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ビートルズの演奏はうまいのか?そしてDAWの功罪
🔲ビートルズはうまいのか?
ザ・ビートルズを初めて聴いたときの第一印象について。
↓
「彼らは世界で最悪のミュージシャンだと思ったね。演奏できないマザーファッカーの集まりだ。
クインシー・ジョーンズ氏がビートルズを「演奏できない」とインタビューで発言し、謝罪するに至ったのは記憶にまだ新しいところ。
実際のところ、ビートルズの演奏はどうなのか?
ジョーンズ氏が付き合っていた、アメリカのトップミュージシャンと比べたらそりゃあ下手でしょう。ただ、「マザーファッカーはないだろ」と思うけれど。
ビートルズはライブで鍛え上げられたバンドで、そう言う意味で個人的には「強い」と思っています。バンドとして安定しているし独自の世界観を構築しています。
ただ粗いところは確かにある。
それが「ビートルズはうまい/下手」論争の理由だと思っています。
たぶん測る物差しの違いなのです。
でも、です。
ビートルズのそれが現代に通用するか?と言うと疑問です。
前述のジョーンズ氏の言葉を踏まえて、NONA REEVESの西寺郷太さんはこうおっしゃっています。
クインシーの感覚って、黒人音楽の伝統に則った、野性的だったりインテリジェンスな、いわゆる書道みたいな世界で研ぎ澄まされたものなんですよね。筆で書いてる、それこそ巻物に書いあるような字みたいなのが素晴らしいという視点。
そこにくるとビートルズの演奏って、丸字というか、ペンで書いた癖のある文字で、筆で書いた「書道」じゃないんですよ。ジャズミュージシャンが書道家だとしたら、「あいつら硯使ってへんやん、ボールペンで書いてるやん」みたいなことなんですけど、でもボールペンで書いた字の方が読みやすかったりもしますからね。
自分は、ビートルズの最大の功績について、「僕もポップスターになれるかも」と多くの子どもに思わせたことによってポピュラーミュージックを発展させたことだ、と思っています。
その理由は、西寺さんの言葉を借りるなら「筆じゃなくてボールペンで文字を書いてもいいんだ」という気づきを与えたことだと思います。
しかし、西寺さんは、「リズム感の画素」「クォンタイズ絶対論」と言うような独特の言葉で、リズムの大切さを語っておられます。
クオンタイズというのは、DAW(Digital Audio Workstation)の音声編集の一つで、演奏のタイミングを自動的に拍に合わせてくれる機能のことです。
なんていうのかな、例えば歌素材だけ抜いて、今のダンス・リミックスみたいなのをビートルズで作ろうとすると急に無理が出てくるんですよね。さっきのビート感でいうと歌のリズムの画素はそこまで細かくない。というか、それぞれ違い過ぎる。その点、エルヴィスの場合、歌だけ抜けば、今のトラックにもハマりまくりです。ダンサブルなんですよね、やはりヴォーカリストとしての基準がそこにある。
クォンタイズされたまっすぐなリズムの中で溜めるのか急ぐのかっていうのに慣れてるのが今の世界だとしたら、ビートルズの音楽は設計図をでっかい食パンに苺ジャムで書いてるみたいな、「ここちょっと消えてんねんけど、どうせならちゃんとした紙に書いてよ」みたいな(笑)。それがビートルズは、今から入るのが意外に難しいっていう理由だと思うんですよ。
🔲DAWの功罪について
DAWがアマチュアにも普及して10〜20年と言ったところだと思います。
今や10代の子どもは「DAWネイティブ」。
クオンタイズされたビートやVOCALOIDの無機質な歌声に慣れた子どもたちにとって、ビートルズ、いやロックの生演奏のような「粗さ」が理解できないとしても不思議ではありません。
つまり、「ボールペン字でもなく書道でもなく、活字印刷が当たり前になった」のです。
このことは「リズムの粗い素人演奏はもはや魅力的ではない」とも言えます。
これは、生演奏に魅力を感じる人でもどうしようもない大きな流れで、それを変えることは難しいでしょう。
DAWはアマチュア演奏をも駆逐したのかもしれません。