チンタンのアサガオ
「何でみんなと同じことしなくちゃいけないの」
「何でみんなでやらなくちゃいけないの」
物心ついたときにはそう思っていた。
周りの人は誰もそんなこと思ってなさそうに見えた。
みんなで〇〇、足並み揃えてみんな一緒に同じ目標に向かって頑張りましょう!
そんな会社があったら理想的だろうか。現実的ではない。まるで宗教。
社会に出るとみんなと同じ人間は出世出来ない。
自己研鑽に励み、より良いやり方で付加価値を付けて会社に還元出来る人が求められる。
しかし求められるのはそれだけではない。
飲み会があれば参加し、上司に誘われればお腹が空いていなくてもランチに同席し気を遣う。
折角の休日にはゴルフに誘われ嫌々行くが、みんなでホールを周っていたら自然の解放感も相まって楽しくなってくる。
お酒を飲んでみんなで一緒にお風呂に入ったら距離感が縮まった気がして「嗚呼なんかいいかも」と思ったりする。社会人あるあるである。
みんな一緒に同じことをする義務教育はこうした社会に適合するための訓練や刷り込みであったかのように思える。
小学一年生の初夏、学校の授業でアサガオの種を植えた。
一人一鉢。自分の鉢植えに名前を書き、底にネットと軽石を入れて土を敷き、等間隔に種を埋めてジョウロで水をやった。
「綺麗な花が咲きますように」
願いを込めツルが伸びて絡まる為の支柱も立てた。
「じゃあみんな、植えたアサガオを校庭に移動させましょう」先生が言った。
立派にこさえた鉢植えを見て、私のアサガオがクラスで一番大きく綺麗な花を咲かせるだろうと思った。
白地にピンクのアサガオ、夕涼み会で着た大好きな浴衣の柄と同じ色だ。
暫く経って梅雨に入り毎日雨が降った。
大好きな校庭のブランコを漕げないのがつまらなくて仕方ない。
そんな中アジサイは順調に芽を出し、クラスの誰のものが一番最初に花を咲かせるかみんなで予想して競っていた。
雨がとても強い日だった。
雷が近くで鳴って教室内はざわついていた。
興奮して奇声を上げる子や、泣き出す子もいた。
「みんな、後で自分のアサガオを下駄箱に移動しておきなさい!!」
お昼休みが終わって午後の授業に入る前、担任の女性教師が私に近づき凄い剣幕で怒鳴ってきた。
「どうしてアサガオを中に入れておかなかったの!!!」
「え…」
「チンタンでも出来るのに!!!!!」
あるある探検隊!!あるある探検隊!!!
私の中のあるあるを探求してみたが、「チンタン」はどこにも無かった。
説明しよう📝
チンタンとは中国人の男の子であり、当時の同級生であった。何故日本に来ているか、ご両親の仕事は何か、日本語を理解していたか、詳細は不明である。
今思うとこれは立派な人種差別であり、とんでも発言である。
もし私がチンタンの親に「〝チンタンでも出来るのに〟と言われたー」と無邪気に話したら担任は戒告処分になっていただろう。
「レンチンでも出来るのに」とは訳が違う。
夏休みに入る前にアサガオを持って帰るように言われた。
休み期間中は水やりをする人が居ないので、それぞれ自宅に持ち帰って育てましょうとのことだ。
我が家の日照時間の短いベランダに置かれた鉢植えは、中途半端にツルが伸びたまま花を咲かせることなく秋を迎えた。
寒い冬がくるとツルは上方の支柱には絡まず、触手を伸ばすように横に流れはじめた。
その手はか細く貧相であったが、しっかり根を張っていた。
「俺はみんなと一緒の方向にはいかないぜ」「わが道をいくぜ」と植物なりに訴えているように見えた。
翌年になっても花は咲かなかった。
月日が経ち、触手を横に伸ばし続ける得体のしれない謎の植物がずっとベランダに鎮座していたが、ある時無くなっていた。
初夏が来ると思い出す。あの時の美しくも儚くもない思い出。
あの時なぜ私がアサガオを移動させなかったかは思い出せないが、反骨精神からわざとしなかった訳ではないことは確かだ。
以降、30年近く経った今でも「チンタンでも出来るのに」の言葉が蘇るのは一種のトラウマであり、出来ない時の自分を責めるときや困難を乗り越えるために奮起させる呪詛のようでもある。(奮起の効力ZERO〜♪)
チンタンのアサガオは咲いたのだろうか。
もしかすると当時誰より早く、満開の花を咲かせていたのかもしれない。
とりあえず当時の担任の先生に言いたいことが一つある。
チンタンに謝れ!!
そして私のアサガオはみんなと一緒の方向にツルが伸びなくても、
そのまま伸び続ければいつか横道で綺麗な花を咲かせていたの
かもねーーーー!!!
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エバ@エグくて優しいエッセイスト🖋
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