ナルシストのゲイ(疑)との出会い
医療事務から携帯販売営業へ転職
北との出会いは、私の転職先の営業先である家電量販に、北が勤めていたというありきたりなものだ。
私の担当するモバイル担当の責任者は、明るい可愛い女の子だったのだった。
初日、挨拶だけすまして帰ろうとすると、
「待って」
と引き留められた。
「お客様が来て」
「はい、お邪魔でしょうから帰りますね」
「契約の仕方がわからない」
営業所に電話したら「OK、頑張って」
おお。
ちょっとびっくりした。
私の会社の携帯を買うお客様でないし。
しかし、本気で困っているのは分かったし、受付用紙(当時の家電量販は紙で受付した)なんて各社そこまで変わらないし、カタログ片手に説明して、普通に契約した。
その日は平日だったが、お客様が多く、問い合わせも何件か来て、責任者の女の子は明るく接客は出来るのだが、知識がまるでない。
仕方なく私が変わって、何件かは自分の会社の携帯の新規契約にして、その日は終わった。
「私、今日から責任者になって」
閉店後、シメ作業中に彼女が言った。
「昨日まで美容コーナーにいたんだけど、携帯コーナーは若い女の子の方がいいって社長に言われて」
「前の担当の方は?」
「なぎさんの会社に引き抜かれて、今日から東京で研修してるはず」
先輩からスーパーバイザー候補を教育中と聞いたが、ここの社員だったのか。
「明日からキャリアごとに派遣の人が来てもらえるんだけど、私こういうの向いてないと思うんだよねー」
「……」
なんとも返答しづらい。
出会い
「あ、今通ったのが北さん」
彼女が指を指した。
細身の背の高い男性が横切っていく。
「頭いいし仕事出来るよー。あの人の方がここの仕事向いてると思うんだよねー。でもパソコンコーナーが手放さないかー」
ため息をついた。
「でも、多分ナルシスト。残業になるといつも服を脱ぐんだよねー。ジムにも通っているし、筋肉自慢したいのかな」
ほっそり見えるが、脱ぐとすごい系なのだろうか。
「あと、モテるんだけど、みんな断るんだよねー、ゲイだと思う」
北との初対面は、本人と挨拶もしていないのに、こうやって終わった。
ナルシストのゲイ。
なるほど。
世の中には色んな人がいるもんだ。