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障害者の経済学

障害者の経済学  中島隆信 東洋経済新報社

#最近の学び

脳性麻痺の息子さんを、アメリカと日本で育てながら感じた当事者意識から脱却し、精神的に吹っ切れた著者が、障害者の親という立場を離れ、経済学者として一歩離れたところから障害者の世界を眺めた本。

序章「なぜ障害者の経済学」なのか
第1章 障害者問題の根底にあるもの
第2章 障害者のいる家族
第3章 障害児教育を考える
第4章 障害者差別解消法で何が変わるのか
第5章 障害者施設のガバナンス
第6章 障害者就労から学ぶ「働き方改革」
終章 障害者は社会を映す鏡

誰の肩も持たず、冷静に、物事を一般化して考えるという本。
「障害者問題の根本にあるもの」には、「良心の検査薬」という言葉が出てくる。
これは一般的に、障害者などに向かい合う時「何かをしてあげなければならない」ととっさに考える。障害者に対して自分がとる行動で、自分がどういう人間か見透かされてしまうと感じるからである。
このことは「障害者」が一私たちの良心のレベルを試す「検査薬」になっていることを意味する。
でも障害者の人は、それほど周囲からの善意を期待しているわけではない。
私たちが勝手に障害者との間に壁を作っているのだ。

教育、就労、制度など、とても深く掘り下げているので、実際の生活に参考になることばかり書かれている。

「働き方改革」という言葉が使われるようになって久しいが、では具体的にはどのように改革するのか。
ここは明確に書かれている。
障害者就労から学ぶのだ。

障害者雇用の重要なポイントは働き方を、障害者の特性に合わせるということだ。
日本のこれまでの働き方は、企業にとって都合のいい人材を選び育てて、人間のほうが、企業の提示する画一的な働き方に合わせなければならなかった。この働き方についていけない人は脱落していく。

雇う側の工夫は、障害者だけでなく、子育て中の母親や、親の介護中など長時間勤務が難しい人に対しても必要だ。
そして人間ならだれでも、どこかに発達していない箇所がある。
不得意な仕事ばかり押し付けられていたら、うつ状態になる。

障害者雇用には、さまざまな問題点が凝縮しているのだ。
排除の論理ではコストがかかる。
これから、医療が発達していけば、障害者や、機能不全の人たちは増えていく。

障害者を活用できれば、一般の社員を戦力にするのはたやすいことである。比較優位の原則に従った適材適所の働き方が実現できれば、働く人の幸福度も上がり、生産性も向上する。

「障害者問題を一般の社会に役立てる」

つまり今の日本は、かなり効率の悪い社会なのだ。
この本では、海外で可能となっている、障害者雇用についても数例を上げている。

そして最後にもう一つ。印象に残ったところは、障害のある子の家庭での離婚率の高さに言及しているところだ、
母親が障害のある子を引き取る例では、家庭も貧困に陥ることが多い。
そこで大事なのは、「親の精神的自立」、「経済的自立」、そのための支援であるという点である。
親の心理的ケアと、障害児が生まれたことにより仕事を辞めなくても済むような育児支援などの対策である。

誰でも、働くことができる社会。これからは、そのような社会でないと、経済学的には成り立たなくなる。


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