作用
メンバー同士が過度に競争し、成果のみが比較されるような環境では、助け合いや協力の精神が育ちにくく、心理的安全性が低下する可能性があります。チームワークが損なわれ、組織全体の目標達成が困難になるでしょう。失敗への不寛容がもたらす停滞
失敗を許容せず、厳しく罰するような組織文化では、メンバーはリスクを冒すことを避け、創造性を発揮することが難しくなります。組織は学習機会を失い、変化への対応力が低下するでしょう。閉鎖的なコミュニケーションが招く孤立
部門間の連携が不足していたり、情報共有が活発に行われていなかったりするような閉鎖的な組織文化は、心理的安全性を阻害する大きな要因となります。組織内のサイロ化が進み、シナジー効果が生まれにくくなります。
個人の特性が及ぼす影響
個人の特性も、心理的安全性の感じ方に影響を与えます。個々のメンバーが持つ不安や自信のなさは、心理的安全性の低い組織においてさらに増幅される可能性があります。
不安がもたらす萎縮
不安感が強い人は、他者の評価を過度に気にしたり、失敗を恐れたりするため、心理的安全性を低く感じる傾向があります。その結果、能力を十分に発揮できず、組織への貢献機会を逃してしまう可能性があります。自己効力感の低さが生む消極性
自己効力感とは、「自分には目標を達成する能力がある」と信じられる感覚です。自己効力感が低い人は、自分の能力に自信がなく、リスクを冒すことを避けがちです。チャレンジ精神が阻害され、成長の機会が失われてしまいます。
これらの要因は、複雑に絡み合いながら心理的安全性を阻害し、組織の成長を妨げる可能性があります。リーダーシップスタイル、組織文化、個人の特性、それぞれの側面から問題点を深く理解し、組織全体で改善に取り組むことが、真に力強い組織を築く上で不可欠です。
次の章では、心理的安全性を高めるリーダーシップについて解説し、リーダーがどのように組織変革を牽引できるのかを具体的な事例や研究成果を交えながら探っていきます。
心理的安全性を高めるリーダーシップ
心理的安全性の高い組織を築く上で、リーダーシップは極めて重要な役割を果たします。リーダーは、自らの言動を通じて、メンバーが安心して発言や行動を起こせる環境を創り出す必要があります。本章では、心理的安全性を高めるリーダーシップの具体的な要素を掘り下げ、リーダーが組織変革を推進する「羅針盤」となるための具体的な指針を示します。
脆弱性を示すリーダーシップ
リーダーは完璧である必要はありません。むしろ、自身の弱みや失敗、未熟さをオープンに共有することで、メンバーとの間に心理的な繋がりを築き、安心感を与えることができます。リーダーが自分の弱さを認めることで、メンバーも安心して自分の弱さをさらけ出すことができ、率直なコミュニケーションが促進されます。これは、リーダーが「完璧な存在」であることを求められる従来のリーダーシップ像からの脱却を意味します。
失敗談の共有
過去の失敗談やそこから得られた学びを共有することで、失敗を恐れることなく挑戦できる雰囲気を作り出します。失敗は成長の糧であることを示し、メンバーの挑戦意欲を高めます。未熟さの表明
特定の分野に関する知識や経験の不足を率直に認め、メンバーからの意見や提案を求めることで、メンバーの主体性を引き出し、チーム全体の知識や経験を活かすことができます。感情の共有
仕事上の悩みや不安、喜びなどを共有することで、メンバーとの共感を深め、信頼関係を構築します。リーダーも人間であることを示すことで、メンバーとの距離を縮め、心理的安全性を高めます。
積極的な傾聴と質問
リーダーは、メンバーの声に真摯に耳を傾け、積極的に質問を投げかけることで、メンバーの意見やアイデアを尊重する姿勢を示すことができます。これにより、メンバーは自分の意見が大切にされていると感じ、安心して発言できるようになります。リーダーは、一方的に指示を出すのではなく、対話を通じてメンバーのエンゲージメントを高める必要があります。
傾聴スキル
メンバーの発言を遮ることなく、最後まで注意深く聴き、共感的な態度を示します。相手の言葉だけでなく、表情や声のトーンからも感情を読み取り、理解に努めます。オープンエンドの質問
メンバーの思考を深め、新たな視点やアイデアを引き出すような質問を投げかけます。「なぜそう思うのか」「他にどのような可能性があるか」など、多角的な視点からの意見を引き出すことが重要です。肯定的な反応
メンバーの発言に対して、感謝の気持ちや共感を示し、積極的な姿勢を促します。たとえ意見が異なる場合でも、まずはその意見を受け止め、建設的な対話へと繋げることが大切です。
建設的なフィードバックと感謝
リーダーは、メンバーの成長を支援するために、建設的なフィードバックを提供する必要があります。同時に、メンバーの貢献に対して感謝の気持ちを伝えることで、モチベーションを高め、安心感を与えることができます。効果的なフィードバックと感謝の表明は、メンバーのエンゲージメントを高め、組織への貢献意欲を向上させます。
具体的かつ行動可能なフィードバック
抽象的な評価ではなく、具体的な行動や成果に基づいたフィードバックを提供します。改善点だけでなく、強みや成果についても具体的に伝えることで、メンバーの成長を促します。成長志向のフィードバック
メンバーの強みや改善点を指摘し、今後の成長を支援するようなフィードバックを行います。過去の失敗を責めるのではなく、未来に向けた具体的なアドバイスを提供することが重要です。感謝の表明
メンバーの貢献に対して、具体的な言葉で感謝の気持ちを伝え、その価値を認めます。感謝の言葉は、メンバーのモチベーションを高め、組織への帰属意識を育む上で非常に重要です。
包容的な環境づくり
リーダーは、多様性を尊重し、誰もが安心して発言や行動を起こせる包容的な環境を築く必要があります。多様な視点や価値観を受け入れることで、組織の創造性と革新性を高めることができます。
多様性の尊重
性別、年齢、文化、経験などの違いを尊重し、多様な視点や価値観を受け入れる姿勢を示します。メンバー一人ひとりの個性を認め、それぞれの強みを活かせるような環境を整備します。インクルーシブなコミュニケーション
誰もが参加しやすい雰囲気を作り、意見やアイデアを自由に交換できる場を提供します。会議の進め方やコミュニケーションツールなどを工夫し、全ての人が安心して発言できる環境を整えます。公平な評価と機会
メンバーの貢献を公平に評価し、能力や成果に基づいた昇進や役割分担を行います。個人の能力や成果を正当に評価することで、メンバーのモチベーションを高め、組織への信頼感を醸成します。
これらのリーダーシップを実践することで、リーダーは心理的安全性の高い組織文化を醸成し、メンバーの能力を最大限に引き出すことができます。心理的安全性の向上は、組織のパフォーマンス向上だけでなく、従業員の幸福度向上にも繋がり、持続的な成長を実現するための重要な基盤となります。
組織における心理的安全性の向上
リーダーシップと並んで、組織文化の変革や具体的な施策の実施は、心理的安全性の向上に必要不可欠です。組織全体で意識的に取り組み、継続的な改善を図ることで、心理的安全性は組織に深く根付き、まさに植物の成長を支える「肥沃な土壌」のように、組織の持続的な成長を力強く支える基盤となります。
組織文化の変革
心理的安全性の高い組織文化を築くためには、従来の考え方や慣習を見直し、新たな価値観を組織に浸透させる必要があります。
オープンなコミュニケーションの奨励
率直な意見交換や建設的な議論を奨励し、多様な視点やアイデアを受け入れる文化を育みます。そのためには、定期的な対話や意見交換の場を設け、自由に発言できる雰囲気を作り出すことが重要です。立場や役職に関係なく、誰もが自分の考えを安心して表明できる環境を整えましょう。失敗を成長の糧とする文化
失敗を個人の責任として責めるのではなく、組織全体の学習機会と捉え、改善につなげる文化を醸成します。失敗から得られた教訓を共有し、組織全体の知識や経験として蓄積することで、さらなる成長を促します。「失敗は成功の母」という言葉を体現する組織を目指しましょう。透明性の確保による信頼関係の構築
組織の目標や戦略、意思決定プロセスなどを積極的に開示し、メンバーが安心して仕事に取り組める環境を整備します。情報共有を促進することで、メンバーの主体性を高め、組織への信頼感を醸成します。透明性の高い組織運営は、メンバーの不安を取り除き、エンゲージメントを高める効果も期待できます。
チームビルディングと相互理解の促進
チームメンバー間の相互理解を深めることも、心理的安全性の向上に繋がります。
チームビルディング活動
共通の目標に向かって協力する体験を通じて、メンバー間の信頼関係を築き、一体感を醸成します。チームビルディング活動は、メンバー同士の親睦を深めるだけでなく、お互いの強みや弱みを理解し、協力し合うことの重要性を認識する貴重な機会となります。相互理解を深めるワークショップ
メンバー同士の価値観や強み、弱みを理解し合うことで、お互いを尊重し、安心して協力できる関係を築きます。自己開示や相互フィードバックを通じて、チーム内のコミュニケーションを円滑にし、心理的安全性を高めます。1on1ミーティング
上司と部下が定期的に1対1で対話し、仕事上の課題や悩み、キャリアプランなどを共有することで、信頼関係を構築し、安心して相談できる環境を作ります。1on1ミーティングは、個々のメンバーの状況を深く理解し、適切なサポートを提供する上で非常に有効な手段です。
具体的な施策 - 実践的なアプローチ
心理的安全性を高めるためには、具体的な施策を継続的に実施していくことが重要です。
振り返りミーティング
プロジェクトやタスクの終了後に、チームで振り返りを行い、成功要因や改善点を共有します。失敗を責めるのではなく、建設的なフィードバックを交わすことで、学習を促進し、チーム全体の成長に繋げます。匿名でのフィードバック収集
メンバーが安心して意見や提案を表明できるよう、匿名でのフィードバック収集システムを導入します。これにより、率直な意見を集め、組織改善に役立てることができます。表彰制度
メンバーの貢献を積極的に認め、表彰する制度を設けることで、モチベーションを高め、組織への帰属意識を醸成します。具体的な行動や成果を評価し、公正な評価システムを構築することが重要です。相談窓口の設置
メンバーが安心して悩みや不安を相談できる窓口を設置し、必要なサポートを提供します。専門家によるカウンセリングや、メンター制度などを導入することで、メンバーのメンタルヘルスにも配慮した組織作りを目指します。
ピクサー:心理的安全性向上の取り組み
ピクサー・アニメーション・スタジオでは、「ブレイン・トラスト」と呼ばれるミーティングを通じて、心理的安全性を高め、作品制作における創造性を最大限に引き出しています。このミーティングでは、率直な意見交換と建設的な批判が奨励され、作品をより良いものにするために、メンバーが安心して自分の意見やアイデアを共有できる環境が整えられています。
心理的安全性の向上は、一朝一夕に達成できるものではありません。リーダーシップ、組織文化、具体的な施策など、多角的なアプローチを通じて、組織全体で継続的に取り組むことが重要です。本稿で紹介した内容を参考に、ぜひあなたの組織でも心理的安全性の向上に取り組み、持続的な成長を実現してください。
まとめ:心理的安全性の未来
現代社会における組織の成功には、心理的安全性の構築が不可欠です。変化の激しい時代において、組織が競争力を維持し、成長し続けるためには、社員一人ひとりが安心して発言し、行動し、能力を最大限に発揮できる環境が必要です。心理的安全性の向上は、個人の成長を促し、チームのパフォーマンスを高め、組織全体のイノベーションを加速させるだけでなく、従業員のエンゲージメントを高め、組織への帰属意識を育むことにも繋がります。
今後の研究課題と展望
心理的安全性に関する研究は、近年ますます盛んになってきていますが、まだ多くの未解明な領域が残されています。今後の研究では、以下の点が特に重要となるでしょう。
心理的安全性の測定方法の高度化
心理的安全性をより正確かつ多角的に測定するためのツールや指標の開発が求められています。定量的なデータと定性的な情報を組み合わせ、組織やチームの状況に応じた適切な評価を行うことが重要です。多様な組織文化における心理的安全性の影響
異なる文化や価値観を持つ組織において、心理的安全性はどのように機能するのか、さらなる研究が必要です。グローバル化が進む現代において、多様な文化背景を持つメンバーが安心して働ける組織づくりは、企業の競争力向上に直結する重要な課題です。心理的安全性の長期的な効果
心理的安全性の向上は、組織の長期的な成長や持続可能性にどのような影響を与えるのか、長期的な視点からの研究が重要です。短期的な業績向上だけでなく、組織のレジリエンス(回復力)やイノベーション能力の向上など、長期的な視点での効果検証が求められます。AIや自動化技術の進展が心理的安全性に与える影響
AIや自動化技術の導入は、職場における人間関係やコミュニケーションにどのような影響を与え、心理的安全性をどのように変化させるのか、新たな研究課題として浮上しています。テクノロジーの進化がもたらす変化に対応し、人間とAIが共存する新たな働き方における心理的安全性の確保が、今後の重要なテーマとなるでしょう。
これらの研究課題に取り組むことで、心理的安全性の概念はさらに深化し、より効果的な組織開発や人材育成に貢献することが期待されます。
最後になりますが、心理的安全性の向上は、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、リーダーシップ、組織文化、具体的な施策など、多角的なアプローチを通じて、組織全体で継続的に取り組むことで、必ず実現できます。本稿で紹介した内容を参考に、ぜひあなたの組織でも心理的安全性の向上に取り組み、一人ひとりが安心して能力を発揮できる、活力に満ちた組織を築いてください。
組織の未来は、そこに集う人々の力にかかっています。心理的安全性の高い組織を築くことは、社員一人ひとりの可能性を引き出し、組織全体の成長を加速させるだけでなく、より良い社会の実現にも貢献することになるでしょう。
補足:心理的安全性を測定する7つの質問
エドモンドソン教授は、心理的安全性の度合いを測るための具体的な質問をいくつか提示しています。これらの質問は、組織やチームにおける心理的安全性の現状を把握し、改善に向けた具体的なアクションを検討する上で役立ちます。
7つの質問
職場で、あなたは自分の考えや意見を安心して表現できますか?
あなたは、必要な時に助けを求めることができますか?
あなたは、ミスや問題を指摘しても、責められる心配はありませんか?
あなたは、新しいアイデアやアプローチを提案することに抵抗を感じませんか?
あなたは、職場で実験やリスクに挑戦することができますか?
あなたは、職場で自分らしくいることができますか?
あなたは、人々があなたの意見に耳を傾け、真剣に受け止めてくれると感じますか?
回答方法と活用
これらの質問に対する回答は、一般的にはリッカート尺度を用いて行われます。リッカート尺度とは、各質問に対して、「強くそう思う」「そう思う」「どちらでもない」「そう思わない」「全くそう思わない」といった5段階の選択肢から、自分の考えに最も近いものを選ぶ形式です。
これらの質問を用いた調査を実施することで、組織やチームにおける心理的安全性の現状を定量的に把握することができます。また、質問項目ごとに回答を分析することで、心理的安全性を阻害している具体的な要因を特定し、改善に向けた対策を検討することができます。
例えば、
「ミスや問題を指摘しても、責められる心配はありませんか?」という質問への回答が低い場合は、失敗を許容しない組織文化や、リーダーの批判的な態度が心理的安全性を阻害している可能性が考えられます。
「新しいアイデアやアプローチを提案することに抵抗を感じませんか?」という質問への回答が低い場合は、過度な競争主義や、アイデアを自由に発信できる環境の不足が心理的安全性を低下させている可能性があります。
これらの分析結果を基に、リーダーシップ研修の実施、組織文化の変革、コミュニケーションツールの導入など、具体的な改善策を検討し、実行していくことが重要です。
ただし、これらの質問はあくまで一つの指標であり、心理的安全性の全てを測るものではありません。組織やチームの状況に応じて、質問内容をカスタマイズしたり、他の測定方法と組み合わせたりすることで、より精度の高い評価を行うことができます。
今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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