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はるばる筑波山神社詣で:92歳じいちゃんのこぼれ話

【内容量:6分、品質:べっこう飴レベル】

こんにちは。
駄菓子屋の日々樹です!笑
眼科のオペ以来、まだ静養期間が続いて旅行もままならないので、今日は昨秋の旅のお話を書かせて下さい。






表題のじいちゃんとは義父のことで、わたしが嫁に来て以来41年間いっしょに暮らしている。
もうじき93歳になる。

ちょうど1年前のお話になるが、じいちゃんのたっての希望で、茨城県の筑波山つくばさんの中腹にある「筑波山神社」に詣でることと相成った。さらにケーブルカーに乗って山頂近くの御幸ヶ原みゆきがはらまで登ってみたいという要望で、躊躇することも無くこれを実行に移した。

92歳という年齢のわりに、足腰が達者で毎日3000歩以上は徘徊歩き回っている。自転車だって乗り回す
行程には何の不安も抱かなかった。
ついでに大洗あたりに宿泊して、海鮮バイキングでも食べて来ようと、話はこの上なく盛り上がった。


出発の朝、
目的地までは170km程と大した距離ではないものの、首都圏を抜けるコースだったので、早起きして朝5時にクルマを出した。
首都高速を走る車窓からスカイツリーを間近に見上げて、じいちゃんが喜ぶ頃には夜が明けた。 その時だった。


ああ! 入れ歯をつけてくるの忘れた‥‥


うそでしょ、ホントにぃ??
今夜は大洗ホテルで海鮮丼やお刺身のバイキングだよ?!


もはや引き返す訳にもいかない所まで来ており、そのまま走って常磐自動車道へと入ってしまった。
じいちゃんに「どうしようか?」と聞くと、

歯ぐきで噛むから、いい!


と、強気の姿勢。さして落ち込む様子が無いので、わたしは少しホッとした。

歯の無いじいちゃんを乗せたまま、クルマは常磐自動車道を茨城県へとひた走った。
進行方向の前方に、いただきがふたつある特徴的な山が見えてくる。
筑波山だ。
西側の頂が男体山なんたいさん、東側の頂が女体山にょたいさんと呼ばれる。
それぞれの山頂には筑波山神社の本殿(ちいっさい)があり、男体山には「筑波男大神=イザナギノミコト」、女体山には「筑波女大神=イザナミノミコト」が祀られている。
従って、山腹の筑波山神社に建つ神社建築物は、あくまで「拝殿」であるのだ。 しかし、その壮麗さゆえに「本殿」と間違えられるのもまた、無理もないことと感じる。


女体山の方が高いですが、遠近感の都合でかなり低く見えているようです

筑波山は麓からの山登りコースがよく整備されていて、歩いて登頂を目指す人も多い。
また南側からはケーブルカーを使うコース、東側からはロープウェイを使うコースが設けられて、それぞれを利用してお手軽に登ることも可能だ。


✥小倉百人一首に編纂された和歌のひとつ✥

筑波嶺つくばねの みねより落つる 男女川みなのがは
こひぞつもりて ふちとなりぬる

陽成院ようぜいいん(13番)

(現代語訳)筑波山のいただきから流れ落ちてくる男女川みなのがわが、最初は細々とした流れから次第に水かさを増して深い淵となるように、恋心も次第につのって今では淵のように深くなっている。

(特筆事項)この句は、陽成院が釣殿の皇女つりどののみこにあてた、いわばラブレターで、のちに皇女は陽成院のお后になった。筑波山を舞台に平安の恋が成就したワンシーン。

男女川みなのがわ)水無及川とも書く。男体山、女体山の峰から流れ出る川なのでこう呼ばれる。川は筑波山の麓を流れて桜川に合流し、霞ケ浦に流れ込んでいる。



さて、
筑波山の中腹にある「筑波山神社」へと、いよいよ進入する。



健脚とはいえ高齢のじいちゃんのために、なるべく神社の近くまでクルマであがって行く。
ということで、土産物屋さんの界隈まで進入し、500円支払ってクルマを駐車させていただいた。(帰りにお土産買わなきゃ)

        (webからお借りした画像です)


このあたりから、じいちゃんも杖をつき張り切って歩き始めた。
天気はまずまずで暑くも寒くもなく、最高の行楽日和。
はやくも登りの坂道が始まって、少々息がきれるもののゆっくりペースであがって行く。

行く手には神社の階段が現れて、何段登ったのか忘れたが延々と続いた。
健脚のじいちゃんも、階段ばかりは苦手。(また神社の階段って急なの)
うしろから夫やわたしが、じいちゃんのお尻を押しあげた。

筑波山神社の「拝殿」が見えて来たころには、全員かなりへばっていた。

じい「ケーブルカー乗り場はどこじゃ!」


まあまあ、まずは拝殿でお詣りを‥‥

こぉんなに立派なんですが、本殿ではありません拝殿です
寛永10年(1631年)に、三代将軍徳川家光公の寄進によって建てられたそうです


参拝をすませて、いよいよケーブルカー乗り場を目指す。
ひと息ついたものの、拝殿まで上がって来るまでにこんなに消耗するとは思わなかった。じいちゃんも頑張ったが、そのお尻を押し上げるわたし達もまた、かなり腰にきていた。
「拝殿」の裏あたりに、ケーブルカー乗り場があるんじゃなかったの??


はぁ?!


誤算だった。
というより、下調べが甘かった。
「この先の階段登る 徒歩約5分」と書いてあったが、つえをついたじいちゃんのお尻を押して上がったら、倍の10分以上かかるだろう。
下って来た人がいたので、尋ねてみた。

「92歳の人が、あがって行けますかね?」
「いや、絶対ムリですよ、ここからは急な階段が、かなり続きますから」


御手洗いを拝借しながら、じいちゃんと相談した。
ここまでも階段を頑張って、とりあえずお詣りは出来たので、これで帰ってもじゅうぶんだとわたしは思った。
しかし、「92歳はムリだ」と言われて、じいちゃんの闘争心に火がついたのだろうか。迷いも無く言い切った。

行けるところまで行ってみる!!


ここからは、これまでにも増しての階段地獄の始まりだった。
じいちゃんの足にも疲れがかなり出てきて、つえだけでは危なく、手すりのある階段がありがたかった。
もちろん、うしろからはお尻を押し上げ続けるオシオシの技。

        (webからお借りした画像です)


「じいちゃん、大丈夫? やっぱり戻ろうか?」
(山歩きする時より腰にきてる自分)

「いや、まだいける!」

所どころで休みながら、じわじわと階段を登り詰めていた。
さらに石段を、手すりにしっかりつかまりつつ、1段1段ゆっくりと登っていくと、見上げる先に「筑波山ケーブルカーのりば」の青いアーチが見えて来たではないか!

「じいちゃん、あと少しだ!」
「おう!」

30分近くかけて、やっとケーブルカー乗り場に辿りついた。
入れ歯をつけてないから歯をくいしばれないはずなのに、じいちゃんすごいよな!
ここまででじゅうぶん山登り気分を味わってしまったわたし達だった。

        (webからお借りした画像です)



筑波山ケーブルカーは、大人1名往復1070円だが、今日もJAF割引で970円。
喜んでばかりはいられない。
乗り場の方も階段がいっぱいだ。

ケーブルカーは最前列の席が眺めが最高なのだが、ちょっと惜しくて2列目の席をゲット。
最前列には大型犬のケージを携えた若いカップルが座っていた。
その男性がふり返り、親切にも席を交代してくれると言ってくださった。
じいちゃんもわたしも喜んでお言葉に甘えた。

「犬は景色みませんから!笑」

なんていい人なんだろう。
ありがたく思いつつ、ケーブルカーが発車すると目線はもう前方に釘付けになった。

運転手さんの後頭部ではなく、線路の勾配に注目しましょう


ケーブルカー線路の勾配がものすごく急で、天にも登るほどの気分を味わった。このケーブルカーは標高差500mを距離1643mで登るもので、所要時間は約8分。迫力ある登坂風景をこんなに満喫できたのも、席を譲っていただいたおかげだ。


とうとうじいちゃんは筑波山頂駅に登り詰めた。
非常に満足していたが、もう疲れ切って展望台にあがる元気も残っていなかった。

オレは やったぜ、入れ歯つけてないけど



さて、帰り道も階段に次ぐ階段。
来てしまったものなので、帰らないわけにはゆかず、必死でおりた!


今日はよく頑張った。想定外の階段地獄にどうなることかと思ったが、最後まで計画は達成した。
しかし、一難去ってまた一難。(難?)
今夜は大洗ホテルの海鮮バイキング。
入れ歯無しで太刀打ちできるだろうか?


海鮮丼盛り放題
柔らかいもの集め
スイーツも外さない ドリンクはメロンソーダ

‥‥等々、じいちゃんは宣言した通り歯ぐきで嚙み砕いて、しっかり全部いただいた。
念のために胃薬を飲ませておいたが、翌日には栗のソフトクリームを買い食いして楽しんで、茨城県をあとにした。


92歳になっても、こんなふうにご馳走を食べ、冒険じみた旅を楽しめるなら、歳をとるのも悪くないなぁと、しみじみ思うものだった…。

どちらさまも、お健やかに。笑



(おしまい)

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