読書記録:ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた 1 (オーバーラップ文庫) 著 遥透子
【理想でかたどられた推しの素顔、特別を越えた交じり合い】
【あらすじ】
大人気VTuberアンリエッタとアイドル声優の八住ひよりを推し活する大学生、天童蒼馬。
ある日、彼が住むマンションになんとその推し達が越してくる。
アンリエッタに扮する林城静、八住ひより改め支倉ひより。
上京したてで心細い静に、寂しいから夕飯を一緒に食べてほしいと頼まれる。
その頼みを引き入れて依頼、静とひよりと共に食卓を囲む仲になる。
夢心地の生活の中で舞い上がっていた蒼馬だったが、共に過ごす中で、彼女達の本当の素顔が垣間見えて、蒼馬の抑えていた理性を壊していく。
家事と推し事を生き甲斐にする青年の住むマンションに、二人の推しが引っ越して来て、その素顔を垣間見る物語。
推し。
それはこの色褪せた日常に、燦々と輝きを放つ星のような存在。
苦悩や困難が多い現代人は、自分の好きな推しを見つけて、その推しの歩みを自らの糧とする。
推しを支えれば、自らさえも認知して貰えて、平凡で退屈な日常に、ほんのひとときの特別な時間が出来る。
推しを神の如く崇拝する人もいれば、身近な友人のようにフランクに接する人もいる。
ただ、特別な存在に思える推しであっても、一人の人間であり、自分達と同じ日常と生活があり、隠している弱さや悩みだってある。
推しだって、かつてはこちら側にいた。
しかし、誰かの特別になりたいと足掻いて努力した果てに、今の地位を掴み取った。
そう、第一線を象徴的に活動し続ける推しでさえも、支えてくれるファンがいなければ、こんなにも人気者にはなれなかった。
自らの原点に立ち帰って、ファンとの繋がりを大切にする推しは、こんな厳しい業界でも、末永く息をする事が出来る。
家事と推し事を趣味にする大学生の蒼馬の元に巡ってきた静とひよりと真冬。
引っ越してきた静の荷物運びを手伝った事で、蒼馬の人生は数奇な運命を辿っていく。
推しが身近にいてくれて、自分の日常に溶け込んでいる、夢みたいな生活の中で。
しかし、憧れに近付きすぎれば、見たくないものまで見えてしまうのが畢竟。
大人気VTuberアンリエッタとして、清楚でお淑やかなイメージで活動していた静は、実は生活能力皆無の、ポンコツで嫉妬深かったり。
アイドル声優として可愛く歌って演じる事が出来るひよりは、実は大酒呑みの生粋の酒乱である事が分かったり。
妹のような幼馴染だと思っていたら、ヤンデレ気質な真冬に重たい愛情を受けながら、むやみやたらに束縛されたり。
彼女達はそれぞれに表と裏があり、そのギャップに当初は、困惑させられた蒼馬。
それでも、それこそが彼女達の飾らない本当の素顔でもある事は理解出来た。
それを自分だけにさらしてくれる、漢のロマンが詰まった、得も言われない多幸感に溺れていく。
そんなハーレム状態で、蒼馬会と称して、夜ご飯を一緒に作って食べる間柄になる事で、高級マンション故に、ワンフロアに蒼馬しか借りる事のなかった部屋が、ドタバタと騒がしく、姦しい賑やかな日常へと変わっていく。
VTuberアンリエッタのオフコラボ配信に参加したゼリアの元に声優であるひよりが加わって、非日常なわちゃわちゃ感が広がって、蒼馬が抱いていた推しへの幻想は、また違った魅力として書き換えられていく。
惜しとして、人々に笑顔を届ける彼女達は裏表の仮面をつけかえながらも、末永く活動する為に、何よりもファンを大切にする生粋のアイドルであった。
忙しいスケジュールの中でも、ファンとの交流を大切にして自分の時間を削って頑張っている。
そんな沢山のファンに愛されているであろう推し達を、誰にも知られる事なく、一人占めしている現状に、少しの罪悪感を抱く蒼馬。
彼女達のミステリアスなタレント性は傷つけてはいけない。
この関係は、墓場まで一人で密かに持っていこうと誓う中で。
彼女達は、蒼馬のそんな憂慮を笑い飛ばすかのように、大胆に自分をさらけ出して、迫ってくる。
等身大な彼女達の中身と一緒に、カオスな共同生活を送った先で。
彼女達は、誰が蒼馬の心を一番に射止めるのか、自らの魅力をアピールする、ヒロインレースを勃発していく。