白い粉への愛
最近、市場に白い粉がない。ホットケーキミックス、薄力粉、強力粉。うどんや素麺などの乾麺もたまに品切れしている。
スーパーの粉売り場には「流通の混乱により品薄になっております」とある。カップ麺やシリアル、納豆などもたまに品切れしている。本当に流通が混乱しているのだろうし、その情報を知った消費者が買いに走っているからさらに品薄になっているということが大きいのだろう。しかし私は、未曾有の危機に際し、本能的に備蓄しておこうという意識が働くのかしら、ということも考えてしまう。
さてうちはどうだっけな、と在庫を確認したら、ろくに減っていない強力粉が見付かった。しかし賞味期限が1か月ほど切れている。冷蔵庫に入っていたものだし、乾物だからまだ大丈夫でしょ。にわかにパン作りを再開した。
私がまだ二人目を妊娠するかしないかの頃、友人に連れられてちぎりパンの教室に行った。その教室は意識高い人達の集まりで、オーストラリアでは流行っているという、赤ちゃんのよだれだか噛み癖だか癇癪がなくなるという鉱石のネックレスを厚意で(!)販売する人や、自分の習字教室の宣伝をする人などがいた。私はそこで初めてアーティーチョークの塩ゆでを食べ、それはとてもいい経験だったけれど、それ以降その教室には行っていない。私は翌日、焼き型の付録がついたちぎりパンのムック本を買った。それにも飽き足らず料理雑誌のパン特集も買った。確か一、二回は作ったが、そのまましばらく放置していたのである。
それらのレシピで久しぶりに作ったのはこのシナモンロール。見た目に反して案外簡単なのに、シナモンとレーズンの甘さがプレーン生地にマッチして最高に美味しかった。
次はメロンパンちぎりパン。普通のパン生地にメロンパンのクッキー生地を乗せた。ちょっと不格好になったけれど、子供には好評だった。
これをつくった時、フォロワーさんに「ブリオッシュ生地でメロンパンを作ると最高に美味しい」と聞いた。はて、ブリオッシュ生地。マリーアントワネットが言ったとされる「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という言葉は本当はお菓子じゃなくてブリオッシュだったとか、いやそもそもアントワネットはそんなことを言っていないとかいう、あのブリオッシュか。調べてみるとバターも卵も多めに入れる、リッチな生地らしい。
このレシピを参考に、とりあえずブリオッシュをつくるぞ。少し寂しいからドライフルーツも入れよう。
パン作りは材料をこねた後、二回の発酵を経て成形し、オーブンで焼くのが一般的だ。ドライイーストは、店のパンを濃縮したような独特の臭みがあるけれど、こねていくと段々気にならなくなる。
一次発酵を終えて成形。二次発酵させる。
二次発酵を終えた生地の表面に溶き卵を塗る。これは期待できそう。
焼けた! バターのとろけるような香りが部屋中に広がる。溶き卵を塗っているし、バター多めの生地なので表面がざっくりと香ばしい。
生地そのものには甘味はあまりないので、軽く温めたパンにバターとジャムを塗る。美味しい。この生地でウインナーを包んでもいいかも。もう少し砂糖を入れてこれだけで食べられるパンにしてもいいかも。夢は膨らむ。
でも強力粉の粉はしぼんだ。やっと使いきったのだ。
しかし、ドライイーストはまだまだたっぷりある。しかも悪いことに、ドライイーストは開封したら発酵力が落ちるらしい。
私は新たな強力粉を買う旅に出た。私は今、白い粉に翻弄されている。