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部活のその日は風邪をひきたかった
noteの「#部活の思い出」というお題を見つけて部活のことを思い出してみた。果たして自分に部活のいい思い出はあっただろうかと自問した。そして、「思い出」を辞書(大辞林)を引いてみた。
おもいで【思い出】〔「想い出」とも書く〕
①前にあった出来事や体験を心に浮かべること。また、その内容。追憶。追想。「━にふける」
②昔を思い浮かべる材料となる事柄。「一生の━となる」「━の品」
必ずしも良い思い出だけが思い出ではないことを確認したので書きはじめることにする。
小さい頃から野球が好きで中学生に入学するとすぐに野球部に入部した。大好きな野球が思い切りできると思いわくわくして入部したのだが、入部直後は野球がほとんどできない全くの地獄だった。
先輩のレベルが高いということもあったが、入学した中学校そのものが県内でも有名な荒れた中学校だった。自分では認識がなかったが、比較して体力も身長も小さいわたしからみる3年生の先輩は大人のようだった。
入部してからの仕事(あえて仕事と書きたい)はグラウンドの裏にある田んぼからボールを拾うというものだった。バックネットはあったが打ったボールは簡単にそれを超えて裏にある田んぼに飛んで行った。そのおかげで新品のユニフォームにはグラウンドの土ではなくグラウンドの裏の田んぼの泥が大量についていた。
ボール拾いで1日が終わる日も多かったが、ボール拾いから解放されてもグラウンドの端に立って「ウエーイ」とか「さぁーいこー」とか「うおー」とか今思えば何の意味かわからない掛け声を声が枯れるほどかけ続けていた。いや、この掛け声ボール拾いの仕事中もやっていたと思う。狂ってる。つまり部活が終わるまでこういうことが続いた。練習が終わりグラウンド整備をした後にやっと少しだけキャッチボールができた。
今思えば本当に何のためにやっていたのだろうと思う。まともに練習ができない同期のみんなと「2年生になればまともに練習ができる」と励ましあっていたかもしれない。
入部してしばらくして同じ1年生が遅刻をしたか、急に部を休んだかというきっかけで、上級生である2年生に全員呼び出された。厳しく叱られた後に全体責任ということで部室で全員ケツバットをされた。
若い野球部経験者や野球のことを知らない人は聞いたことがないかもしれないが、「ケツバット」とは言葉の通り「ケツ」である「お尻」をバットで叩くことだ。それもフルスイングである。バットは球を打つもので「ケツ」を打つものではない。これは野球ではないイジメである。もちろん現代だとYahooニュースになるくらいの大事件になるだろう。
正直にいうとここには書けないくらいのもっと酷いことをされた。そのケツバットは1年生が何か粗相をすると実行されることになっていた。例えば重合の号令に数秒遅刻したとか声が小さいとか、つまり先輩の機嫌が悪い時。「来週の火曜日1年全員部室集合」という先輩からの合言葉がケツバットの日ということになっていた。
部室に呼び出される日の前日は辛かった。怖かった。なぜなら暗闇でケツバットをされるからである。先輩も誰が自分をケツバットしたのかわからないようにしたいのだ。そんな前日は練習から家に帰ると一生懸命風邪を引く努力をした。外に裸で出たり、水風呂を浴びたり。そうすると残念ながら風邪をひくどころか元気になって当日を迎えた。本当にバカである。
今思い出すとインパクトのある苦しい思い出がありすぎて長文になってしまったが、最近読んだ本にこういうことが書いてあった。
何か悪いことが起きればそれと同じくらいのいいことが起きる。世界はそういう仕組みになっている。
中学校の野球部でいい思い出がなかったのかと問われたら、「いや、わりとあるよ」と答えると思う。
例えば、ボール拾いだが田んぼからボールを探すのでだんだんスキルが付いてきて田んぼの中を棒でつついて何となく「あ、これボールだな」と田んぼの中に入っているボールがわかるようになっていた。そうして見つけたボールは宝物を見つけたように嬉しかった。人間は困難の中からいろんな喜びを見つけられるものだ。
精神力もついた。大人になってからの困難を乗り越えてきたのもこの苦しみに耐えてきたことがあるからかもしれない。いや、ケツバットで精神力をつけるのは絶対的に間違っているが。
そして、最も誇りに思っていることは「ケツバット」という野球部の負の伝統を自分たちの時代で終わらせたこと。おかげで後輩とも仲良くできた。もちろん友情も。最後の大会に負けたときはみんなで行きつけの食堂でいつもの沖縄そばを食べながら泣いた。
同じ量のいい思い出があるのかもなと少し思った。
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