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with コロナ時代の飲食店に大事なのはスタンス表明 | SDGs視点で考える食の世界

場所に来てもらうことではじめて売上が立つ、飲食店に代表されるような場を持つ事業を展開している人たちにとって、こんなにもそれ一本を生業とすることのリスクを感じたことはこれまでになかったのではないだろうか。

 EATLAB だって、例外ではない。東京のWEB業界で数年仕事をしていたわたしたちにとって、WEBの中だけに場を持つのではなくて、リアルな場を持つことで濃く繋がる飲食店のような場所に紐づくコミュニティへの憧れがあって自分たちのオフィスを、ただのオフィスとしてではなく、巨大なキッチンを囲んで人が集まることのできるスペースにした。

この春よりもさらに拡大し、毎日毎日、多くの感染者が出ている今だからこそ、with コロナのこれからの時代を生き抜くために、飲食店のような“場”に紐づいていた事業者は何が可能か、考えてみたい。

本連載は、「SDGs de 地方創生」カードゲームのファシリテーターであるEATLABの 瀬尾裕樹子が、SDGs的な視点を通して考える食の世界の課題や、それに対するアイディアの種を紹介する連載です。フードロスやプラごみ問題、都市の生産者不在によるリスク、担い手問題などなど、食を取り巻く課題は山積していますが、鳥の目を持って、長期視点で考えるSDGs的な視点から少しでも明るい未来を見通せるアイディアを考えていきたいと思います。

場所に紐づく商売のリスク

「一国一城の主人」。料理人になれば全員が全員とは思わないが、せっせと修行した料理人の何割かは、いつかは自分の料理を思う存分表現できる、店を持つことに憧れるという人だって少なくないと思う。

食材選びからコースの組み立て、使う調理器具や食器、店舗の内装に至るまで、料理は全ての工程を通したインスタレーションアートだし、料理人はそのアートを自然の恵みである食材との共同作業で作るアーティストだからだ。

「美味しいものを作りたい」

一心に食材と向かい合う真摯な姿勢にファンがつくし、レストランでできるリアルな体験はお店と顧客との関係性をより深いものにする。

料理はそれだけの価値あるコンテンツになりうるのだと思う。

しかし、そんな価値あるコンテンツを生み出す “お店” は、実際にリアルな物件である店舗のことなのか。

いや、もちろんそれを含むことはあると思うが、“お店”という概念が店舗とイコールだとわたしは思っていない。

それが露呈したのが今回のコロナショックだったのではないか。
リアルな場を持つ事業をメインとしている事業者の誰もが苦しかった今年だけれど、あっけなくお店を閉めざるを得なかったところと、そんな中でもお店としての挑戦を諦めずさらにその価値を育てたところに分かれたからだ。

ただただ目の前の状況をクリアするための対処療法に追われるのではなく、この機械に前向きに新たな事業に乗り出したお店は、何が功を奏したのか。

飲食店がブランド化していく

そのひとつとして、“お店”をひとつの概念と捉えているかどうかなのだと思う。

EATLAB では本拠地である石川県小松市の飲食店と一緒に「Eat KOMATSU」というサービスをこの4月にスタートした。飲食店として営業をしていてもお客様に入ってもらえない、来てとも言えない状況に、なんとかアクションしたいと願う飲食店オーナーの相談をきっかけに開発がスタートした、コロナが落ち着いたタイミングでお店に来てもらうための前売り食券を購入するためのサービスだ。

このサービス自体は、その場しのぎの現金を確保することしかできないし、長期目線で見たときの解決策には到底ならない。

しかし、飲食店(お店)の本質を“店舗”ではなく“お店(ブランド)”だと考える一部の店主たちは、Eat KOMATSUでチケットを販売することで、そこで得た話題性もバネにしてテイクアウトやデリバリーをさらに伸ばしたり、お客様とのコミュニケーションに上手に活用してくれた。

テイクアウトやデリバリーだって、店舗としてのディナータイムの売上から比べたら全くもって代替にならない程度の売上である。しかし、お店=ブランドというイメージの店主たちは、ブランドとしての顧客とのコミュニケーションを切らさない。

飲食店はリアルな場を持ってきたブランドの強みとして、顧客との関係性が深いことが挙げられる。せっかく築いてきた顧客との関係を、店舗での営業が困難な局面において途絶えさせてしまってはいけない。その関係性は、確かに店舗に来ていただいて生まれたものかもしれないけれど、別にその店舗というハードだけについたファンではないと思うのだ。

料理人や店主がこれまでに提供してきた体験は、店舗というハードの存在が危ぶまれた瞬間に崩れて無くなってしまうものではないと思う。もちろん、そのハード空間が提供してきた価値もあるだろう。しかしその空間に宿った価値の本質は、その空間そのものがなければ本当に提供できないものではないはずだ。

コロナショックを受けて引き続き頑張っている飲食店は、Eat KOMATSU のような食券の前売りサービス、テイクアウトやデリバリーといったもしかしたらこれまで挑戦もしたことのなかったような中食サービスに挑戦しているのも、直近の現金の確保は前提としてあるとはいえ、それ以上に期待してるのは顧客に忘れられないということではないだろうか。

noteでは、「sio / シオ」という代々木上原のレストランがこのコロナ渦にお家でsioの味を楽しめるレシピを連載して話題となり書籍化にまで至った。

この #おうちでsio の取り組みで興味深いのが、ディナータイムに1万円以上のコースをメインとするレストランである sio が、家にある食材でとっても簡単に作れる、でもとびきり美味しくなる料理のヒントを伝えている点である。

ブランドとしての価格帯を考えれば、一見すると価値を落とすことになるのではないか、レシピを教えることでレストランに来るお客様を逃してしまうことになるのではないか…などの様々な議論を生んだようだが、結果として、現状、sio はこの「#おうちでsio」の連載によってコロナ渦でお店に来れる人などほとんどいない状況の中、既存のファンとはより深いコミュニケーションを生んだし、新規のファンも増えただろう。今は行けないけれどコロナが落ち着いたらこのお店にいつか行ってみたい、そう思う人も少なくないはずだ。

お店のスタンスそのものを消費する時代

しかし、このコロナ渦で多くの飲食店がテイクアウトやデリバリーを始めたり、加工食品を作って自身のお店で販売し始めたことで、外食と中食と内食の住み分けは完全に崩れ去った。

それを逆手に取れば、飲食店のあり方が、今後はこれまでのような場に紐づく業態とは限らなくなるのだと思う。そうなったとき、sio のように通常営業から離れている間も自分たちの考えやお店に来られないお客様に役立つコンテンツを丁寧に発信することで本質的なスタンスを明確にしていることは、今後また飲食店として店舗での営業の継続ができなくなるときが来たとしても、軸をブラさず大事なことを見失わずに新たなことにチャレンジできる。

つまり、飲食店はお店にこれまで通りの集客をできない時期だからこそ、自分たちはどういうスタンスでお店をやっていて、あるいは料理を作っているのかということを、これまでのお客様やまだ見ぬお客様に伝えていくことに真剣に取り組んでほしいと思う。

わたしが食や観光という分野をメインにキュレーターをさせていただいている「ミライ+コロナ」プロジェクトでキュレーションする食のニュースやアイディアも、飲食店の既存の厨房を使ってテイクアウトやデリバリーを気力で頑張る的な急を凌ぐようなアイディアだけでなく、ここ最近ではむしろお店に来てもらうことを前提としない業態としてのクラウドキッチンに関するニュースや、大手飲食店と食材配送サービスの業務提携による加工食品開発のニュースなど、対処療法的なアイディアから、まさに SDGs の9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」という状況に突入しだしたと思えるニュースが増えてきた。


noteで様々なブランドが自分の商品を語るよりもそこに至った経緯やもっと根幹にあるブランドフィロソフィーを語り始めている時代。誰がやるかよりも、何を考えているかが重要視されていることの現れである。マーケティングの世界では、顧客体験を重視した”コト消費”からブランド哲学やスタンス表明としてブランドを纏う”イミ消費”へと変化してきたとも言われる。大きなプラットフォームや産業基盤が変化する時代に、自分たちのスタンスを明確にしておくことこそが、今後のありようを見極める際に重要な判断基準となる。

飲食店もまた、自分たちのブランドとして本質的に伝えたいことはなんなのかを問い直し、ブレてはいけない軸を見据えていかにそのほかの部分を柔軟に考えながら新しい暮らしの中にどういった価値を提案するか、それをとことん考える時期に差し掛かっているのだろう。


<今回のコラムで取り上げた SDGs の関連目標>
 8 :「働きがいも経済成長も」
すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する
 9 :「産業と技術革新の基盤をつくろう」
強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る 

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