仙腸関節障害に対する鍼灸×リハビリ
1.はじめに
仙腸関節障害とは仙腸関節に不安定化に伴う、関節包、及び周囲の
靭帯に疼痛、腰部、鼠径部、下肢に痛みの症状が出ることがある疾患です。
腰痛の16%~30%を占めるという報告もあります。(1)
2.仙腸関節の解剖学的特徴
仙腸関節の構造は腸骨と仙骨からなる関節で、関節包が存在します。
脊柱の根元に位置する事により、直立二足歩行を行うにあたってかかる衝撃を緩和させる役割があります。
関節面は小さいですが、前後の仙腸靱帯、長後仙腸人体、骨間仙腸靱帯、
仙結節靭帯、仙棘靭帯、腸腰靭帯などの多くの靭帯によって覆われて
いる為、動きを制限されています。
感覚はL4.L5.S1.S2.S3.S4から分岐した神経終末によって支配されています。
前述した靭帯からサブスタンスPが検出されたという報告(2)がありますので、靭帯が引き延ばされて炎症が起こり、その痛みがこれらの神経によって伝達されると考えられます。
ちなみに、梨状筋はL5.S1.S2に支配される為に仙腸関節障害によって生じた痛みのインパルスが伝わり、持続性攣縮が起きる可能性があります。
これが、梨状筋症候群に繋がる事も多いので留意しておきましょう。
3.仙腸関節の肢位
仙腸関節は安定肢位と不安定肢位があります。
安定した肢位をニューテーション、
不安定な肢位はカウンターニューテーションといいます。
3.1.ニューテーション
仙骨は寛骨に対して前傾位、上・前方に並進運動します。
寛骨は左右のPSIS同士が近づくように回旋の肢位をとります。(後方回旋)
この肢位になることで関節面がピタッとはまり、関節可動域が小さくなるので安定することになります。
つまり、仙腸関節周囲の靭帯に余計な伸張ストレスがかからない肢位
ということです。
3.2.カウンターニューテーション
仙骨は寛骨に対して後傾位、下・後方に並進運動します。
寛骨は左右のPSIS同士が離れるように回旋の肢位をとります。(前方回旋)
この肢位になると、関節面がはまっていない状態になり関節可動域が大きくなります。
つまり、仙腸関節周囲の靭帯に伸張ストレスがかかる肢位
ということです。
※並進運動=向きを変えずに移動すること
また、筋肉の緊張と弛緩によって肢位が変わります。
3.3.ニューテーションに関係する筋肉
・仙骨前傾
収縮:多裂筋、脊柱起立筋など
弛緩:なし
・寛骨後方回旋
収縮:ハムストリングス、中殿筋、外腹斜筋など
弛緩:大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜張筋、内腹斜筋、広背筋など
3.4.カウンターニューテーションに関係する筋肉
・仙骨後傾
収縮:なし
弛緩:多裂筋、脊柱起立筋など
・寛骨前方回旋
収縮:大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜張筋、内腹斜筋、広背筋など
弛緩:ハムストリングス、中殿筋、外腹斜筋など
仙骨の前後傾が分かりづらい際は、
下位腰椎前弯 → 仙骨前傾
下位腰椎後弯 → 仙骨後傾
と考えましょう。
最低限、以上の事を念頭におけば、病態把握及び施術を行う際に
方針を立てやすくなりますね。
4.参考文献
(1)Vanelderen P, Szadek K, Cohen SP, De Witte J, Lataster A, Patijn J, Mekhail N, van Kleef M, Van Zundert J. 13. Sacroiliac joint pain. Pain Pract. 2010 Sep-Oct;10(5):470-8. doi: 10.1111/j.1533-2500.2010.00394.x. PMID: 20667026.
(2)Fortin JD, Vilensky JA, Merkel GJ:Can the sacroiliac joint cause sciatica? Pain Physician 6:269‒271, 2003
(3) Raj MA, Ampat G, Varacallo M. Sacroiliac Joint Pain. [Updated 2022 Sep 4]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023 Jan-.
5.徒手検査
5.1.触覚検査
触覚検査、MMTにおいて異常がないか確認しましょう。
異常がある場合は仙腸関節障害ではない他の疾患を罹患しているか、
仙腸関節障害とその他の疾患を合併している可能性があります。
5.2. 理学検査
SLR t.などの神経根症を疑う検査をおこない、神経根症を除外します。
また、椎間関節障害を除外する為に、kemp t.での肢位と椎間関節を
圧迫した際の症状の有無を確認しておきましょう。
神経根症と椎間関節障害を除外できた場合は、仙腸関節障害の理学検査を
行っていきます。
下記に検査法の詳細を記載しておきます。
お手数おかけしますが、画像は検索してください。
・ニュートン t.(変法)
患者は腹臥位、術者は検査側の仙腸関節に両手を重ねて置き、
圧迫します。仙腸関節に痛みが出現すれば陽性。
・ゲンスレン t.
患者は背臥位、検査側の膝を屈曲、反対側の下肢をベッドから
垂らします。術者は垂らした下肢を下方向に押していきます。
仙腸関節に痛みが出現すれば陽性。
・パトリック t.
患者は背臥位、術者が検査側の下肢を4の字に組ませ、
検査側の膝内側を把持し下方へ押します。
この時に仙腸関節に痛みが出現すれば陽性。
変形性股関節症と鑑別するために、患側骨盤を固定した場合、
固定しなかった場合の2パターンを行います。
固定しなかった場合に痛みが出現すれば、仙腸関節障害と考えます。
6.鍼灸施術
鍼灸施術を行う目的は、疼痛閾値の上昇による疼痛緩和です。
刺鍼部位は
・仙腸関節上部
・仙腸関節下部
です。
刺入深度は50mm以上で、周波数は100Hzでの低周波鍼通電療法で
行います。
周波数を100Hzで行う理由は、刺入深度が浅い為、1Hzだと
痛みを生じる可能性があるのと、100Hzで流した方が低頻度で
通電を行うよりも疼痛閾値が上昇するためです。
仙腸関節上部の刺鍼点は
仙骨の正中仙骨稜と上後腸骨棘(PSIS)を結んだ線の
中点から斜め下方向の仙腸関節に向けて斜刺。
仙腸関節下部の刺鍼点は
仙腸関節上部の刺鍼点から直下3cmから、
斜め上方向の仙腸関節に向けて斜刺です。
上部と下部の二ヵ所から挟むように刺入します。
7.リハビリ
カウンターニューテーションを改善させる運動をおこないます。
・多裂筋トレーニング
座位で仙骨を前傾、腰椎を前弯させる運動を行います。
15回×2セット程度行わせましょう。
・外腹斜筋トレーニング
仰臥位で膝を立て、膝を左右に倒します。
20回×2セット程度行わせましょう。
・ヒップリフト
仰臥位で膝を立て、殿部を持ち上げます。
15×2セット程度行わせましょう。
・股関節屈筋群のストレッチ
伏臥位で膝を屈曲させ踵を殿部に近づけさせます。
8.最後に
以上が基本的な私が行っている基本的な施術です。
施術の内容も重要ですが、仙腸関節障害は腰部、鼠径部、下肢などにも
痛みが出現するので、他の疾患との鑑別を行うことが一番重要です。
本記事が鑑別の参考になれば幸いです。
また、冒頭で解説した通り、仙腸関節障害と梨状筋症候群は関連性が
ありますので下記の記事もご覧ください。
こちらの脊柱管狭窄症の記事もおすすめです。