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ニキビが遺書に変わって大恋愛に至った

大学3回生のある朝、鏡を見たら右のほほだけリスになっていた。

誰がどう見てもアシメトリーな顔。その正体はニキビだった。

え?ニキビってこんな腫れるっけ?

あ、蜂?ニキビじゃなくてなんかに刺されたとか?痛くないけど。

皮膚科で診てもらったら

「おできやね。中の膿取るね。」

ということで処置室に連れていかれ、力づくに膿を搾り取られる。

出産ってこんな感じなのかな?というくらい痛かったが、我慢強い性格故ひたすら涙目になりながら歯を食いしばって乗り切った。

全部の膿を出し終わり、先生が思いがけないことを聞いてきた。

「もしかして歯悪い?」

は?歯ですか?

そーいや数日前に虫歯が痛んで歯医者に行ったところだ。

「虫歯があって今度治療してもらう予定ですが?」

「虫歯の菌が侵食してきて腫れたんやね。もう皮膚科でも普通の歯医者でも対応できへんから大学病院の口腔外科にすぐ行ってきて。紹介書書くから。」

航空外科?

飛行機?空?歯と空関係ある?飛行機扱える人は歯も扱えるってこと?

聞きなれない単語な上に「大学病院」という大層なワードが出てきて頭はパニック。

その夜まだ右だけリス顔でバイトに行き、バイトの先輩に一連の出来事を話した。すると、

「あ!この前虫歯で死んだ人の話TVで見た!」

死・・・?!

その方は虫歯放置した結果体の他にも菌が周り、体中パンパンに腫れて亡くなったそうだ。

ちょっと待ってくれ!!!同じ状況やないか!!!

体全体はまだ腫れてないにしても現に右頬はパンパンやないか!!

これもうABCでゆうたらCくらい行ってんじゃないの?

まさかニキビだとなめてかかっていたものが「死」の予感だったなんて。。。

死ぬ?私が?この歳で?親より先に?もしかしたら明日にでも?

人生で初めて「死」と向き合った瞬間だった。

飼っていた猫のニャンが死んだ時、死の悲しさを知った。

祖母が亡くなった時、生の重みを感じた。

しかしそれが自分にも来る。しかも21という若さで。

想像もしていなかった。ショックだった。というか衝撃だった。

看取ったニャンも祖母も大往生だったので、勝手に自分も年老いて死ぬものだと思っていた。

その日は嗚咽がするほど泣きながら家に帰った。両親に申し訳ない・・・。

しかし明日死ぬかもしれないのだ。泣いてばかりいられない。今私ができることは何だろう?

そうだ!友人家族に遺書を書こう!みんなに感謝の気持ちをのべよう!

そう思い、一番仲良しだった友人に遺書を書き始めた。遺書を書きながら涙がまた止まらない。伝えたい想いもとめどなく出てくる。

結局その日は一人だけで力尽きてしまった。

翌日暗い顔で大学病院に向かう。

もう私は死ぬのだ

そう絶望の淵にいながらも生きることを諦めきれず、午後の大学のテスト勉強をしながら順番が来るのを待っていた。

名前が呼ばれ処置室に向かう。先生は無表情で口の中を診る。

しかめもしないし笑いもしない。

「歯茎が腫れてるから今日は点滴だけしておいて歯茎の腫れが引いたら処置しますね」

ナニソノフツウノタイオウ?!

「え?私助かるんですか?」

「点滴したら腫れも引いてくると思いますよ。1週間後また来てください。薬も出しておきます」

助かるんかい!!!!!

それまでの緊張という氷が全部とけて一気に水、いや気体になって蒸発した。

なんやった?昨日の涙。なんやった?遺書。

昨日からの1人相撲に幕を閉じた(笑)

薬をもらって帰ろうとしたら処置室にいた一人の先生が声をかけてきた。

「何か不安なことがあったらいつでも連絡ください」

そんなに不安そうな顔をしてたのか。。。優しい先生やな。

渡された紙にはメールアドレスが書かれていた。個人の。

え?ナンパ?!

ついさっきまで生と死のはざまを生きていた私にナンパ?!

人生何が起きるのか分からない。

案の定メールをして(ええ、顔は割とタイプだったので)、お付き合いが始まった。

どうやら死にそうな顔をしながらも待合で勉強している姿に心打たれたらしい。

人とのご縁はどこで生まれるか分からない。

無事虫歯の治療も終わり、遺書は処分した。

お付き合いは長くは続かなかったが、人生で一番と言えるほどの大恋愛だった。

そしてこの2日間の生死さまようバタバタ劇で一番学んだ教訓がある。

虫歯はくれぐれも放置しないように。




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