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映画感想文【蒲田行進曲】

1982年公開、原作 つかこうへい、監督 深作欣二
一番最初は1980年に舞台で公演され、のち小説化(1982年に第86回直木賞受賞)。原作者つかこうへい自身が映画向けに脚色した作品。

名前も大体のストーリーも、階段落ちというキーワードも勿論知っていたが、きちんと観たことがなかったので気合を入れて鑑賞。

<あらすじ>
舞台は映画撮影所。花形役者の銀ちゃんと、大部屋俳優のヤス。二人は映画「新選組魔性剣」の撮影真っ只中である。主役は銀ちゃん演じる新選組副長、土方歳三のはずだが、どうにも坂本龍馬を演じるライバル、橘ばかりがチヤホヤされて面白くない。更に最大の見せ場である『池田屋の階段落ち』も、その危険性を理由に中止になりそうで不満が蓄積される。
そんな中、ある日銀ちゃんが恋人の女優・小夏を連れてヤスの部屋を突然訪れる。小夏は妊娠4ヶ月、父親は言わずもがな、銀ちゃん。彼はなんとそのスキャンダルを避けるため、小夏を弟分のヤスに押し付けに来たのだった。


元々が舞台のための脚本であったためか、中盤くらいまでは演技が仰々しすぎてストーリーに入っていけなかった。
銀ちゃんは破天荒さばかりが目立ち、その良さが全く語られないので何故ヤスがそれほどまでに銀ちゃんに惚れ込み尽くそうとするのか理解出来ない。恋人である小夏もまた銀ちゃんに心底惚れており、彼の都合で他の男に押し付けられることを承諾してしまう。
小夏は「純粋過ぎて子供がそのまま大人になったような人」と彼のことを表現するが、ならでは、の良さが見えないので今ひとつ共感できない。

そんな感じで、前半はヤスばかりがいい役(と言い切るのもちょっと疑問だが)を与えられている。
盲目にすぎる点は別としても、小夏と生まれてくる子供の為に文字通り体を張って金を稼ぐ様子が健気で、どんなに邪険にしても側にいて尽くしてくれるヤスに、小夏も徐々に心を開いていく。
中盤、やや落ち目になった銀ちゃんに復縁を迫られ、気持ちが残っていることを認めながらも「いつも一緒にいてくれる人が一番」と振り切る小夏。
そりゃそうだよ…、小夏に言い寄るセリフがクズ男の見本のような銀ちゃんであった。

大部屋俳優のヤスのメシの種は、斬られること、撃たれること、兎に角『死ぬこと』である。メチャクチャに死ぬ。刀で斬られて死に、銃で撃たれて死に、ビルからふっ飛ばされて死ぬ。
この時、ヤスを斬って殺すのが真田広之であり、撃って殺すのが千葉真一である。なかなかに豪華な友情出演である。
映画の本筋とは別に、撮影の風景ってこんな感じなのか〜と興味深い。

映画の後半は、階段落ちに焦点が当たる。
スターへの道を絶たれ、縋った小夏にも捨てられ、挙げ句見せ場の階段落ちも中止が決定ときて、自暴自棄になり撮影から逃げ出す銀ちゃん。銀ちゃんの芝居に対する熱い思いを叶えてやりたい一心で、ヤスは階段落ちを名乗り出ることを決める。
映画はここからが一番見せ所だろう。

39段、約10メートルの階段を転げ落ちる。
たった数段でも打ち所が悪ければ死ぬのだから、当然死の可能性は限りなく高い。いきおい、それをヤスに押し付ける形になってしまった銀ちゃんは罪の意識に苦しむ。ついに子供のままではいられなくなった、ということか。

「とうとう、俺を人殺しにしやがって」

荒んだ目つきで、不貞腐れた銀ちゃんのセリフである。
銀ちゃんの為に命の危険を犯してでも引き受けたのに、いきなり突き放されてヤスは戸惑い、荒れる。
ヤス自身もようやく事の重大さに気づいたということだろうか、自棄のやんぱちになって臨月の小夏に当たり散らし、部屋で大暴れするシーンはかなり真に迫っている。容赦の無さが凄い。

一夜明けて撮影当日、覚悟を決めて臨むヤスたちは、まさしく切腹を前にした武士のようであった。
実は汐路章(しおじあきら)という大部屋役者の実話をモデルとしているらしいのだが、きっと彼もこのような表情をしていたのだろうと思う。

肝心の階段落ちは、流石に凄かった。
凄かったのだが、その後がなんだか冗長な感じがした。尺が長いのと銀ちゃんのセリフが芝居じみていて(真実芝居なんだけど)そこまで入り込めなかったのが惜しい。

やはり元々舞台作品だったから、ということに集約されるのだろうか。
ストーリーは面白かったのだが、いつもの映画とはちょっと違っていた気がする。古さ、流行の違い、ばかりが理由ではないと思う。松坂慶子演じる妊婦もなんだか軽々しく、リアリティに欠ける。
しかしラストシーンは非常に良かった。
そういう終わり方か〜〜!一本取られました〜〜〜〜!(喜


<追記>
舞台が『京都東映撮影所』なのに題名が『蒲田行進曲』なのはコレ如何に。
 →蒲田には有名な松竹の撮影所(1936年閉鎖)があり、そこの所歌であった『蒲田行進曲』を元として作られた作品であった為らしい。

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