若手社員に脅威を感じる瞬間
先日、各世代の労働観を比較しながら書いたが、どちらかというと世代が上の人間の視点に近く、「若者はまだまだ未熟だな」というニュアンスがあった。
これだけだとフェアではないので、今回は少し目線を変えて、下の世代の視点からサバイバル方法について考えてみたい。
圧倒的な手数の多さでぶち抜く
若者の特権はフィジカルの強さである。10代、20代の体力は今思い返すと無限の可能性を秘めていた。
入社して最初の新人研修の時、明日はいよいよ全国に旅立つという最終日には、仲間とオールでカラオケをして、その翌日ほとんど寝ないまま颯爽と全国に旅立った。
あんな芸当、今ではとてもじゃないが無理だ。
手数の多さというのは「1年間で1000回アクションする」タイプと、「1日で100回アクションする」タイプがある。
若者に許された特権は、後者のような短期集中型の手数の多さである。物を知らないので躊躇がなく、体力に任せて狂った量のPDCAを回すことができる。
これこそが年長世代を圧倒する若者の強さだ。
就活生のよくある質問で「今のうちにやっておいたほうがよいことはなんですか?」というものがある。私からの答えは「やりたいと思ったことを馬鹿げた量やれ」である。
生産性が高い・低いはこの際関係ない。圧倒的な量こそが若者の優位性である。
同時に詰め込んだことによる化学反応
生保業界は、最初は生命保険だけ売ればよかったのが、損保との提携が始まり、銀行窓販をはじめとする代理店販売が盛り上がり、外貨建保険も取り扱うようになった。
入社直後はその中の役割の一つを担うことになるが、合わないと判断されれば所属組織の判断で別の役割を振り直すこともできる。
業務の多様化と膨大化は、一つの組織でできる役割換えの裁量を大きく増やした。
これにより、「50種類ある仕事の中から、自分に適性のある5種類の役割を担う」タイプの人材が生まれるようになった。
この「完成度の高いマルチロール」こそが後の時代に生まれた人間の生きる道だ。
もともと1種類しかなかった役割が時代の変化とともに徐々に増えて5種類の役割を担うようになった人間と、最初から5種類の役割を担うことを期待された人間では入りの体験価値が全く違う。
最初から世界を目指してサッカーをする人間と、国内で頂点を取れればいいやと思っている人間では練習の姿勢が異なるのと同じ話である。
周りの教育のやり方も、本人の心構えも変わる。その結果、ベテラン層よりも洗練されたマルチロールプレイヤーが生まれてくる。
逆にいうと、自分の役割を狭く限定して、量も追い求めない若手には全く脅威を感じない。「狭く掘り下げるなら狂った量をやれ」だし、「平均点しか取れないなら手広くこなせ」である。
残念ながら、若者の特権を自ら放棄するような人間は大人に都合よく使われるだけだ。
私の実体験の話
最後に、私が驚きとポテンシャルを感じた若手社員のエピソードを添えて締めくくりたいと思う。
とあるツールを業務に取り入れようと検討していた時のこと。使い方を理解するためにマニュアルを読み込んで触ってみるが、四苦八苦してなかなか進展がなかった。
すると、ある若手の子が私たちの苦戦していた操作を難なくやってのけた。私は驚いてどうやって学んだのか尋ねると、その子はこう言った。
「英語版の解説動画をYouTubeで見たんです。言葉は理解できませんでしたが、動画を見たら操作方法はすぐ真似することができました」
まさに動画時代の申し子の面目躍如である。
ちなみに、「デジタルネイティブ」というのはあまり良くない言葉だと思っていて、若者が「デジタルサービスを遊んでいる自分達は今のままでも優位性があるんだ」という錯覚を起こさせてしまう。
デジタルサービスなんて大人だって当然に研究している訳で、本当の武器になるのはこの事例のように独自の体験価値をビジネス価値に変換していくことである。
若手の皆さんは安易なバズワードに踊らされることなく、人と異なる体験を蓄積して、社会に還元していってほしい。