窯変 お伽草子
いまはむかし。あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。
「炭焼きに行ってくるよ」
「ああ、行っといで」
おじいさんは、えっちらおっちら山へでかけます。
たくさん働いてのどがかわきました。
「どこかにわき水はないかのう」
おじいさんは、岩のかげにきれいな清水がわきでているのをみつけました。手ですくって、ごくごくごく。
それは、なんともおいしい水でした。飲むほどに、気持ちがすっきりして、もりもり元気がわいてきました。
おじいさんはえっさかほいさとしごとを終わらせて、どっさり炭をかついでうちに帰りました。
「ばあさん、いま帰ったぞ」
おばあさんは、家の外にでてみてびっくり。肌はつやつや、髪はふさふさ、腰も背すじもしゃんとのびた若者が立っていたからです。
「これは、どちらさまで?」
「なにをいっとる。わしだ、わしだ」
おじいさんからふしぎな水の話をきくと、おばあさんは
「いいなあ、おじいさんばっかり若がえってずるいなあ」
いてもたってもいられなくなり、よく朝一人で山へ出かけました。
「あった、あった」
おばあさんは清水をみつけると、いきもつかずにがぶがぶごくごく。ずいぶんたっぷり飲んでから、水に顔をうつしてみると
「ほっほっ。なかなかいい感じ。だがもうひとこえ」
ごくごくごく。
夜になりましたが、おばあさんは帰ってきません。おじいさんだった若者は心配になり、山へさがしにいきました。
「ばあさんやーい」
すると、ほんぎゃあ、ほんぎゃあと、赤ん坊の鳴き声が聞こえてきました。あわてて声のするほうに行ってみると、清水のほとりで、ぴかぴかと玉のような、うまれたての赤ん坊が、おばあさんの着物にくるまってほんぎゃあ、ほんぎゃあと泣いているのでした。
「水を飲みすぎたんだろう。あれは、よくばりな女だったからなあ」
どうせ赤ん坊には分からないだろうと、若者がひとりごちると、若者の腕の中で顔を真っ赤にして泣いていた赤ん坊がすっと真顔になり、歯のない口でもにゃもにゃと話し始めたではありませんか。
「ああ、そうさ。さいしょはわかがえったのがうれしくて、もっと、もっととのんだよ。でも、きづいちまったのさ。このままいえにかえったら、わかがえったおまえさんに、またはらませられるってね。たねつけるのだけいっちょうまえで、ややこのめんどうをろくにみないで、やまににげっちまうおまえさんじゃないか。ねんじゅうおもたいはらぁかかえて、じゃりっこたちのめんどうをひとりでみるくらしはにどとごめんだね。だからあかんぼうになるまでみずのんでやったのさ。さあ、これからあたしをごしょうだいじにそだてるんだね」
そこまでいうと、舌足らずながらおばあさんの口調そのままにしゃべっていた赤ん坊はただの赤ん坊にもどって、またほんぎゃあ、ほんぎゃあと泣きはじめました。
おじいさんは仕方なく赤ん坊を家につれてかえり、おしめのかえ方からあやし方から、おとなりのおかみさんに教わりながら、手さぐりで赤ん坊を育てましたとさ。