ウクライナ問題の複雑さ
ウクライナ問題の複雑さ 2022年1月27日に掲載
ロシアのウクライナ侵攻の可能性を巡って世界の緊張感が増している。旧ソ連崩壊直後の1991年12月に独立したウクライナの政治は、常に親ロシア政権と親欧米政権が対立してきた。
2004年の大統領選では決選投票のやり直しの結果、親欧米のユシチェンコが当選する「オレンジ革命」となり、2009年の大統領選は反動で親ロシアのヤヌコビッチが当選したものの2014年2月に反政府デモの激化でロシアに亡命してしまった。
その2014年の大統領選では親欧米のポロシェンコが当選するが、すぐにプーチンがロシア系住民の多いウクライナ東部とクリミア半島に侵攻し、住民投票でクリミアを併合してしまった。クリミアはロシア唯一の不凍港で、19世紀のクリミア戦争の動機と同じである。またその結果、ロシアは欧米諸国から厳しい経済制裁を受け(現在まで続く)、原油価格の低迷もありロシア経済は低迷する。最近になってようやく原油や天然ガスの価格上昇で息を吹き返している。
2019年の大統領選は、同じ親欧米で元コメディアンのゼレンスキーが当選し、欧米にさらに接近してNATO加盟への意欲も公言する。1949年に西欧と北米の12か国で発足したNATOは、旧ソ連崩壊後にバルト三国や東欧諸国を含め30か国に拡大している。そこにウクライナが加盟すると、ロシアとウクライナとの国境がNATOとの境界線になってしまう。
そこでロシアはウクライナとの国境に10万人の兵力を結集させている。もともとウクライナ東部2州(ドネツク州とルガンスク州)に多いロシア系住民のロシア国籍取得を促進しており「ロシア人保護」を名目に侵攻できる。またウクライナの北隣で、とくにロシアと親しいベラルーシも協力体制にある。ロシアとベラルーシが協力すれば東と北からウクライナに攻め込める。
しかしロシアは、とりあえずウクライナのNATO加盟を阻止すれば十分で、強力な経済制裁が加わるウクライナへの実力行使は「割に合わない」はずである。ウクライナ国境に集結する10万人のロシア兵は「脅し」であり、ロシアにとって重要なクリミア半島はすでに併合しておりロシア系住民の多いウクライナ東部も実効支配している。だいたい本気で侵攻する時は「大袈裟」に準備しないものである。
それに対して明らかにバイデンが「過剰反応」しており、ロシアがウクライナに侵攻すれば「過去最大級」の経済制裁を課し、米国防総省もNATOから要請があれば8500名の米兵を東欧に派遣すると表明している。また英国のジョンソン首相も同様にロシアに対する批判を強めている。ともに国内で問題を抱えるバイデンとジョンソンが、国民の批判をかわすための「過剰反応」だと考えてしまう。
旧ソ連から独立した国では、2022年の年初早々にカザフスタンで反政府デモを利用した権力争いがあった。これは権力の座から追放されたナザルバエフ前大統領も追放したトカエフ現大統領も、親ロシアであることは同じである。
しかしロシアとウクライナの関係は、最近のウクライナは欧米に接近しているだけではく、歴史的にも大変に複雑である。
そもそもロシアの語源である「ルーシ人」は9世紀にキエフ大公国を建国しており、その領土は現在のウクライナを中心に、ベラルーシとモスクワ周辺のロシアまで広がっていた。キエフ大公国は13世紀にモンゴル人に侵攻されて滅亡し、現在のロシアは15世紀にモンゴル支配を終わらせたモスクワ大公国が領土を東に拡大させたものである。つまり現在のロシアとは、もともとウクライナ(キエフ大公国)が発祥地なのである。
しかしその後のロシア(ロマノフ王朝)はエカテリーナ2世が18世紀にユダヤ人をウクライナに押し込め、1932~33年にはスターリンがウクライナ人の農地を取り上げて1000万人規模の餓死者を出すなど(ホロドモール)、ロシアは何度もウクライナを弾圧してきた。
そんな複雑なロシアとウクライナの歴史を無視して、保身を図るバイデンとジョンソンに惑わされてはならない。プーチンは東部2州とクリミアを除いたウクライナに領土的野心はなく、ただNATO加盟だけ阻止すれば十分である。「侵攻の素振り」を見せているだけである。
そう考えるとプーチンの「落としどころ」とは、NATOの東方への勢力拡大を文書で阻止し(プーチンは口約束に騙されたと言っている)、ついでに2014年からの経済制裁もできるだけ解除させ、悠々とウクライナ国境から撤兵するはずである。プーチンの「狡猾さ」に比べれば、バイデンなど「タダの老人」である。
2022年1月27日に掲載