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緑の祭壇「ショートホラー」

その村は深い森の中に隠れるようにして存在していた。外部の人間はほとんど訪れず、村人たちは独自の伝統と生活を守り続けていた。その中でも、村人が「緑の祭壇」と呼ぶ儀式は、特に奇妙なものだった。


毎年夏至の夜、村の中心にある古い巨木の前で、村人全員が集まる。そして、決して外部には漏らしてはならない「選定」が行われるという。村外れの小屋に住むユウキは、その儀式についてほとんど何も知らされていなかった。外れ者である彼は、村人から距離を置かれ、日々をひっそりと過ごしていた。


だが、その年の夏至の夜、ユウキは偶然、祭壇の場面を目撃してしまった。


森の奥深く、月明かりに照らされた巨木の下には、村人たちが一列に並んでいた。そして、祭壇の中心には、巨大な彫刻のような「何か」が鎮座していた。それは人の姿をしているように見えたが、苔や植物が体を覆い、目の位置には真っ赤な実が輝いている。


祭司のような姿の老人が一人、厳かな声で呪文を唱える。次の瞬間、列の中から一人の少女が前に引き出されると、村人全員が一斉に地面にひれ伏した。


「自然の怒りを鎮めるための捧げものだ」


ユウキは凍りついた。少女の目には恐怖の色が浮かんでいたが、何も言わずにその場に立っていた。村人たちは彼女を彫刻の前に跪かせると、その彫刻が動き始めた。苔に覆われた腕がゆっくりと少女に触れる。そして、次の瞬間、少女は深い緑の光に包まれ、まるで植物の一部に溶け込むように姿を消してしまった。


驚愕と恐怖でその場から逃げ出そうとしたユウキだったが、背後から村人の声が聞こえた。

「見たのか?」


振り向くと、そこには村人全員が無表情で立ち並び、ユウキをじっと見つめていた。


翌朝、ユウキは村人たちに囲まれ、巨木の下に連れて行かれた。逃げようとしたが、体が動かない。老人が低い声で言った。

「外れ者であるお前を、緑の祭壇が望んでいる。」


その言葉を最後に、ユウキの意識は途切れた。目を覚ますと、彼の体は苔に覆われ、手足が木の根のように変わり始めていた。そして、かつて自分が目にした彫刻の一部となっていることを悟った。


村人たちの静かな祈りの声が聞こえる中、ユウキの目には真っ赤な実が輝いていた――次の捧げものを見定めるかのように。



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