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遠い追悼

※今回、全ての敬称を略します。
偉大な方々に私ごときが敬称など不遜に過ぎます。
 
     

世界的漫画家が若くして急逝した。
ご冥福をお祈りします。
合掌。

大昔、私は漫画少女だった。
ゆえにこの世界的漫画家のデビューの頃も知っている。
アラレちゃんが出て来る漫画も連載開始当初は読んだ。

肉筆同人誌をやっていて、その仲間のアパートで読んだのだ。
(ケント紙を束ねた重い同人誌。印刷じゃないし薄くない)

大友克洋みたいに描き込んで、しかも可愛らしい作風?
とか思っただけで特にハマることはなかった。

なのでアニメ化されても見なかった。
やがてかめはめ波とか流行っても「ふ~ん」と遠くから眺めていた。

私が唯一覚えているのは、この漫画家の結婚である。
わりとデビュー間もなく結婚した印象がある。

確か白泉社だったと思うが、同じくデビューしたばかりの少女漫画家と結婚したのだ。

「あちゃー」と思ったものである。
わりと面白い少女漫画家だったのに。
結婚したら漫画やめるんだろうな。

……と思ったとおり、やがて彼女の漫画は雑誌に載らなくなった。

とても面白い新人作家だったのに残念だった。

当時はまだ女は結婚したら仕事をやめるのが当然という風潮だった。
だから名のある少女漫画家は皆独身だった。

牧美也子は? もりたじゅんは? という意見は後ほど。

結婚して子供を三人も産んでしかも有名!!
なんて荒川弘みたいな漫画家はまだいなかった(と思う)。

訃報を聞いた時、私が真っ先に思ったのはあの新人少女漫画家のことだった。

奥さんは大丈夫かな?
今時六十代なんてまだ若いのに寡婦になってしまってお気の毒に……

……若くとも年老いていようとも、残された方々には悲しかろうが。

そこまで考えて「あれ?」と思った。

もしや私のあの新人少女漫画家に対する思いは、世間の感覚とはかなりずれているのではないか?

ちょっと微妙な話になりますが、すみません。

つまり……残された奥様は莫大な遺産を相続されるはずである。

なんせ世界的大漫画家なのだから。

そして世間は思うのだろう。
彼女は勝ち馬に乗ったと。

海の物とも山の物とも知れない新人漫画家と結婚して、莫大な財産を手中に収めたと。

大して売れないだろう自分の漫画を描くよりも、天才漫画描きの亭主に奉仕して正解だったと。

けれど私にはそうは思えないのだ。

自分が描きたい漫画があったのに、ペンを折って家に入った。

それは無念極まりないことだったと思ってしまう。

たとえどれだけ莫大な遺産が残ろうとも慰めにならない。

自身の漫画を描けなかったのは残念だと思わずにはいられない。

この辺の感覚の違いは如何ともしがたい。
自分がマイノリティーと思うしかない。

だが、ちよっと待て?

考えてもみれば、あの結婚が続いたとは限らない。
長い人生何があるか知れやしない。
特にファンでもない私はよく知らないのだ。

ググってみました。

みかみなち!

やっぱり鳥山明の妻のままでした(言い方!!)

よかったよかった。
いや、よくはない。

お悔やみ申しあげます。

ところで、先に述べた牧美也子ともりたじゅんである。
言わずと知れた松本零士夫人と本宮ひろ志夫人である。

いずれも有名漫画家と結婚していたが、自身も少女漫画家としても名を残している(いやご存命ですが)。

つまりは、やろうと思えばできたのだ。

けれど彼女はやらなかった。
それを望まなかったのだろう。
家に入って夫を支えるのが本望だったのだろう。

ファンでもない私がどうこういう話でもなかったのだ。

まして、とうとう漫画家になれなかった私が口を出すことでもない。

神保町の出版社を一人で漫画を持って歩いた日々はもう遠い。

遠い、遠い……

ああ、遠くなりにけり……だ。

もう一度合掌して終わります。

イギリス海岸の向こうに祈る

どっとはらい。

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