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読書記録 『隠し女小春』ほか

 『隠し女小春』辻原登書
 独身中年男性がラブドールを手に入れてから、人生が少しずつ変わっていく話。ラブドールを「隠し女」と表記するのが気に入って借りたのだけれど、ラブドール小春がどのように主人公を愛するようになり、また人間のように振る舞うようになったかがあまり説明されないまま、また主人公も疑問に思わないまま、主人公と小春の関係とは別の話ばかりが進んでいくので、「あれ、私は今東京周辺のグルメや、文学好きにはたまらないスポットの紹介本を読んでいるんだっけ」という気持ちにさせられた。確かに、小春のことばかり書いていたら主人公の生活はリアルではなくなるのだろう。出版社の校正部で平日仕事をし、字幕翻訳者の女と知り合ったり学者の旧友と会ったりするのが主人公の現実なのだから。しかし、そのスノッブともいえる部分が小春とのあれこれに多少なりともつながって来なければ、読者はただ筆者の知識をひけらかされるように感じ、イライラさせられるだけだろう。


 この本と並べて紹介するのがはばかられるのだけれど、ケン・リュウの『もののあはれ』もようやく読了した。これは『紙の動物園』として一冊になっているものを、日本では分割して出版したとのこと。不死が実現した世界を描く、映画化もされた『円弧(アーク)』がいいのはもちろんだけれど、最後に収録された『よい狩りを』が特に良かった。西洋化が進むと、中国を覆っていた魔法の力はどんどん消え、殭屍(キョンシー)も妖狐も姿を保っていられなくなる。

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