3社目
訓練校には『指名求人』というシステムがある。自分の年齢や経験などの情報を全国の会社に流すことで向こうから求人票を送ってくれるというシステムだ。簡単に言い換えれば「うちの会社どうでっか?」と向こうからきてくれるわけだ。しかしこのシステム結局みられているのは年齢ぐらいであまり内容への関心どうのこうのは関係ないと先生は言っていた。若いほど指名求人は多く、年寄ほど少ないらしい。中にはこんな条件でよく送れるなぁという内容のものもきた。
私が選んだ指名求人は二件で一つはビルメンテナンス,もう一つはエアコン屋だった。正直第一希望が落ちた時点で気分的に落ちていたのと焦っていたのとで正直二つの会社とも特に魅力には感じていなかった。だが40社ほどの指名求人を手にしたとき、どれかに応募しなければ損だぐらいの気持ちもあった。
同時に書類を送って面接の話が最初に来たのはエアコンの会社だった。今考えてもおかしい。現場の仕事は嫌なはずでもちろんエアコンに興味はない。面接のトレーニングをするぐらいの気持ち。
面接当日の朝はバスが遅れてギリギリだった。急いで社内に入ると人事の人が迎えに来てくれた。待合室に最初に通されるとそこにはもう一人私と同じヘアスタイルの人がいた。会社のパンフレットを渡され会社の概要を説明された。その後に適性検査といって漢字の読み書きや、計算などをさせられると面接会場である会議室に通された。
真ん中に社長とサイドに二人ずつの腰巾着たち、一番下は40半ばぐらい、上の方になると定年を超えていそうな勢いだった。いつもどおり今までの経歴と前職を辞めた理由を聞かれる。そして職業訓練校のことを知っているからか企業実習の会社についても聞いてきた。いまからその内容を「前職の退職理由について」「企業実習について」「前職、三社目、企業実習の会社の規模について」の三つに絞ってつづっていこうと思う。
「前職の退職理由について」
これは答え方を間違えたと思う。空調の会社なのに辞めた理由をコロナのせいにしてしまったからだ。面接官からは「うちはエアコンのフィルターなど触ることもあるけど大丈夫か?」と聞かれてしまった。これは普通に頭が悪かったと思う。
だが社長から発せられた言葉に私は耳を疑った。
「もう5年続けていたら芸能界の人脈や、またすると芸能人を生涯の伴侶に迎えられたかもしれないのにどうしてやめたのか」
と聞かれた。
社長が業界で仕事をするときの第一義がそうなのかもしれないが、まず自分がやったこともない仕事を大体のイメージで語るのはあんまりよくない。彼の言ったことばのどれもを私は目標にしていないからである。人脈も嫁さんも欲しくてやっていた仕事ではない。映画が好きだからやっていただけ。そのシンプルな思いでの過去をどうでもいい可能性の話でもってぶつけてくるのはコンプラとか学んでほしいなと思った。他人にどうこう言われる筋合いのないことはぶつけてこなくてもいい。残念なトップである。
「企業実習について」
前述したとおり、実習先に行ってそこに就職する人たちもいる。その話をするとなぜそこの会社には就職しなかったのかと社長が聞いてきた。正直に消防設備の会社だと思って選んだらインターホンの工事などでやりたいこととは違うなと思ったからだと答えると社長は隣の腰巾着に
「エアコンの工事も弱電の工事と似てるよな?」
と当てこすってきた。
要は「実務の内容としては似てるけど大丈夫か」と言っているのだ。私は内容が分かっていて応募するのと、興味あることだと思って応募したがふたを開けてみたら違ったという話は違う。と話したが向こうの訳の分からない忖度フィルターにはあんまり通じていないようだった。内心この辺から(ハズレ引いたなぁ)と思ったし部屋を出ていきたかった。もし受かっても内定を受けるつもりはない。
「前職、三社目、企業実習先の会社の規模について」
この比較についてはほんとによくわからなかった。前の職の年商を聞かれてよくわからないと答えると腰巾着が調べだす。「〇億円です」と腰巾着。
「うちは〇億円です(前職の年商より高い)」
そんなん言われても、、、おまけに別に行く気もない企業実習先の年商も調べてドヤってた。そこに関しては実習先に電話でもしてくれればよかった。
よくあるおっさんのどうでもいい「知らんがな」自慢に付き合わされている気分だった。
そして自分の懐に入る金が『金』なのであって会社の年商でマウントをとられたところで何の意味があるのだろうと思っていた。年商がいいからと言って大した給料は寄越してくれない求人票してるのに。
面接も最後になると私の前職の多忙ぶりを見込んでか「うちは週休二日で土日も仕事があります。でもこんなご時世ですので代休も取ってもらえますし、残業代も支給します。」と社長。
このおっさんの言っている「こんなご時世」の中には『モラル』とか『パワハラ』は含まれてないんだろうなと思い最後に挨拶だけして帰った。
午後からは訓練所に行くつもりだったので直接向かうことにし、道中グーグルマップに悪評を書き口コミ評価で総評を下げておいた。
合否は職業訓練所の修了日、喫茶店で他の訓練生と今生の別れを惜しんでいるときに合否の否の電話がかかってきた。面接の時点で十二分に腹の立っていた私は「行く気はありません、あーりあーした」と言って電話を切った。