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わたしたちは花でかこまれるような恋をしなかったね

わたしたちは
うまれるまえに
悪い事をしたように
この世界をはじめから
諦めていて
恋人 青木景子 青いコスモスより サンリオ

私は恋愛が苦手で、誰と付き合っても、どこかしら冷めて、夢中になることはなかった。

全てを投げ出してもいいと思える人は1人だけいたけれど、結局、私から別れを選んだ。


はじめは遠距離で、一度別れ、よりを戻したら不倫になった。

祝福されようもない恋だったけれど、親友は味方してくれた。

「あの人なら仕方ない」

と。

どこまでも、相手も、自分も追い込んで、幸せな恋ではなかった。

私は常に正論で相手を責め、彼は私から癒しを得られなかった。

不倫関係になってから、彼の趣味が私の職種になっていて、当然私はその分野に詳しくなっていてたので、彼の専門的な話題にもついていけた。

「こんな話を出来るのは、君しかいないよ」

不倫のお定まりの台詞。

色気のない話を、暗い山道や、人気のない駐車場で何時間もした。

今更、どうしても彼の笑った顔が思い出せない事に気づく。

何故だろう。

13年もそばにいて、当たり前だが、笑い合ったこともあるし、笑い声は覚えているのに。

思い浮かぶの、少し困ったような、でも蔑みを含んだ、冷たい眼差し。

不倫関係になる前、普通に付き合っている時、私は仕事で常にキリキリしていて、余裕がなく、自分の専門分野以外のことに興味なく無頓着で、そうして、彼の仕事に理解がなかった。

彼は私をヒステリックな人間だと称し、理性的に話が出来ない、向上心のない女だと思った。

好きだからという理由で、実りない仕事に固執し、面白みもなかったろう。

転職して、再会し、そうして不倫関係になった時の方が、お互い自然に寄り添えた。

皮肉だが、彼の本当の1番になれないことは、私からあらゆる期待する気持ちを捨てさせ、余裕が生まれた。

以前は仕事場と家をひたすら往復するだけだったが、新しい職場では、しょっちゅう出張が入り、仲間との飲み会や交友関係が広がって、彼は嫉妬することもあったけれど、そういう私の変化を喜んでくれた。

でも、それは、本当の私じゃない。

私は利己的で排他的で、かつ打算的だ。

若い頃はそういう自分が嫌で、無理に取り繕うとして、かえって粗が出た。

年をとり、経験が増えて、どうすれば好かれるのか、仕事が取れるのかを学習したにすぎない。

いつだって余裕なんてなかった。

ただ、笑ってやり過ごすべを学んだ。

彼はそれを知らない。

私の友達に、基本仕事以外は引きこもりが多いと話した時、彼はとても驚いた。

君が?それ、話しが合うの?

私も、仕事以外では本当は引きこもりたい。

13年も付き合って、そんな事も気づかれない程度の女だった。

それでも、私は彼に執着した。

彼も私に執着した。

私にとっては恋だったけれど、彼にとってはそうでないことはわかっていた。

君は優しい、という言葉に隠された、残酷な拒絶。

私は彼の全てを受け入れ、話に合すために日々勉強し、望む行為をして、わがままを言わなくなった。


そりゃあ、彼にとっては居心地のよい環境だったろう。

都合のいい女。
そのままだ。


それなのに、なんで未だに好きなんだろう。

あまりに苦しくて、北に、気持ちを吐き出した。

「そんなに誰かを好きになったことがないからわからないけれど、理屈で解決できない思いがあるのはわかるから、仕方ないんじゃない?」

彼に出会って、私は幸せだっただろうか。

彼に見合う女になる為に、様々な努力をした。
苦しかったけど、それは良い経験となり、私を形作っている。

恋心は成就することはなかったけれど、そんなに悪いことばかりじゃなかったはずだ。

よい思い出にしてしまえば、楽なんだろう。

でも、まだ私の恋は終わらない。
だからずっと、その心が血を流し続けている。

彼の心を望まないと決めたのは私自身だ。
それに後悔はないのに、古傷が痛むように、胸が騒ぎ、焦燥感に襲われる。

もう、終わりにしたい。

でも、終わりにしたくない。



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