『よるのばけもの』
⭐️あらすじ⭐️
6本の足。ぎょろぎょろと周りを見渡せる8つの目。
夜になると、なぜか分からないけど化け物に変貌する僕。
そんな僕は、ある夜、化け物の姿で夜の学校に忍び込む。
誰もいないと思っていた夜の教室には、クラスで浮いた存在の矢野さつきがいた。
彼女は化け物の僕を見ても少しも驚かず、すぐに化け物が僕だと気づいてしまう。
学校では、クラスから裏切り者扱いされないために、さつきへの「いじめ」に加担してしまう僕だけど、夜の教室ではさつきと心の距離を縮めていく。
⭐️感想⭐️
学校を舞台とした作品が多い住野よるさんですが、この作品も中学校を舞台としており、教室といった狭い社会に存在する暗黙のルールと良心の狭間に生きる少年を描いています。
住野よるさんの作品は「君の膵臓を食べたい」「また同じ夢を見ていた」など、あらかた読んできましたが、今回は他の作品とは一味違った面白さがあると思いました。
上述の作品では、物語中にある伏線は最後に全て回収する印象がありますが、この作品では最後まで読者の想像に委ねる部分があり、「人の感情は真の意味で捉えることができない」曖昧さを、この作品を読むことで読者に体験させているのではないかと思いました。
⭐️この物語の面白いところ⭐️
この作品の解釈について考察されたブログをいくつか読みましたが、私はこの作品の面白さは、孤独を恐れて自分の正義を貫けない人間の弱さを描いているところにあると思います。
主人公の僕は、夜の学校でさつきと距離を近づけていくうちに、昼間の教室でさつきを無視することが苦しくなってきます。
それは今まで一面的な事実のみを見て、他のクラスメイトと同様にさつきを悪もの扱いしていた僕が、さつきの行動の意図を知るうちに、さつきのいじめを無視できなくなっていくからです。
自分のクラスでの立ち位置が犯されることを恐れ同調を示していた僕は、さつきとの対話によって、昼の自分の愚かさに気づいていきます。
僕はそんな目に見えないクラスの圧力を「自分の想像の中にしかないもの」と捉えこんな言葉で、その圧力から決別します。
「自分が見えている以上の想像力を持つことは、無駄で余計だ」
また夜の自分と昼の自分で、さつきへの態度をあからさまにかえる自分に葛藤する僕は、そんな自分を情けなく思っていくのでした。
「嫌いな奴を責める、そういうふうに立ち位置を決めているあいつらの方がよっぽど透明だ」
これは小さなコミュニティでもがいた経験のある人ならば、共感できるのではないでしょうか。
なんとなく「これってちがくない??」と思うけれども、周囲からの見え方を気にして自分の考えを貫けず、どちらにも良い顔をしようとしてしまう。
その背景には、嫌われることで「他者が自分から離れていくのではないか」といった孤独への恐怖心があるでしょう。この物語では、主人公がそんな弱い自分と決別することで、化け物の姿に変貌しなくなっていきます。
以上、『よるのばけもの』のレビューでした!
個人的にはもっと住野さんらしい豊かな言葉が散りばめられている作品の方が好きだなぁ。