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子供と夏山縦走②

2日目 燕山荘~大天井岳~常念小屋

空がだんだんと薄らいで、藍色の空にピンク色が混ざり、世界が明るむ4時半頃。

昨日は、先端が雲に隠れて山頂が見えなかった槍ヶ岳が姿を現し、その荘厳な姿に圧倒されながら、澄んだ空気を身体いっぱいに吸い込んで、燕山荘を後にする。


2日目は、燕山荘から大天井岳を経由して、常念小屋を目指す約7時間のルート

稜線に出ると思った以上に風が強く、太陽がまだ出ていないので体感的にもとても寒く、もう一枚着込めば良かったと思いながら歩き出しました。

こういった体温調節は子供は一段と難しく、朝イチにも関わらずペースがあがりません。寒いと集中力が切れがちになるのが見てとれたので、声をかけながら、風の強い稜線を一歩一歩慎重に歩きます。

這松の間は風が収まるので少しほっとして気力を回復させつつ、岩陰で行動食を取り、休みながら進むうちに太陽が昇ってきました。

御来光を背中に、太陽をじんわりと感じて、世界はあっという間に、明るさと温かさで包まれていきます。

“日はまた昇る”この当たり前の自然の摂理を改めて全身で感じて、感動しながら進みます。

大天井岳へ続く縦走路は青空のもと、どこまでも緩やかに続き、右手には深い緑の北アルプスの峰々が連なり、斜め前方には槍ヶ岳。

子供とアルプスの稜線を歩く。

大天井岳に続く稜線

やりたかった想いが実現した幸せを噛みしめながら、山の爽やかな風に心も身体も浄化されていく充足感といったら。

足元に咲くコマクサに優しい気持ちになりながら、下っては登ります。

稜線はずっと続くので、どこまでいったらいいのかしきりに聞いてくる子供達。

「先よりも、次の一歩をよく見てね」と声をかけながら、崖を登り、切通岩のクサリ場を通過して、喜作レリーフに挨拶を。
(喜作レリーフ:地元の猟師、小林喜作。山の案内人として、1920年頃中房温泉から槍ヶ岳ルートを開削した人)

切通岩から喜作レリーフへ

北海道のニセコの山奥で山小屋を営んでいた祖父をそのまま思い出します。

祖父も山道をひとりで整備し開削ていました。
自分が子供の頃、夏休みをどっぷり過ごしたその山は、今は登山道を整備する人もいない。

山小屋も、もう跡形もありません。
記憶だけが心にずっと残り、時々懐かしさと切なさが入り混じった感情が蘇ってきます。

安全に山道を歩くことができるのは、登山道を整備する人達がいるからで、熊笹を狩り、足場を補強し、ルートを作り上げてきた先人達に本当に頭が下がります。

山はずっと変わらずにそこにあるからこそ、歴史を体感することができ、時代が変わっても同じ感動を共有できる。

だいぶノスタルジックになるけれど、普遍的だからこそ魅了されるのもひとつの確かな理由だと思うのです。

大天荘から

一歩間違えたらというスリル満点な岩場を超えて、9時頃大天荘に到着し、燕山荘で作ってもらったお弁当を頬張って、元気を回復。

弱音を吐く小5ムスメの気持ちを乗せながら、常念小屋を目指して再出発。

熊に出会った東大天井岳の稜線

東大天井岳を横切る途中、なんと熊が目の前を通り過ぎる一幕も。一瞬のことだったので、写真を撮ることはおろか、言葉も出ずに、家族全員息を殺しました。

50mくらい距離があったから良かったものの、とっさに考えたのは死んだふりをしたらよいのかとか、そんなこと。

かなり無防備だったので、せめてもと、どれだけ役に立つのか首をかしげながら、熊鈴を常念小屋で買いました。

東大天井から横通岳は雲が覆い、ゴールが全く見えないまま霧の中を歩くのはなかなかハードで。

ゴールはまだかとみんなが思っている頃、なんと登山道をライチョウの親子がまるで誘導してくれるように目の前に現れ、先導してくれた思い出も。

雷鳥の親子が目の前を歩く

そんな姿に元気を取り戻し、13時過ぎなんとか常念小屋まで辿り着いたのでした。

約7時間のコースを子供の足で約9時間。

天気予報では雨が降り出している時間でしたが、奇跡的にも雨に降られなかったからこそ、途中泣き出すこともなく歩き通すことができたと思いました。

小屋で休んでいた夕方にザーッと雨が降り、洗われた空気の中、槍ヶ岳も雲の合間から姿を現しました。

夕陽が空をピンクオレンジに染めながら、藍色の夜空に移り変わる時間をただ眺める。至福な時間を噛みしめて、山が守ってくれたように感じてただただ感謝です。

夕陽と槍ヶ岳

3日目 常念岳~一ノ沢下山

3日目、3時半に起き出して星空を見上げたら、満点の星空、天の川、そして一瞬の流れ星。

4時半に常念岳を目指して歩き出す。本当は御来光を山頂で見たかったけれど、ここは無理せず。

山の中腹で朝日が昇り、また世界を優しく明るく照らし出し、槍ヶ岳の山頂が赤く染まっていくその瞬間に立ち会えたことで、エネルギーをもらいます。

常念岳中腹からの朝陽


常念岳山頂まで約1時間半。岩山で歩きやすいと感じましたが、子供の歩幅では歩きにくさもあったと思います。

それでも山頂に辿り着き、360度広がる視界。裏銀座の峰々、遠くには白馬、立山、西南には中央アルプス、富士山を見ることもでき、3日間晴れ渡った天気に感謝と達成感がひとしおでした。

麓に常念小屋、遠くに燕山荘

予定より少し遅れを取りつつも、一ノ沢の下山ルートを8時半に出発。「下りで良かった」、と感じるなかなかハードな沢沿いのルート。

丸太橋や沢の中を岩を足場に渡りながら、豪快な雪解け水を横目に下っていきます。

途中、山崩れで道が分断されているポイントも横切りながら、北アルプスの険しさと豊かさを噛みしめながら山をあとにしていきました。

最後の2時間はだいぶペースを速めて下ったように感じましたが、それでも予定より約1時間遅れ、予定6時間の行程を約8時間以上かけて歩き切りました。

予約したタクシーまで、道路を1.5km程下っていく途中で、雨が降ってきましたが、とうとう3日間、ほぼ雨に濡れずに完歩。

タクシーに乗り込んでからザーッと降ってきた雨を見ながら、今回、白馬よりも立山よりも、晴れ予報が少しでも多い北アルプスに決めたことは、子供達もくじけず歩けた要因のひとつだったかなと、散々悩みながらもこのルートにして良かったと、心底思ったのでした。

2泊3日の夏山を子供と楽しむ為に

子供と夏山縦走は、天気、体力、体調、自然環境、様々な条件を網羅的に考える必要があります。

山は何と言っても天気が一番で、行程を左右するのは言うまでもありません。

天気予報はもちろんのこと、天気図で気圧配置を確認して、早朝から午前中までの間で、子供の足を考慮して通常の1.2~1.5倍の時間がかかると計算して、計画を立てました。

天気、ルート、荷物は考え尽くせるだけのことを準備しながらですが、最新情報をすぐに手に入れられるようになったからこそ、子供と一緒に山をより楽しむことができるようになったとも思います。

<我が家での情報活用方法を少しご紹介>
・天気:複数の天気アプリ、山アプリで比較検討(てんきとくらすなど)
・ルート:山と高原地図ホーダイ
・荷物:家族一人ずつの荷物をリスト化
(前年のリストを残しておくと、足りないと感じたものをUpdateできて便利)

山では自分だけではなく、子供の小さな変化も確認しながら、頭と身体全身の感覚をフル稼働です。

山を歩く順番も時々で変えながら、子供それぞれの歩幅、歩くペースによって目を配れるようにサポートできると安心かなと思います。
私は山道を確認しながら先頭を歩くことが多く、旦那さんが最後尾を。

歩きながら見ていた視点が全然違ったことも興味深く、私は先頭で歩きやすい次の一歩と休憩地点を。旦那さんは後方から、雨雲の流れと危険がないか(熊も一番に発見)、時間と子供の様子を地図を見ながら確認していました。

自分だけじゃないからこそ責任も重く増しますが、その体験と感動を共にできることは、何事にも代え難く、人生の意味を考えさせられます。

子供達も遥かそびえる山に一歩ずつ挑戦し、登りきった達成感や、喜びや感動は夏の良い思い出になったかなと。

いつかどこかでふと思い出した時、この時の感情が、その時の彼女たちを勇気づけてくれたら嬉しく思います。

山は自分に向き合える最高の場所のひとつだと思います。
大切な人との夏山、素晴らしい体験となると思うのでぜひおすすめです。


ここまで長文にお付き合いありがとうございました。


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