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Amazon Audibleで視聴「禁じられた遊び」感想———間違った養育の代償

エロイムエッサイム———

清水カルマ著「禁じられた遊び」をオーディブルで拝聴した。
せっかくなので感想を書きたい。

上記の呪文、作中に登場する言葉だが、最初は「なんだこの小学生男児が喜びそうな呪文は」と思った。
検索してみたら、実際にヨーロッパの呪文として存在するそうだ。
違う言語では、変な響きの真面目な言葉が沢山あるものだ。

以下ネタバレ。





あらすじ

郊外にマイホームを購入し、幸せに暮らす直人とその妻・美雪と二人の子供・春翔。ある日、庭でちぎれたトカゲの尻尾を見つけたことをきっかけに、直人は春翔に嘘で、蘇りのおまじないを教えてしまう。美雪の事故死をきっかけにそのおまじないは現実となり、怪異が直人の元同僚で想い人の比呂子とその周囲をもまで巻き込んでいく。


感想

率直な感想としては面白かった。
非常に映像的な文章で、腐った肉やハエ、臭いなどの生理的嫌悪感のある描写も良質。ホラー映画に求められるものを詰め込んだ爆弾おにぎりのような作品だった。
一番印象に残っているのは終盤の盛り上がり。
庭中に化け物がうようよしていて、
直人は灯油をばら撒いたものの、ヘタレて火をつけられない。
比呂子は遠くで事故っているし、「あぁ、もうどうするんだこれ」と思ってたところで、雷(神鳴り)が家に直撃。
物語の守護者たる作者の、散らかった物語を終息に導く鉄槌に思えた。
こういう強引なストーリーのまとめ方は、嫌いではない。

忘れられないホラー小説・小池真理子著「墓地を見下ろす家」の終盤で、もっと雑だが似たような片づけ方をしていた。
墓地の隣にあるマンションで次々と怪異が起こる話で、主人公家族が耐えきれず、引越しをしようとしたがエントランスが開かなくなり閉じ込められてしまう。その時せっかく来てくれた引越し業者が、超常的なソーラービームで蒸発してしまうのだ。読んだ時は作者は描くのに飽きたんだなと思った。
中盤までは最上級のホラー小説なので、興味があればぜひ一読していただきたい。

「禁じられた遊び」では、登場人物一人一人に思うところがあるが、
怪異の元凶たる伊原美雪と春翔についてまとめていきたい。

美雪について

序盤は可哀想だと思った。
事故で無惨に亡くなるし、夫に精神的浮気をされ、
しかもそれを感じ取ってしまう力がある。
肉体関係を介さない、心と心が通じ合うような浮気が、一番タチが悪く辛いというのは、最近の通説ではないだろうか。
しかし生前の美雪は、黒い感情を押し殺して普通に振る舞っていたのだから、健気で偉いとまで言える。

しかし、美雪は化け物になるのだ。
人を少なくとも3人殺し、禍々しく、邪悪な化け物に。
「いくらなんでも怨念溜めすぎだろ」と突っ込んでしまう。
描写の気色悪さで擁護する気が失せていく———。

一人の人間が、よくある惚れた腫れたの下らない嫉妬の感情で、こんな化け物になるほどのエネルギーを蓄えられるだろうか?
いくら美雪がエキセントリックだからといってこれはおかしい。

実は子供・春翔の力が関与していたと終盤で明らかになる。


春翔について

実は美雪の超能力が春翔に遺伝していて、しかも美雪より強力な力を持っていた。
春翔の”美雪を思う力”のせいで、美雪は化け物化しつつも復活しようとしていたのだった。
美雪が怨念にまみれた状態で復活したのは、美雪が常日頃、
夫・直人への執着や不満、直人の想い人である比呂子への憎しみと嫉妬を春翔に見せていたからだった。
まだ幼い春翔には、大人の複雑な感情がわからなかった為、復活した美雪は獣のように思考力が落ち、憎しみという単純で原始的な感情に支配された化け物になってしまったのだろう。

春翔は悪くない。全ては子供に粗雑な教育を施す直人と、夫婦間の愚痴を吹き込んだ美雪が悪い。
子供に夫婦仲が悪い事実を見せたり、子供を自分の味方にしようとすることは、子供の成長や思想に悪影響を与える。それは虐待に近いと思う。
特にこの話では、親の養育方法が原因で、春翔が起こしてしまった罪の責任を、最終的には春翔自身が負うことになっている。
現実の虐待案件でもそうかもしれない。虐待の結果起こった事象の責任を取るのは、親ではなく被虐待児であることが多い。
本当に理不尽な話で可哀想だと思う。

ただ、終盤いきなり饒舌に語り出した未就学児は、
私の中にある、「ハキハキ喋る子役に感じてしまう嫌悪感」を引き出した。
可哀想だと思うが、あまり好きにはなれないな。

以上。

一見幸せな家庭でも、一歩間違えるとそれは虐待で、
もう一歩間違えると一家全員戦闘不能状態になるのだから、
子育てって難しい。

また、感想を書きたくなるような本を読んだらまとめます。
おすすめのホラーなどあれば教えてください。



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