映画感想文【バグダッド・カフェ】
1987年 ドイツ製作
監督:パーシー・アドロン
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダー
<あらすじ>
砂漠にぽつんと佇む寂れたモーテル『バグダッド・カフェ』
夫と喧嘩別れしたドイツ人ヤスミンが訪れたそのカフェでは、不機嫌な女主人ブレンダが始終がなりたて、コーヒーマシンは故障、部屋はホコリだらけ。居心地は悪いけれど他に行く宛のないヤスミンは、思い立ってカフェ中を大掃除し始める。ヤスミンの勝手な振る舞いに当初は反発していたブレンダだったが、次第にその朗らかさに心の壁は消えていく。
長年気になっていたがこの度4Kレストア版公開されたので、良い機会と思い映画館まで足を運んだ。
上映館では2Kでしたけどね!
1989年に日本初公開されて以来、ミニシアターブームの象徴となったらしい。『ベルリンの天使』でも似たような謳い文句を聞いた気がするけどな?『アメリ』だっけ?
なんぼのもんじゃい、の気持ちが三割ほど。
観終わってすっかり同感、確かにイイネ! の気分。
好きな映画、に挙げる人が多いというのも頷ける。事ある度に棚から引っ張り出して味わいたい作品。
あまり洗練されていない、一見とっ散らかったボサボサ具合がかえっていい味を出す映画だった。
カフェは文字通りるつぼで、トレーラーハウス住みの老画家やら気だるげな美人彫師やら、イケメンバックパッカーが住み着くし、ガソリンスタンドも兼ねているので毎日荒くたい運ちゃんが顔を出す混沌である。
冒頭はカフェの女将・ブレンダの猛烈な怒りで一気に染め上げられる。
怒り・怒り・怒りで、そんなものを四六時中聞かせられるんじゃ、旦那でなくとも嫌になるわいな。
そこへ現れたふくよかなドイツ人女性・ヤスミン。
身なりは富裕層の奥様といった体で、明らかに場違いである。
本人も周囲もそれを理解していて、居心地が悪いことこの上ない。
異分子であったヤスミンがどうやって、バグダッド・カフェに馴染んでいくのか。
その過程に魔法や奇跡が描かれるわけではない。
ヤスミンという朗らかなキャラクターは確かに特異なものかもしれないが、彼女ばかりが気働きしたのでもない。ブレンダをはじめとした住民たちとヤスミンと、互いに少しずつ歩み寄った結果、あの幸福なカフェが出来たのだろう。
そしてそんな共同体をひっそり抜け出す美人彫師。理由は、
「仲が良すぎる」
ほんのわずかなワンシーンではあるが、非常にリアルで良かった。万人の満足する理想郷はこの世にはない、という寂しいけれど間違いない現実である。
ヤスミンのマジックショーは実に見事で、思わず映画館で拍手しそうになった。芸は身を助く、だろうか。
さながら砂漠に突如現れたパラダイス。あれが見れるなら常連になるのも頷けるってもんだろう。
ラスト、ブレンダとのショーも実にカッコいい。にわかにマジックショーへの興味が湧く。
観終わったあと、ストーリーをおさらいしてみてもやっぱりとっ散らかった印象がある。登場人物たちからしてデコボコ、共通点を見つけるほうが難しい。
そんな遠い立場の人たちが、かけがえない隣人になっていく様子が面白くて憧れる。一度カフェを離れざるを得なかったヤスミンがカフェに戻り、ブレンダと再会するシーンは胸キュン必至。大人の女の友情って良い。
プロローグでは如何にも固そうなスーツだったのが、着心地の良さそうな城のワンピースをまとっての再登場なのも象徴的である。かわいい。
当初は怒り狂うブレンダばかりが強烈で、ヤスミンとの交流で角の取れていく様に目を奪われるが、ヤスミンもヤスミンでカフェやブレンダに救われている。
描かれる場面は最初の数分だが、夫との結婚生活は窮屈だったろうことは想像に難くない。
知り合いの一人もいない異国の地であれだけやれるなら、喧嘩別れする前からなんとか出来なかったんかいという考えが過ぎらなくもないが、そこは置かれた環境も関係していると想像しておく。
おかたい服装や表情が時の経過とともに柔らかくなって、老画家コックスのモデルとなってから更に花開いていく。
本当にラスト。おじいちゃんの、思春期の少年のような拙いプロポーズにまたしても胸キュンさせられた。
なんといっても音楽が良いね!『コーリング・ユー』!