読書感想文【スモールワールズ】
2021年 一穂ミチ
2022年本屋大賞第3位、第43回吉川英治文学新人賞
珠玉の、というとちょっと大げさかもしれない。
しかし粒ぞろいと言えば間違いないだろう。
あとがきに替えた掌編を合わせると全部で七篇の短編集。どれも読み応えのある面白い物語だったし、それぞれのオチがきちんとしていて読了感が良かった。つまりはよく練り込まれた作品ということだろうか。
一篇目『ネオンテトラ』ではエグみのあるオチを見せつけられて「オェッ」となりそうだったし、三篇目『ピクニック』でも「またかよ……」と一旦本を閉じた。
だが適度な分量とスイスイと読みやすく、凡人が日々の暮らしの中でふと気づくこの世の真理のような、興味を引く文に励まされて再びページを捲る。
それは確かに正解であって、あとの三篇は素直に読んで良かったな、という感想である。
どれも現実に有り得そうでいて、やっぱり特異で、日常の中の非日常だかその反対だかは不明ながら、だからこそ物語は面白い、という一冊だった。
それはきっと、描かれている人々が凡人だからだろう。
平凡な人々が特異な状況に置かれて、そこからどんな風に考え行動するか。彼らの思考と行動が想像の範疇なので共感もしやすい。人間観察がうまい作者なのかなとも思う。
本屋で何気なく手に取った新規開拓作家だが、機会があれば他の作品も読んでみたい。