下高井戸シネマで救われる
京王線下高井戸駅から数分のところにある映画館。
#映画館の思い出
かつて、映画産業が下火になり、下高井戸の映画館が閉館の危機に陥ったとき、京王線沿線の住民が友の会を結成。下高井戸シネマは生き延びた。
生き延びたどころか、上映プログラムのセンスが良くて、結局通い詰めになってしまう人続出。
私の町にシネコンができて、自転車をこいで、映画を見に行けるようになり、大学院に入学して映画を見る時間がやりくりできなくなるまで、私は、下高井戸シネマに通い詰めた。
その頃の下高井戸シネマには、営業のサラリーマンのおじさんが時間つぶしに来ていて、映画を見ながら弁当箱を広げ、お箸でお弁当を食べているのを何回か見た。もしかしたら、リストラされて生き場のない人だったかもしれない。お惣菜のにおいが流れる映画館。
買い物帰りの主婦がガサガサ音を立てながら、荷物をまとめていたりした。
ねぎのにおいがして、納豆が食べたくなる映画館。
トイレの洗面台の棚には、オロナミンCの瓶に、そこらに咲いている花がさしてあった。
売店は、過去に上映した映画のパンフレットも置いてあり、すごく重宝した。
売店のケースの中はカメラがたくさん並んでいた。
売り物だろう。売れるのかな。
とにかく不思議な映画館であった。
1994年、「さらば、わが愛/覇王別姫」が、渋谷の「Bunkamura ル・シネマで」、上映された。
見に行きたい、見に行きたい。
だって、私の大好きなレスリー・チャンが主演なのだ。
猛稽古をして、京劇の女形を演じている。
なんと美しい、レスリーチャン。
香港映画ファンの私は行きたくてたまらなかった。
まだ、イギリスに返還されていなかった香港には、香港ならではの映画があった。いわゆる香港映画。
「さらば、わが愛/覇王別姫」は、チェン・カイコー監督の中国映画だけど。
「さらば、わが愛/覇王別姫」はものすごい人気で、渋谷の街に入場希望者の列ができた。
入場できない人多発。
障害のある長女のスケジュールに合わせて生活している私には、のんびり列に並ぶ時間の余裕はない。
「Bunkamura ル・シネマで」では、なんと43週のロングラン。
単館系(ミニシアターって最近は言うけど、当時は単館系と呼んでた。)映画館としては異例の大ヒット作品となった。
私は、渋谷では見ることができなかった。
悔しかった。
しかし、その時、駅の掲示板に貼られた一枚のポスターが目に入った。
「さらば、わが愛/覇王別姫。下高井戸シネマで上映決定」
あまりの人気に、下高井戸シネマで、急遽上映することになったらしい。
ああ、レスリーチャン。
ああ、救いの神は現れた。
お待たせしました。下高井戸シネマ。
ありがとう。私を救ってくれた。
それからも、ずーと、下高井戸シネマには通い続けた。
つらいことや、悲しいことがあると、映画館へいく。
二時間ほど、別の世界で過ごせば、気持ちも落ち着く。
ところが、下高井戸シネマは、2本立て、3本立てなんてあって、4時間も、6時間も、映画を見て椅子に座っていると、帰りには体がコチコチになってしまったりした。
下高井戸シネマは、中国映画とアメリカ映画の二本立てなどもやっていた。
ああ、この、プログラム編成はいったいどういう趣味なんだ。
朝と昼と夜とで、プログラムが変わったりするから注意して見に行かないと、見たいものが見られなくて、違うものを見ることになったりするんだが、それでまた、いい映画を発掘したりする。
この10月には、ゴッドファーザー3部作一挙上映なんてプログラムもあるらしい。
ずっと続いてほしい、下高井戸シネマ。