「二月の勝者」からみる中学受験の実態とは
はじめに
中学受験に興味のある方や経験者だけではなく、中学受験に縁の無い方の間でも話題になっていた漫画「二月の勝者 -絶対合格の教室-」をご存知ですか?
週刊「ビッグコミックススピリッツ」で連載されている、中学受験の実態をリアルに描いた話題作です。
コミック版で第1〜11巻が出版され、ママさん達の間で人気に火がつきました。
本日、延期となっていたドラマ化の10月スタートが発表されましたね。
放送が楽しみです。
二月の勝者 -絶対合格の教室-ってどんな漫画?
「二月の勝者」は、男性向けの漫画雑誌に掲載されていたにも関わらず、いまやママの勧めでパパの受験指南書になっているくらい、中学受験の知られざる実態を漫画でわかりやすく紹介しています。
中学受験に関する実際のデータや気になるお金の話、受験塾の裏話、受験生をとりまく家庭の事情が赤裸々に描かれており、中学受験経験者には、「あるある」だったり、「やっぱりみんなそうだったのね」と共感できるエピソードが満載です。
これから受験をする人にとっては、緻密なデータや数年にわたる取材、作者の実体験に裏付けられた、中学受験に関するあらゆる情報が随所にちりばめられており、ハウツーものよりはるかに実用的な内容になっています。
中学受験に興味のある方はもちろん、否定的な感情を持っている方も、都市圏で繰り広げられている、日本特有の受験システムである、「中学受験」の舞台裏を覗いてみてほしいです。
中学受験の背後に隠れた日本のいびつな公教育や理想的な親子の関わり方など、今まで見えなかったものが見えてくるかもしれません。
二月の勝者のここがおもしろい!
この漫画を読めば、中学受験熱が今なぜヒートアップしているのか、中学受験を始めることで家庭にもたらされるトラブルや深い絆、受験生を襲う勉強のつまずき、中学受験塾の裏事情など一通り理解することができます。
そういう意味でも、受験関係者や保護者以外の方にも是非読んでいただきたです。
主人公は、難関校への合格者を量産する業界トップの中学受験塾「フェニックス」(サピックスがモデル)から、都内御三家への合格者ゼロの「桜花ゼミナール吉祥寺校」にやってきたカリスマ塾講師 黒木蔵人(校長)。
「君たちが合格できたのは、父親の『経済力』。そして、母親の『狂気』」というセリフが印象的です。
そしてもう一人のメインキャラが、受験業界ではひよっこの新人講師、佐倉麻衣です。中学受験の知識は浅く、その純粋さゆえ黒木としばしば対立します。子どもたちへ寄り添う優しい情熱の影に、自身のトラウマが見え隠れし、子供たちの指導に悩み葛藤しながら成長していく姿が描かれています。
その他の登場人物である生徒や保護者もそれぞれが中学受験にありがちな対立やスランプ、家庭の亀裂といった問題を抱えながら「二月の勝者」になるために必死な姿が描かれ、読者を惹きつけています。
見どころをいくつかご紹介したいと思います。
POINT1 塾のシステムと裏事情がよくわかる!
◆中学受験塾の裏事情とは
カリスマ塾講師黒木の「塾講師は教育者ではなくサービス業ですよ」というセリフにあるように、塾講師は学校の先生とは違います。
あくまで塾は営利企業であり、より多くの生徒を集め、実績を上げることで利益をもたらすことができるのです。
時には、子供の純粋な夢や希望を犠牲にしてでも、現実的により多くの勝ち星をあげるための判断が必要なのです。こうした子供の合格第一を建前とした「中学受験塾」の商業主義的側面が浮き彫りにされており、中学受験を経験したママにしてみれば、そんな塾の口車に乗せられて突っ走ってはみたものの、冷静に振り返ってみると、現在の塾のシステムにやっぱり疑問符が浮かんでくるのではないでしょうか。
親は多少腑に落ちないと思いながらもただひたすら、子どもの成績を少しでもアップさせたい、志望校に合格させてあげたい一心で塾に全幅の信頼を寄せ、お任せしているのです。そんな家庭から次から次へとお金をむしり取っていく「中学受験塾」というサービス業・・・。
作中ではこの塾のサービス業を、「特急券を買うお手伝いをすること」になぞらえます。つまり、我が子をなるべく確実にできるだけ高い所にある目的地(大学)に着かせたい親は、普通列車ではなく、特急券を買い求めます。それが、自由席⇒指定席券⇒グリーン券席とよりお金をかけることで圧倒的に有利に、確実性を増していくというのです。特急券とは言うまでもなく「私立中学への進学」をさします。
多くの親は、当初気軽な気持ちで進学塾に入会し、普通列車に乗車したつもりでいるのですが、いつしか次から次へとハイパフォーマンスの特急券に投資してしまう、そんな塾の見事なカラクリが垣間見えます。
今、中学受験をしようかしまいか検討している方は、是非一読をお勧めします。文部科学省で公表されている学習費調査(上図)とは大きく異なる教育費の実態を把握し、覚悟を決めて中学受験に臨めることでしょう。
その実態を的確に表した黒木の名セリフが、最近のソーシャルゲームに例えた「課金ゲー? 面白いですね、その通りすぎて」です。
POINT2 中学受験に翻弄される家庭事情への共感
よく「中学受験は親の受験」、「親の力量次第で合否が決まる」といわれます。そこが高校受験や大学受験とは大きく違うところです。
難関校に合格した家庭では、電車に乗って通塾する子どもの送迎、毎日のお弁当作り、スケジュール管理、メンタルサポートなど親の役割は多岐にわたります。中学受験の主役は受験生本人ですが、影の立役者でありキーマンとなるのはやはり受験生の保護者だと思います。それだけに親は中学受験に覚悟を決めて臨まねばなりません。とはいえ、家庭には父親と母親がいて、3人が3人4脚足並みを揃える事はなかなか難しいのです!
作中には、塾の講師に洗脳されたかのように塾の言いなりとなり、次から次へとオプションを追加する母親、それに反感を抱き塾を差し置いて学習プランを組みたがる父親、偏差値にこだわり子どもの本心を見失う母親、ソーシャルゲームに夢中で母親の話に耳を傾けない傍若無人な父親など、中学受験にはお馴染みのキャラクターが次々登場してきます。
中学受験を経験した保護者の方は、誰かしら自分に似た夫婦像を見つける事ができるのではないでしょうか。そして、彼らが巻き起こす様々な人間模様は、ありえない誇張ではなくどれをとっても胸にキューっとくる、どこの家庭にもおこりうる現実なのです。
「よそのお宅も同じような悩みを抱えていたのね」とホッとする場面もあれば、「そうやって子ども(夫)と接すればよかったのね」など、そこかしこに家庭のトラブルを解決に導くストーリーがちりばめられており、受験を戦うヒントになります。
また、一番大切な志望校を決定する際のポイントや併願校パターンの戦略など、実際の受験に役立つ解説シーンも紹介されており参考になると思います。
POINT3 受験生によくあるトラブルへの向き合い方
身につまされるのが、「桜花ゼミナール」で発生する子供同士のトラブルです。 「『小学生女子は人間関係で簡単に成績が落ちる』が、その逆もしかり」。この黒木の一言にドキッとする方も多いのではないでしょうか?
「昨日の友は今日の敵」というくらい少女の心は移ろいやすく、女子の友情はちょっとした事がきっかけで足のひっぱりあいにもなれば、切磋琢磨して下剋上を引き起こす起爆剤にもなるのです。
物語の中では、男の子同士、女の子同士のつながりがどう勉強や成績に影響を及ぼすのかがつぶさに描かれており、またそれにどう向き合っていくべきなのか、小さな胸を痛める少年少女の心情に思わずほろりとしてしまいます。
トラブルは人間関係だけではなく、簡単な計算ミスを脱却できずに成績が伸び悩む、校舎1位から陥落してスランプに陥る、塾先行型の知識で小学校で浮きこぼれる、ストレスで髪をむしる、など受験期にのしかかる大きな重圧に苦しむ子ども達の姿にかつてのわが子を重ね、感情移入しながら受験を思い起す方も多いのでは。
漫画のようには、すべてがうまく解決できるとは思いませんが、受験期のリアルタイムに読むと、物語により一層寄り添える、そんな訴求力をこの漫画に感じます。
POIN4 中学受験の一連の流れと受験に関するデータが一目瞭然!
新人講師の佐倉麻衣の素朴な疑問に答える形で説明される中学受験に関するデータ、また保護者会にて紹介される受験の一連の動きを読めば、基本的な中学受験の現況を一通り把握できます。
実際に受験に挑むわけではない人にとって、データの意味する事を理解するのは難しいですが、そんへんのところも、作者の体験と調査、そして漫画の力によってとても分かりやすく示されています。
誇張も遠慮もなく、実態を見事に反映した中学受験の真髄を伺い知ることのできる秀逸な作品になっています。
次回、中学受験は本当に課金ゲーなのか?
このように中学受験には学力以外にお金、家族の協力など多くのものが必要となります。
中学受験に臨む保護者たちの中で結局いくらかかるの?というお金の疑問は多くありました。
漫画の中でも課金ゲーと言われる補助学習費について、教育図鑑では調査を行いました。
次回は、調査結果を書いていきたいと思います。
中学受験の情報は、中学図鑑へ