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「切り札温存の法則」ってご存知ですか? 〜交渉の基本〜
私がこの言葉を知ったのは20代前半の、プロゴルファーを目指していた研修生時代でした。
今でもお世話になっているコーチから教えてもらったのがこの言葉でした。
教えてもらった時の、前後の文章は次のような感じでした。
お前の武器はアプローチとパターだから、その武器をしっかりと磨くように。
そして試合ではその武器を使わなくてもいいように、マネジメントしていくように。
それが切り札温存の法則だ。
「なるほど!」と納得する部分と、ちょっと待てよ、それって結局全部上手くならないとダメってこと!?なんて疑問に思った記憶と共に、心に強く残っている法則なのです。
つまり「切り札温存の法則」で大切なポイントは2つです。
切り札(自分の武器)を磨くこと。
切り札を使わなくてもいいように、マネジメントをすること。
ある会社の事例
では交渉術の基本として、この「切り札温存の法則」はどのように使えば良いのでしょうか?
ある会社の事例でご紹介します。
Tさんが、50万円の商品を販売しようとしています。
そして、その商品の購入を前向きに検討しているのがY社です。
Y社は、この商品にとても魅力を感じていますが、50万円という価格が少し引っかかっています。
しかし値引き対象の商品ではないので、50万円という価格は変わりません。
そこでY社から1つの提案がTさんにありました。
それは「IT導入補助金を使えないでしょうか?」という内容です。
するとTさんは上司に相談をします。
すると上司は「出来ないことはない。しかしもし可能にするのであれば、まずこの商品がIT導入補助金の対象商品であるという登録申請をうちがしないといけない。申請にお金はかからないけれども、そこそこの事務経費(手間)がかかってしまう」と答えました。
するとTさんが、では「やろうと思えばIT導入補助金は活用できますと返事をして良いということですか?」と上司に再確認をしました。
切り札の使い方
結論からいうとこのTさんの「やろうと思えばIT導入補助金は活用できます」という返事は、交渉術という観点からすると×(バツ)です。まったくもって×(バツ)です(笑)
なぜならば、この交渉において「IT導入補助金の活用」は切り札だからです。
まずは、この「IT導入補助金の活用」が切り札であると認識することが大切です。
そして万が一「やろうと思えばIT導入補助金は活用できます」なんて伝えてしまったら、切り札でもなんでもなくなってしまいます。
だから交渉術の基本として「切り札温存の法則」は次のように使います。
交渉者:IT導入補助金については可能ですが、そのためにはまずこの商品は補助金の対象であるという申請を当社がしなければなりません。
それが許可されてから御社が申請をしてはじめて可能性が生まれます。
しかし次のような2つのデメリットがあります。
申請の許可がおりるまでに、数ヶ月の時間がかかってしまうこと。
数ヶ月待っても、許可がおりずにIT導入補助金は使えないかもしれないということ。
いかがでしょうか?
お客様:そうなんですね。それは少し困りますね。
交渉者:ですよね〜。そこで1つ提案なのですが、もし御社がこの商品を活用すると半年後には商品代金を回収できるかと思います。それであれば今すぐに購入して活用してみたらいかがでしょうか?
お客様:そうですね。それもいいかな・・・。
交渉者:もしどうしてもと言うことであれば、IT導入補助金の申請を上司に相談してみようと思いますが、御社で問題なければ今すぐ購入してみてはいかがでしょうか?
お客様:そうですね。それではそうしましょう。
おさらい
この事例をおさらいします。
この交渉における切り札は「IT導入補助金の活用」です。
しかしそれを「やろうと思えばIT導入補助金は活用できます」などと答えてしまったら、お客様に「それでは一度検討します」と答えられてしまいます。
そうなると交渉の主導権は相手が持つことになり、こちらは返事を待つことになり、せっかくの切り札も、使う場面がなくなってしまうのです。
そうならないように、切り札を切り札として活用します。
「今すぐ購入してみませんか?」というクロージングに対して・・・
返事がYESであれば:即購入です。
返事がNOであれば:IT導入補助金を活用して購入です。
つまり「切り札温存の法則」を使うことで、どちらに転んでも「NO」という選択肢がなくなったのです。
これはあくまで成功事例ですが、こういうことなのです。
交渉術の基本である「切り札温存の法則」はとても有効なコミュニケーションツールなのです。
詳しくは、こちら「ビジネスシーンで使える相手に喜ばれる交渉術」もぜひご覧ください。
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