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「人単位」の情報把握で見えてくる新しい景色と注意点

例えば、毎月50件だった苦情の電話件数がある月に100件になったとする。

単に件数だけ見たら「とんでもない増え方だぞ」と思って慌てて対策を検討しようとするだろう。

ところが、「3人の人間から寄せられた苦情がそのうちの50件だ」となったらどうだろうか。次に来るのは「この3人の属性はなんだろう?」となるはずである。

苦情の常連になっている要注意人物かもしれないし、会社として大きな失敗をしてしまい、その直接の被害者かもしれない。いずれにしても対策の範囲は全く異なるはずだ。

これは情報を人単位で束ねる(以下、"名寄せ'と呼ぶ)ことで分析の精度が高まった事例である。

すると、人は欲が出てくる。「もっと束ねられる情報の量が増えれば、いろいろな新ビジネスへの展開を考える上で役に立つぞ」と。

そのためには、各情報に対して"束ねるための共通キー項目"の設定が必要である。

私たちが肉眼でデータを見るとすれば、氏名、生年月日、性別を見て「あれ?この人同一人物じゃない?」となり、さらに顔写真を確認することで、「やっぱりそうだった!」と確信を得るだろう。

しかし、世の中には意外と同姓同名の人間が多い。あなたも一度ぐらい芸能人と同姓同名な人を見たことがあるのではないだろうか。名前がそっくりということは性別も一致する可能性が高い。

さすがに生年月日まで同一という人間は少ないかもしれないが、同姓同名の人の発生確率を考えるとありえなくはない。

というわけで、氏名、生年月日、性別をもとに名寄せすると別人混入の危険が残る。

ザックリの傾向が探れればいいのであれば、ある程度目をつぶってもいいかもしれないが、精度の要求水準が高い商品・サービスだと機械に任せきることはできない。

じゃあどうするか。あらゆる接点で顧客番号を正確にセットするのが名寄せの観点からは最強の方法だと思う。

サラッと書いたが、データというのはきちんと設計を考えないとすぐに不純物が混ざってくる。

会社側があらかじめ応対する顧客の番号をセットしておき、顧客側は最小限の項目入力で済むように、徹底的に設計を練らねばならないのだ。

Googleがビッグデータ分析で隆盛を極められたのは「名寄せ」に心血を注いだからである。

なぜそこに命懸けになれたかというと、「ターゲット広告や良質な検索エンジンの原材料として使う」というゴールと結びついたからだ。顧客接点の全てがデジタル空間であったことも、名寄せのやりやすさにプラスだった。

一方で、サイゼリヤはポイントカードもなければ公式アプリもない。もはや名寄せする気ゼロである。

他のお店であれば「いやいや、それは意地張り過ぎでは?」と思ってしまうが、やっているのは超合理経営を行うあのサイゼリヤである。

ちょっと立ち止まって想像してみよう。

飲食業界において、名寄せして顧客の行動を分析した先にあるものは何か?広告をウザがられながら出すか、割引クーポンを出して自分の首を絞めるのが多いパターンである。

なんとなく数字をいじくり回せるようになるだけで、実益を産まないとサイゼリヤは判断したのだろう。

もしあなたが職場におけるデータの名寄せが不十分で、改善の兆候も見られないと不満を持っているならば、理由のほとんどは費用対効果が合わないからだろう。

残念なことに、ある程度データ蓄積がされた後に新しくキー項目を追加するのは費用対効果でいうと絶望的である。

あなたがもし名寄せが肝となるサービスを立ち上げようとしているならば、キー項目は是非とも埋め込んでいただきたい。将来的なサービスの発展性を決める超重要ファクターになりうるからだ。

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