英国総選挙とイラン大統領選の結果を受けて

英国総選挙とイラン大統領選の結果を受けて

 ここ数日に集中している世界の重要選挙から、結果の出た英国総選挙(庶民院=下院選挙)とイラン大統領選・決戦投票の結果を受けてポイントを解説しておきたい。

 7月3日に投開票された英国総選挙(定員650名)は、事前の予想通り与党・保守党が大敗し14年ぶりに労働党に政権が移った。労働党のスターマー党首(元検察官)は5日にバッキンガム宮殿で(形式的ではあるが)チャールズ3世国王から首相に任命され、ダウニング街10番地(首相官邸)入りした。

 獲得議席は労働党が412議席(直前勢力から211議席増)、保守党が121議席(同251減)、漁夫の利を得た第三勢力の自由民主党が72議席(63増)、新興右派のリフォームUKが4議席(4増)となった。 またスコットランド独立を掲げるスコットランド国民党も9議席(34減)と惨敗となったが、これは党内のゴタゴタによる自滅である。

 英国の庶民院(下院)選は比例復活のない単純小選挙区制であるため極端な議席差となる。今回の投票率は60%と2001年の59%に次ぐ低さだったことも影響した。保守党ではスナク前首相は辛うじて当選したが、トラス元首相やシャップス国防相など大物議員が軒並み落選した。

 今回の各党の得票率は、労働党が33.7%(前回比1.6ポイント増)、保守党が23.7%(同20ポイント減)、続いてリフォームUKが14.3%(12.3ポイント増)で第3位となり、自由民主党が12.2%(同0.7ポイント増)となった。

 つまり労働党が支持を拡大させたというより、保守党が主にリフォームUKなどに「食われた」結果である。

 ところでこのリフォームUKのファラージ代表とは、2016年の国民投票によるEU離脱決定に主導的役割を果たした英国独立党(その後のブレグジット党=解散)の元党首で、現在の党員にも当時の独立党員が多い。今回も移民の大幅制限や大規大減税などを公約に掲げており、右派というより「その時々の」人気取り政策を掲げるポピュリズム政党である。

 つまりファラージ代表は「英国の小池百合子」であり、人気は(2016年もそうだったが)長続きせず、リフォームUKも次の総選挙までには消えるはずである。

 少し冷静になってこれまでの保守党政権の功罪を考えてみると、2010年5月の総選挙で労働党から政権を奪ってキャメロン政権となったが、保守党だけで単独過半数に届かず自由民主党との連立政権だった。そして2016年6月の国民投票でEU離脱が決議されてしまうと政権を放り出してしまう。

 上流階級出身のキャメロンは軍産複合体にも国際金融資本にも近く、EU離脱など望んでいなかったことは明らかである。またスナク政権では外相に復帰しており、同じく軍産複合体に近いバイデンとはウクライナ支援などで政策協力を進めて「国際政治にそれなりの存在感」はあった。労働党政権になると「まず」ここが変わる。

 キャメロンの後任首相となったテリーザ・メイは「内外のEU離脱交渉」に忙殺され、2017年6月の総選挙でも単独過半数に届かず、北アイルランドの地域政党である民主統一党の10議席を加えて辛うじて政権を維持するが、2019年7月に辞任してしまう。この辺から考えると保守党も大半の英国民もEU離脱など望んでいなかったはずである。

 EU離脱そのものは後任首相のボリス・ジョンソンが「何とか」2021年1月1日実施とするが、そのジョンソンもスキャンダルが重なり2022年7月に首相辞任に追い込まれる。ジョンソンは就任直後の2019年12月の総選挙で保守党政権となって「初めて」単独過半数を獲得しており、「不本意な辞任」だったようである。2023年9月には下院議員も辞職し政界から消えてしまう。

 この辺から英国経済はEU離脱による経済へのマイナス影響に2020年からコロナ蔓延、2022年から急激なインフレが重なり、明らかに疲弊していく。2022年9月にトラス政権となるが、経済回復を焦り財源の裏付けなしに大規模減税を発表したため英国債とポンドが急落してしまい、わずか45日で辞任に追い込まれた。

 そして2022年10月に「満を持して」スナク政権となる。夫婦そろってインド上流階級の家系で大富豪である。しかし単に「育ち」が良いだけで経済回復にもインフレ対策にも「全く」指導力を発揮できず、歳出削減や法人増税や外国人への税優遇撤廃などを小出しにしただけで「自身最初」となった今回の総選挙で歴史的大敗を喫してしまう。

 ここからの労働党政権は、スナクの増税を批判していたために「当面は」増税できず、さらにスナクが総選挙前で踏み切れなかった利下げも早々に実施するはずで、またウクライナやガザにおけるキャメロン外交の存在感も期待できない。EUとは「とっくに」切れてしまっており政治・経済の孤立化が進む。

 つまりスタートしたばかりの労働党政権は、難問を「山ほど」抱えていることなり、ヘッジファンドは英国債とポンドに対する「売り仕掛け」のタイミングを狙っている。

 それから7月4日に投開票されたイラン大統領選の決選投票は、改革派のペゼシュキアン候補が53%を獲得し、44%にとどまった反米・保守強硬派のジャリリ候補を下して新大統領となった。

 ただ最高指導者のハメネイ師は、明らかに反米・保守強硬派だったライシ前政権の路線継続を求めており、イラン国内が混乱するはずである。また米国では民主党が現職バイデンの11月大統領選における出馬辞退を画策しており(ここは近いタイミングで詳しく解説する)国際政治に空白が生まれている。

 こちらのほうが英国の政権交代より「はるかに」世界各地の軍事的緊張に大きな影響を与えるが、その方向がまだ「ほとんど」読み切れない。日本でも国会が閉会しており、岸田首相は9月総裁選で生き残ることしか考えておらず、危機対応ができる体制ではない。

 また不思議にこういうタイミングで「頼みの」自衛隊にスキャンダルが出てきており、さらに動きが制限される。偶然とは思えない。

本日(7月7日)は「違和感のある」東京都知事選と、フランス国民議会の第2回投票が行われているが、必要なタイミングでポイントを解説していきたい。