社会人大学院生1年目を振り返って
在職しながら通える大学院の下調べに始まり、募集要項取り寄せ、説明会参加、入試対策、出願書類準備などに約2年かけて、50歳になった年に入学した大学院博士前期課程(修士課程)、専攻は教育学。四半世紀前に、学部からそのままストレートマスターで商学修士号を得ていたが、今思えば、その頃私がしていたことは「研究」と呼べるようなものではなく、ただ必要な授業を履修し、求められる枚数の修士論文を書いただけだった。
昨年度はフルタイムで勤務しながら週に1回大学院に通い、夏季に集中講義を受けるなどして修了に必要な単位の半分程度を履修したが、正直、十分何かを体系的に吸収できたか、かなり疑わしい。特に文系大学院では、与えられた課題文献を輪読したり、学生自身が選んだ研究論文を要約発表するのが主。だから、講義をしてくれたり期末課題を出してくれたりする授業は本当に有難かった。教員という職業柄か、成績が出るものに対しては手を抜かない質で、期末課題は、良い成績をとりたいというモチベーションのもと、1冊(あるいは課題テーマに関連した文献)を精読し直す良い機会となった。
結局、蓋を開けてみると、履修した7つの授業の内4つがA+、3つがAという評価だったので、自分的には、まずまずの1年目だったと思う。
今日は、大学院1年目で履修した授業の内、最も学びが大きかった3つについて、さっと振り返っておこうと思う。
英語教育方法論
教育の統計学の授業。教育データをいかに活用するかを2022年度の下半期で学んだ。「この授業をとるために大学院に入った」と言っても過言ではないくらい、私はこの授業に期待していた。この授業では、それまで漠然としか理解していなかった「偏差値」や「標準偏差」「分散」などの記述統計(実際のデータを整理してまとめること)の基本概念の理解に始まり、そこから「独立変数」「従属変数」「帰無仮説」「対立仮説」の理解から始まる推測統計(χ二乗分析やt検定や相関分析や重回帰分析などの各種検定を使って、標本データから母集団の状態を推測すること)の基本的な方法を学んだ。
この授業で最も実りが大きかったのが期末課題だった。自分で研究テーマを決め、仮説を立て、適切な検定を選んで分析し、解釈をつけレポートを提出するというもの。私の修論の指導教員でもある授業担当の先生から「ミニ修士論文のつもりで書いてください」と言われたので、私はこの課題に、実に年末年始の休みの全ての時間をかけた。正月2日は夫と都内ホテルを予約して歌舞伎を見に行ったのだが、その時でさえパソコンを持ち込み、数時間文献精読とデータ分析に時間をかけた。勤務校の業務として、年末は12月29日まで部活の大会指導があったため、確か本格的に課題に着手したのが12/30からだった。そう考えると提出期限の1/11の夜中まで、凡そ2週間を、文献の精読、データ整理、データ分析、図表づくり、レポート執筆に費やしたことになる。
ここでの反省点を一つ挙げるとすると、「取り掛かりの遅さ」なのだけれど、こういった真剣に向き合いたいと思うような課題がある時、学校業務と同時並行では、私の『多動な脳』はどうしても理解度が中途半端になってしまい、結局二度手間になることが多い。致し方ないのかなと思う。
逆にとても良かった点は、「普段から生徒たちの学習データを集積していたこと」。分析材料がレディゴーの状態で課題に着手できたのは、我ながら大いに評価できる点だと思う。
脳の多様性とセルフマネジメント
夏休み2週に渡って日曜日に行われた集中講座で、ニューロダイバーシティをテーマにした講義とアイデアソン(課題解決のためのアイデアを発表しチームで競い合うもの)の授業だった。アイデアソンはグループワークで、さまざまな領域の学生が1チームに入るよう配慮されていた。私たちのグループには、人文学系の20代の女性、情報工学系の20代男性、リハビリテーション専攻の30代後半の女性と私の4人だった。ここでは社会に存在する課題(授業ではPainと呼んでいた)を明らかにし、それを解決するサービスを考案した。
この授業では、アイデアソンで上位3位までに入ったチームがフェーズ2に進出できるというスピンオフ企画が用意されていた。私たちのグループは12チーム中4位だったのだが、上位2チームがフェーズ2進出を断念し、私たちは繰り上がって出場権を手にした。私は業務が忙しいので継続をためらったが、人文学系の女子学生さんが、即座に出場を希望され、その熱意に賛同する形で、残りの3名も手を挙げた。
しかしながら、そこからは幾度となくフェーズ2に進んだことを悔いる日がやってきた(苦笑)。まず旗振り役であった女子学生さんが海外のフィールドワークの機会を手に入れ、2月の中旬ごろから参加できなくなった時。そして、それをきっかけとするように、今度は情報工学系の男子学生さんが、混沌と整理されないまま進む(進めざるを得ない)プロジェクト進行に業を煮やすように、定例会に参加しなくなった時。
残された2人で時にはグチを吐きつつも混沌に耐え、3人のメンバーの役割分担を明確にしたラスト2週間で形が見えてきた。データが揃ったのが本番直前の2日前、そこからデザイナー役を引き受けた私が一睡もせずスライドを2日間貫徹で仕上げ、情報工学の学生さんはアプリのモックアップを仕上げてプレゼン資料を整えた。3/16のピッチコンテストの1時間前にチームで最高の形でリハーサルを終え、本番もその時の手応え通りでプレゼン終了。結果的にフェーズ1で4位からの大逆転で「最優秀賞」を獲得した。
ここでの反省点は、チームで欠員が出た時、その負担をうまく分散できなかったこと。残された2名にかかる作業の負担が大変だった。ただ、他にどういう手立てでこの問題を解決できたのだろうとも思う。他者の状況を受け入れるということはつまり、何かに皺寄せがくることでもある。今回は最優秀賞をいただけたが、時には、ゴールを変えることも必要なのかもしれない。
評価できる点とすると、Zoomでコミュニケーションを密にとったことだった。対抗馬のチームは基本的にはテキストベースでのコミュニケーションだったらしいが、コミュニケーションの差が勝敗を分けたと思う。互いがどんなタイプの人間であるかは、定例会を幾度となく繰り返すことで理解できていた。発表時に、ジャッジから出た質問に対して、誰が答えるべきかが明確にわかったのも、そういったコミュニケーションの積み重ねがあったからこそだったと思う。
このクラスの正式な成績は夏季講座だけで決まるので、アイデアソンが4位で終わったこともあってか、あいにくのAだった。しかし成績に入らないスピンオフ企画に参加し、最後まで責任を持って役割を果たしたことに対して、自分ではA+を上げたいと思う。
心理教育的アセスメント
こちらも夏季集中講座で受講した授業だった。さまざまな心理アセスメントの方法と分析・解釈を実際に学んでレポート発表する機会を得られた。しかし半年経ってGood Noteで講義プリントとメモを振り返ると、早くもいろんなことが抜けている。卒業までの後3年間で、もう一度、心理アセスメント分野の授業を受けておきたいと思う。
この授業では、心理テストを大きく、知能テストと人格テストに分けて学んだ。 まず人格テストには「矢田部ギルフォード性格検査」「TEG III」のような質問紙法、「ロールシャッハテスト」「文章完成法(SCT)」のような投影法、「内田クレペリン作業検査法」のような作業法があり、知能テストには「田中ビネー」のようなビネー式と、「WISC-IV」や「WAIS-III」のようなウェスクラー式などの個別式テストと、団体式があるということ。
それぞれにテストの特徴があり、複数の試験を組み合わせてアセスメントが行われる。テストの組み合わせは「テストバッテリー」と呼ばれ、心理テストを実施する際の、重要な概念となっている。授業では「WISC-IV」でグループ発表、「SCT」と「TEGIII」で最終レポートの提出となった。
最終レポートでは、自分自身を「TEG」と「SCT」でセルフアセスメントし、報告書を出した。その際の総合所見を最後に載せておこうと思う。今、半年ぶりに読み返して、「自分のことを客観的にアセスメントすること」と「それを記述し記録として残しておくこと」ができて本当に良かったと思う。普段、生徒の指導にばかり目が行ってしまっているが、こういった確立されたアセスメント法によって、自分が自分自身をアセスメントすることは、大学院に来なければできなかったこと。そして最も重要なことは、セルフアセスメント後のセルフケア。
残りの3年間を「50代で行うセルフケア」の期間に位置づけようと思う。
参考文献
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