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「自己実現のための消費」と生命保険の関係性
私が就活生だった頃、「生命保険に現物給付を取り入れる」という話を聞いたことがあった。現金の代わりに、介護サービスなどを保険会社から直接受け取るというものだ。
しかし、その流れはあまり盛り上がらないまま今日に至っている。
保険会社指定の社会保障事業者を利用するより、「現金を手にして、自身の意思で手広く選ぶ形態のほうがいいじゃん」という消費者心理が原因じゃないかと私は見ている。
現金で貰っておけば、もし余った時に貯蓄などに回してもいい。使い道無限の方を選ぶのは加入者として極めて合理的な判断だ。
私たち生命保険業界に求められているのは、現物サービスそのものへのコミットではなく、人々の家計消費行動におけるお金の流れの理解である。
具体的には、以下の要素が大事だ
①財布の紐は誰が握っているのか
②決定権者の財布の紐が緩むのはどこか
③収入源は上振れ、下振れの可能性がどれぐらいあるか
④欲しい物があったとして、予算によってどれぐらい選択肢が変わってくるか
上記の点を踏まえて、私の身の回りにいる10代〜30代の消費活動について分析してみたい。
①決定権者→夫婦別財布の増加
結婚した家庭の話を聞くと、「あらかじめ決められた分のお金だけ口座に振り込み、それ以外は自分のお金として自由に使う」というスタイルが多数派である。
一昔前だと「旦那がいいと言っても奥さんからNGが出て成約に至らなかった」なんてケースが多かったが、今は決定権者が分散されている。
では、営業がやりやすくなったかというと話はそう単純ではない。ここで生命保険の競合として現れてくるのが「自己実現のための消費」である。
②決定権者の財布の紐が緩むのはどこか→自己実現型消費
なぜ夫婦別財布が増えるかというと、自分の好きなものに使う財源が欲しいからである。特に「推し活」とか「スキルアップの投資」などは消費がその人の自己実現と深く紐づいているので、優先順位が圧倒的に高い。
なんなら食費を削ったり入っていた保険を解約してでも、「推しのライブに行ったりグッズを買いたい」という行動に走る。
晩婚化や独身世帯の増加は「後世へ資産を繋ぐ」必要性が薄れるので、ますます自己実現としての消費に拍車がかかる。
「今この瞬間を推しへの尊い感情で埋め尽くしたい」という思考回路の人間には「資産を守る」という切り口は響かないのである。
どちらかというと「雨の日も風の日も推し続けるために、保険で備えましょう」のほうが親和性が高いように思う。
③収入源に上振れ、下振れの可能性がどれぐらいあるか→使い道と紐づいた資産運用
こないだ職場の人と雑談した時、非常に興味深い話を聞けた。
自分の大好きなウルトラマンシリーズが25周年、30周年を迎える頃にはきっと高価な記念グッズが発売されるはず。
その時に備えて「ウルトラマンファン限定で高い利回りが約束された投資商品」があれば秒で購入するんだけどなぁ。
要するに、使い道と噛み合った金融商品は売れるのである。
例えば、「家族旅行のための貯金」を資産運用に回すとしよう。
使い道が明確なので「この1年間の運用が上手くいけばハワイ旅行になるし、失敗しても国内旅行には踏みとどまりたい」という具合に"かけられる時間"と"リスクの許容範囲"が自然と定まってくる。
その上で投資商品の選定に移れば、判断軸をぶらすことなく目的にあった商品を選べる。セールストークに惑わされることもない。
逆に漠然と「儲けたい」と考えながらの投資は危険である。
損をした時の未来をリアルに思い描けない状態は、片方にだけ重しを乗せた天秤のようなもので、すぐにバランスを崩すのだ。
円建の保険商品は金額が1円単位で確定するというメリットはあるものの、「自己実現のための消費」に紐づけると、やはりある程度変動のあるものが好まれることが多い。
そう考えると、外貨建保険には追い風な環境である。
④欲しい物があったとして、予算でどれぐらい選択肢が変わるか→相手の消費活動への理解
現代は趣味が細分化されているので、あらゆる嗜好品を選択肢まで含めて把握するのは不可能だ。
この場合、営業目線からいうと、会話の中で「もうちょっと予算があったら買いたいなと思うものはありますか?」と尋ねるのが良いだろう。
外貨建保険は「上振れを狙いにいく」機能がある。一方で保障性の保険商品は「不足の事態が起きても選択肢を維持する」機能を有する。
売り手の目線で言うと、それぞれの機能の違いを伝え、「この商品で自分の選択肢はどのように広がるのか」を相手にイメージしてもらうことが大事である。
以上、生命保険との家計の消費行動について考えてみた。家計の消費タイプはまだまだ類型があるので、また別の機会でも掘り下げてゆきたい。