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映画「正体」 | レビュー

本当に良かった、たくさんの方に見てほしい。
Netflixで配信された亀梨和也さんのものがとても好きだったので、映画の正体はどうなるのだろうと気になっていました。しかも藤井道人監督。
見に行って、足を運んでとても良かったと感じたので残していきたいと思います。

※ここから先はネタバレを含む表現があります。ご注意ください。

冒頭の問いかけは私達へ向けられたものだろう。
「なぜ気づかなかったのか」山田孝之さん演じる又貫にそう問いかけられ言葉に詰まる。
凶悪な殺人犯が逃走している。そんなニュースを目にしていても、まさか自分の周りにはいないだろう、と私でも思ってしまう。
いろんな感情を抱え流れていく日常に、何気なく現れた青年のことなんて気にも留めないだろう。
人はそれほど周りに無関心で、かつ自分のことにも無関心なのだと言われているようだった。
それが危険なのだと。信じるとはなんなのか、疑うとはなんなのか。何を根拠に信じ、人は疑うのか。
私もきっと答えることなんてできない。
ーー
やりとりの中、必ず流れていたのは、脱走した死刑囚のニュース。目にしていても気に留めることもなく流れていく日常を少しの違和感が変えていく。
鏑木と似たところにほくろがある、背中に傷がある、左利き。
その違和感が確信に変わる瞬間。
その流れがあまりにも生生しくて鳥肌が立ってしまった。

脱走した鏑木は、殺人の罪で死刑囚となっていた。彼はなぜ逃げたのか。なんのために走っているのか。
段々と見えてくる鏑木の目的を知った時、ふと思った。

私は私のために頑張れるのだろうかと。鏑木のように行動を起こし、自らの罪を自らの手で変えようと思えるだろうかと。
脱走を企て、変装をし息を潜めて生活する、目的のために。
私ならきっと諦めてしまう。
だからこそ、鏑木という信念を持った人間に惹かれ突き動かされるのだろう。
ーー
冒頭でもお伝えした通り「正体」はNetflixで配信されていた。主演は亀梨和也、全4話で構成されている。映画版の主演を務めたのは横浜流星。
映画版で私が特に心を動かされたのは、ラストの面会のシーン。
野々村の時は友人の顔を。酒井の時は職場の先輩の顔を。そして安藤の時は愛しい人を見つめる顔をしていた。この細かい表情や心情の変化をしっかりと目に見てとれたことにとてつもなく感動してしまった。

また、映画ともなるとどうしても細かい部分を無くさなければならない。例えば、野々村や酒井との関係性の構築にはあまり時間が取られていなかった。
それでも、彼らが鏑木を信用しているのは、そこにいた鏑木が真面目で誠実で優しさに溢れていたからだろう。

田島亮演じる週刊誌の記者、黒島の存在も忘れてはいけない。一度は警察に通報したが、彼も彼なりにこの事件を追っていたのだろう。ラストの傍聴席、又貫の後ろに座り、判決に手を叩いていた。
ーー
鏑木は5つも顔を持ち逃亡した、その道のりは長かった。
そのことを示したかのように、判決の一番重要な言葉は静寂として表現されている。
この静寂で、鏑木の逃げてきた道が走馬灯のように浮かんできた。息を潜め、目的のために日常に溶け込む。
いつ見つかるのかわからない恐怖の中、「やっていない」そのことを証明するために。
そしてラストの横浜流星の表情で、彼の戦いは終わったのだと感じられる。

彼が逃亡した「真相」をぜひ映画館で見てほしい。


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斉藤 恵里佳/Saito Erika
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