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スパイス1グラムの違いが命暫れる - カレー職人の修行の世界

「昨日と同じスパイスを使って、同じ分量を計って、同じ手順で作ったのに、なんで今日は全然違う味なんだ!」

これは、とあるカレー専門店で修行中の若手シェフが、師匠に投げかけた言葉です。その時、師匠は笑いながらこう答えたそうです。

「スパイスは生きているんだ。」

実は、カレーを作る時に使うスパイスって、とても気まぐれな存在なんです。同じターメリックでも、朝挽いたものと夕方挽いたものでは香りが違います。クミンだって、今日と明日では、その主張する強さが変わってきます。

あるカレー職人は言います。
「スパイスは、まるで楽器のよう。一つ一つの音が違えば、そのハーモニーは全く別物になる。カレーを作るということは、毎日が一回限りの演奏会なんです。」

修行期間は通常3年から5年。でも、「10年やってもまだまだ」という職人さんも珍しくありません。その理由は大きく分けて3つあるんです。

  1. スパイスを見極める目を養う
    「スパイスの状態を見分けるには、まず目と鼻の確かさが必要です。色つやが良くても、香りが弱ければ使えない。逆に、見た目は悪くても、芳醇な香りを放つスパイスもある。この見極めだけで、最低でも2年はかかりますね。」(東京・神田のカレー店主)

  2. 火加減のマスター
    「同じスパイスでも、炒め方一つで全然味が違ってくる。強火で一気に炒めるのか、弱火でじっくり炒めるのか。それぞれのスパイスに最適な火加減があるんです。これが分かるようになるまでが本当に大変。」(大阪・本町のスパイス専門店店主)

  3. 配合のバランス感覚
    「レシピ通りに作っても、その日のスパイスの調子で味が変わります。だから、その都度、微調整が必要。でも、調整し過ぎると今度は個性が消えてしまう。この匙加減が、もう本当に難しい。」(福岡のカレー職人)

面白いことに、カレー職人の世界では「絶対的な正解はない」と言われています。むしろ、「その日のスパイスの個性を活かしきれるかどうか」が腕の見せ所なんです。

ある有名店では、毎朝、職人全員でスパイスの状態をチェックする「朝会」が行われているそうです。まるでソムリエのように、スパイスの香りを確かめ、その日の使い方を決めていく。

「今日のカルダモンは、いつもより強めだな」
「ターメリックの色が冴えてる。これは活かさないと」
「クミンの香りが落ち着いてるから、少し増やしてもいいかも」

こんな会話が、毎朝繰り広げられているんです。

でも、実はこれって、家庭でカレーを作る時にも大切なヒントになります。

「いつもと同じように作ったのに、今日はなんか違う…」そんな経験、ありませんか?それ、きっとスパイスたちからの「今日は私たちこんな気分よ」というメッセージかもしれません。

次回は「なぜ金曜日はカレーの日になったのか?給食文化から見る日本のカレー愛」をお届けします。お楽しみに!

(おわり)続き・¥・・

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