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ドロドロした業界の、キラキラした部分。
フジテレビに溜まっていたヘイトが一気に吹き出したせいか、ネットメディアは今日も飽きずに「フジテレビは変わるべきだ報道」に終始している。
フジ出身の長谷川豊が、今日も瀕死の古巣に容赦なくガソリンを浴びせかけているが、そっちはそっちの専門家に任せたい。復讐したいなら勝手にすればよかろう。ホリエモンも長谷川も多分に私怨が混じってて、相手を一度も否定しないから共闘関係が透けてみえる。
「それは違うよ、長谷川さん」とか「おっしゃる通りです。でも堀江さん」と2、3点、軽い否定を挟んでおけば、もっとニュートラルに見られたものを。なんか「お前ら、よく聞け、これは批判せねばならぬ社会的問題だ」と世論を誘導してやろうというが匂いが強すぎてね。勝手にしたらと思っちゃった。相変わらず、ホリエモンは世論誘導が下手である。
前回も書いたが、フジテレビが復活しようがつぶれようが、たいていの人には関係ない。自分の業界と関係あるところで怒ったり、これからの変化を読み解いたり、対策を練ったりするべきで、全く関係ない門外漢は「なぜ俺はフジテレビに怒ってるのか」を今一度考えたほうがいい。たいてい煽られて怒らされていることが多いから。
さて、わしらプロパガンダ屋にとって、関係のあるところで言えば、これからのタレント広告である。
文春が次々と大物タレントをスキャンダルで討ち取っているが、これを笑って見ていられるのは、営利関係がない人だけ。所属事務所や広告代理店、タレント起用でブランドイメージとやらをつくってきた企業にとっては「まずいことになってきたな」という状況だ。
長谷川豊がフジテレビ批判のなかでちょっと触れていたが、フジで新番組の企画が持ち込まれた時、上は「で、誰つかうの?」と内容度外視でタレントの起用しか眼中にないスタンスらしい。「これじゃ新しい企画は、どんどん他局にもっていかれる」とか長谷川は言っていたが、このときばかりは、ああ、広告業界だけじゃないんだな。と、思った。
我が国は、というか、韓国もだけど、テレビのバラエティ番組やドラマが芸能人主導でつくられる。 CMも「芸能人ありき」で作るのが当たり前になっている。両国ともに「アイドル文化」「スター文化」が発展して、企業は「推し文化」を広告に活用。違いがあるとするなら、K-POPグループがグローバル展開してるので、タレント広告も国境を超え始めているところ。とくに韓国では、BTS・BLACKPINKなんかを「国家ブランド戦略」としても活用してるからなおのこと、タレント広告が、というかタレント依存が甚だしい。
「いいじゃん。私、TWICE好きだからTWICEもっと使ってほしい」なんて、いうのは正直な意見として受け止めよう。だがね、お嬢さん。あなたはいいけど、企業はTWICEに依存しすぎると、TWICEと共に死ぬんだよ。
「それでもいいじゃん」と言われれば、まあ、そこまでなんだが、企業にとっちゃあ、タレント依存はリスクが大きすぎる。とくに昨今。
企業がちょっとした失言で集中砲火を浴びるようになったけど、タレントもまた然りである。フワちゃんがSNSで「死んでくださーい」とリポストしただけで、「消えてくださーい」と世間から消しゴムマジックされてしまった。タレントの不祥事でCM差し止めなんて、大なり小なりあった話ではあるが、これまでとはわけが違う。大手事務所やメディアの圧力による、もみけしマジックが通用しなくなってきたからだ。
タレント依存はリスクが大きすぎる、というわかりやすい例が、ソフトバンクだろうか。
ソフトバンクの広告戦略は「タレント依存」の最たる例だ。
「白戸家シリーズ」 は、2007年のスタート以来ずっとタレントありきの広告展開を続けてきた。犬のお父さん、上戸彩、ダンテ・カーヴァー、北大路欣也……すべてが「顔」。CMが話題になるのは、ストーリーやアイデアではなく、「こんどは話題のこの人が登場するんだ」というキャスティングが中心だった。
キャスティングが企画の中心に据えられた、典型的なタレント依存のノー企画CM。いやいや企画はあるだろう、という反論はあるだろうが、はっきり言ってCMだから見逃される、そのタレントだから許される、ぬるま湯コントのレベルである。タレント使って、うまいことやってんだがね。過去は良かった。好評だったのは事実。でも今後は危ういよ。マンネリ化した今、それがクリエイティブだと胸をはって言えるかね。
タレント広告が悪である、という話がしたいわけじゃない。ただ、そこにはもうリスクしかないんじゃないかって話をしたい。
お嬢ちゃんが大好きなTWICEを起用したけりゃ起用すればいい。で、TWICEが飽きられたら、NewJeanを使えばいいさ。でも、アイドルが好きだから、その企業が好きって、本当に企業の好感度を作れてるってことになるのかね。話題のタレント起用するって言えば聞こえがいいだけど、話題のタレントを使い続けられる金があるってアピールにしかなっていないと思うよ。
そもそも革新性を大切にする企業が、どんなタレント使ったかだけが話題になるマンネリ広告を流すのは、どうかと思う。マンネリをちょっとでも感じたら即アップデートするのが孫正義でしょうが。
タレントを企業の顔にするのは効きまくるけどさ、クリエイティビティや挑戦を謳う企業なら、アイデアや表現で勝負すべきなんだよね。そっちにお金を使ってほしい。
フジテレビが有力な芸能人を女子アナ漬けにしたように、広告代理店は有力な企業をタレント漬けにしたのだと思う。人気になる番組や効果のあるCMは、有名タレントありきと相場が決まっている、とテレビや代理店に洗脳されている。
その結果どちらの業界でもクリエイティブが力を失った。大したタレントが使えない企画モノってうまくいけば爆発力あるけど不安定、タレントものってキムタクがいるってだけで、ほぼ一定の成功は確約される。だから、タレントものに流されるのは自然で、タレントありきの番組やCM、まだまだ力はあるし、別に全否定はしない。
だけどさ。
テレビ番組で腹を抱えて笑ったり、泣いたりして、その時の感動が、まだ胸に残ってて、だから俺テレビ局に入ったんですって人がいる。広告業界にも、大好きなCMがあって、憧れて、いつかあんなCMがつくりたいと思って、広告業界を志した人がいる。
でも、今の若者が、今のテレビに憧れるかな。
んで、もし、若者がテレビにも広告にも憧れなくなったら、わしらの業界は、どうなるんだろうね。
憧れを失った業界に、未来はない。
なんてことを考えながら、キラキラした気持ちで、机に向かおうと思う。
もうすぐ25時。明日提出の企画書が、まだ、白く輝いている。
さて、きょうの音楽は、Ahmad Jamal "I Love Music"
つくる喜びを、思い出して。