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映画感想文【スターリングラード】

2001年 アメリカ・ドイツ・イギリス・アイルランド合作
監督:ジャン=ジャック・アノー
出演:ジュード・ロウ、ジョセフ・ファインズ、レイチェル・ワイズ

<あらすじ>
1942年9月。1カ月にわたり、ナチス・ドイツの猛攻にさらされてきたスターリングラードに、新兵として赴任してきたバシリ・ザイツェフ。彼はウラルの羊飼いの家に育ち、祖父に射撃を仕込まれた天才スナイパーだった。やがて彼の射撃の腕はソビエト軍の志気を高めるために利用され、バシリは英雄へとまつりあげられていった。

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戦争映画であるが、戦争の悲惨さは希薄である。
描かれていないわけではないが、それよりもソビエト軍の英雄・ヴァシリについて、狙撃兵たちの実力と運について、である。

スターリングラードという街はときの最高指導者スターリンの名を冠した街であり、そこをナチス・ドイツ軍に奪われることは許されることではなかったと冒頭で説明が入る。
実際には国の士気や名誉を度外視しても、軍事工場が多い戦略的にも重要な土地であり、攻防戦は熾烈なものであったらしい。

そんな劣勢のソビエト軍に救世主、ドイツ軍にとっては悪魔の手先として、凄腕スナイパーのヴァシリ・ザイツェフが現れる。
自軍に希望を与えるべく、プロパガンダに使われるヴァシリ。
100人以上の将校を狙撃で失い、危機感を募らせるドイツ軍。
対抗策として呼び寄せたのは、これまた凄腕スナイパーのエルヴィン・ケーニッヒ少佐。
ケーニッヒが経験値の差で一枚上手をいけば、ヴァシリが天賦の才と運でその裏をかく。
二人の名手の間で起こる国と国、ドイツ軍とソビエト軍の代理戦争は確かに見応えのあるものだった。そこへつかの間の平穏や、愛や、嫉妬や裏切りが盛り込まれて物語は進む。

スターリングラードへ送り込まれた当初は戸惑う新兵だったヴァシリも、初々しさはなくなり目が荒んでくる。しかし凄みと言えばエド・ハリス演じるケーニッヒの方が真に迫るものがあるだろう。
冷静に冷徹に、幼い少年を巧みに操る(この辺はちょっと怪しいが)様に、スコープを見つめる冷たい眼差し。
実は息子をこのスターリングラードで亡くしている、という背景を聞けば、最後の戦場と見定めていたとしてもおかしくはないとも思う。

斯様にモデルやストーリーは非常に魅力的で面白かったのだが、観終わってそれらに浸るには、なにかが今ひとつ不足している気がする。
流れる血が足りない、などと吸血鬼のような猟奇的嗜好をもっているわけでもないし、その辺りの描写がちゃちかったわけでもない。
なんだろうな。
愛も平穏も嫉妬も裏切りもあるのだが、どれもよく出来た他人事というか。

今まで観てきて真に凄いと思う戦争映画は「もう二度と観たくない」と思わせる作品である。
「こんなことを繰り返さないために、平和を守らねばならないのだ」と思わせる作品。そしてそんな辛い思いを味わいたくないから、もとより戦争を題材にした映画はあまり進んでは観ないのだが。
『火垂るの墓』『戦場のピアニスト』『ライフ・イズ・ビューティフル』……

そう考えるならば本作は、戦争映画であると同時にエンタメ映画なのだろうなと思う。


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