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映画感想文【リトル・ダンサー】

2000年イギリス製作
監督:スティーブン・ダルドリー
出演:ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、ゲイリー・ルイス

<あらすじ>
1984年イギリス、ストライキ中の炭鉱町。11歳のビリー・エリオットは町のボクシング教室に通っているが、いまいち熱意を持てない。ビリーの興味を引いたのは、その隣で始まったバレエ教室のレッスンだった。ウィルキンソン先生にその才能を見出されバレエに夢中になるビリーだが、古い価値観の炭鉱町では周囲の理解は難しく……。



昔、DVDで観て良い印象があったので、デジタルリマスター版が公開された機会に再鑑賞してみた。
やっぱり映画館は良い。
ビリー・エリオットことジェイミー・ベルの渾身のダンスを大画面で観ることが出来て、良かった。


改めて観てみると、どうしても連想してしまうのが李相日監督の『フラガール』(2006年製作、蒼井優、松雪泰子、豊川悦司)である。
閉鎖間近の炭鉱町という背景、主人公の置かれた環境、ダンサーという目標。類似点がとても多いので連想も止む得まい。

バレエダンサーを目指すビリーは、炭鉱労働者である父親を筆頭に周囲からなかなか理解を得られない。
当初通っていたボクシング教室は男子だけ、バレエ教室には女子だけ。
男は男らしく力強さを、女は女らしくたおやかさを。
1984年という時代と炭鉱町という環境を考えれば、それが当然で普通で、疑問を抱くほうがおかしいとすら言われるだろう。

以前にこの作品を観た時、父親が案外すんなりとビリーの夢を受け入れ応援する様子が物足りないなと思っていた。
「オカマ」(※作中の台詞をそのまま拝借)の友人・マイケルの言動から察するに、男性が女性的(と思われる)な姿や行動をとることは軽蔑の対象だったはず。そんななかでザ・漢といった風の父親なら「バレエなんぞ女のするものだ! 許さん!!」ともっと強く嫌悪を示すのではないか、と。

対する『フラガール』では女性がダンサーを目指すので、性的指向の面は強い反発はないものの、古い価値観をもつ周囲からの嫌悪は強調して描かれ、わかりやすい。
反発から理解・受容、そして応援への変化もドラマチックで良い。

しかしやはり自分も年を取ったからだろうか、あるいは歴史を学んで時代背景を考えることが出来たからだろうか、父親の葛藤や諦念、家族への愛情を昔よりも染み入るように共感出来る気がする。

1984年イギリスではサッチャー首相の政策で赤字炭鉱が閉鎖を迫られる。
それに反発した労働組合がストライキを実施。ビリーの父親は外で稼いでくる、という父親の役目を果たせていない。
妻を亡くした悲しみからもまだ抜け出せていないのだろう。家族を守る役割を取り上げられ、アイデンティティーを喪失しつつある父親。自分が一番、自分の言葉に説得力を感じられない。
そんな中で夢を見つけ真っ直ぐに訴えてくるビリーが、まぶしく映る。

以前もどこかで書いたが、バレエダンサーを目指す少女を描いた漫画『昴』での、NASAの天才科学者のセリフを思い出す。

「もし宇宙人がいたら最初にコミュニケーションが取れるのは、舞踏家かもしれない」

同じ言葉を使うからと言って、意思が通じるとは限らない。それまでの二人のやり取りも、宇宙人の交流と相違ない。
ビリーが父親に見せた幼いながらも圧倒的なダンスは、なによりも雄弁な「踊りたい!」の言葉だった。
言葉では超えられない、ダンスの強さを教えられた気持ちである。

嬉しい時、悲しい時、そして腹立たしい時さえも。
息をするのと同じように踊りっぱなしのビリー。
ロイヤル・バレエ・スクールの奨学金テストに受かった時、かつてビリーが走り抜けた町並みを同じように走る父親の姿に、その歓喜が溢れている。
ビリーの夢への一歩は父親にとっても喜びであり、そこから学校へ出発するための別れのシーンから一息にラストまで、家族愛に満ちた幸せな時間であった。

思わず購入してしまったパンフレットと入場者特典カード
すごく良い!




ラストに少しだけ登場する青年のビリーを演じたのはダンサー、アダム・クーパー。
経歴を調べるとかつてロイヤル・バレエ団でプリンシパルとして活躍していたらしい。

そして踊る舞台はかの有名な『白鳥の湖』なのだが、誰もが想像するオデット姫とジークフリート王子の登場するクラシックではなく、イギリスの振付家マシュー・ボーンによるものである。主役も群舞の白鳥も男性ダンサーが踊り、ストーリーの大筋が男性同士の悲恋物語へと大胆に変更されている。というからには、この映画のテーマ「性の超越」に対する壮大な伏線回収、なのか?
「オカマ」である友人・マイケルの再登場も合わせれば、穿ちすぎとも言えないのではなかろうか。

さらにはこの『白鳥の湖』の初演・ブロードウェイ公演でスワンを演じたダンサーこそアダム・クーパーなのである。
細部までリアリティにこだわったというか、必然の配役というか。

機会があればぜひとも観てみたい。


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