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ストレスに強くなるためのカギ〜首尾一貫感覚(SOC)とは何か〜

首尾一貫感覚(SOC)とは?

3つのカギになる要素

皆さんは映画『ライフイズビューティフル』をご覧になられたことがあるでしょうか。この記事のイラストは映画をイメージしています。この時代を生きた人々の経験を対象としたとある研究結果は、現代社会におけるストレス対処法にも大きなヒントを与えてくれています。

イスラエルの医療社会学者であったアーロン・アントノフスキー(Aaron Antonovsky, 1923-1994)は、SOC(Sense of Coherence:首尾一貫感覚)の研究で広く認知された研究者です。彼のSOC理論は、健康に対する新しい視点を提供し、特にストレスと健康の関連性に焦点を当てたものです。

どのような研究であったかは、後述しますので、まずはストレス対処の際にこの概念において大切とされることに目を通してもらいたいと思います。

SOCは、ストレスに対処し、健康を維持するために必要な3つの要素から構成されています

1. 把握可能感(Comprehensibility):

• 人が自分の周りで起こる出来事や状況を理解し、予測可能であると感じる度合いを指します。つまり、周囲で何が起こっているのかがわかるという感覚です。

2. 処理可能感(Manageability):

• 人が自分に与えられたリソースやスキルを使って、困難な状況に対処できるという感覚です。自分にはその状況を管理できる力があるという自信ということもできます。

3. 有意味感(Meaningfulness):

• 人が、人生の出来事に意味があり、それに取り組む動機があると感じる度合いのことです。これは、人生や出来事が価値あるものであり、困難にも対処しようという積極的な意欲も指します。

SOCと健康

アントノフスキーの理論では、SOCが強い人は、ストレスフルな状況に対してより適応的に対処し、健康を維持しやすいとされます。具体的には、SOCが高い人は、ストレスを理解し、対処可能であり、さらにその対処に意味を見いだすことができるため、健康を害することが少ないという考えです。

このSOCの概念は、特にメンタルヘルスやストレス管理の分野で広く影響を与え、健康増進の観点からも重要な視点を提供しました。

SOC理論の誕生とその背景


彼の生涯の前半は、大きな戦争が起きた時代でした。彼自身はニューヨークで生まれたユダヤ人であり、第2次世界大戦中にホロコーストを直接経験していませんでしたが、ナチスによる残虐な民族大虐殺に対して深い悲しみを抱いていたと推測されます。その後、ホロコーストを生き延びた人の中に、なぜ一部の人々が非常にストレスの多い状況にもかかわらず、他の人よりも健康を維持できるのかに関心を持ちました。この疑問に対する答えとして、SOC(首尾一貫感覚)が重要な役割を果たすとしました。

対象者

アントノフスキーがSOC理論を発展させるきっかけとなったのは、ホロコースト生還者の女性たちを対象とした調査です。彼は、極限のストレスや困難を経験したにもかかわらず、予想以上に健康を維持している人々がいることに注目しました。この発見が、非常に困難な状況下でも健康を保つ要因は何かという疑問につながり、最終的にSOC理論の構築へと発展しました。

研究手法

アントノフスキーのSOC理論を確認するために、彼は定量的および定性的な手法を組み合わせて研究を進めました。

この調査は、ホロコースト生還者の心理的および身体的健康状態に加え、それに影響を与える要因を分析するものでした。特に、精神的な強さを持っている生存者に共通する要素を見つけることに焦点を当てていました。

SOCを育むために必要な要素

以上の背景からアントノフスキーにより、何が精神的な健康を保つ上で大切な要因が見出されました。

それが上記の3つの感覚でした。

1. 把握可能感(Comprehensibility):

• 周囲で何が起こっているのかがわかるという感覚

2. 処理可能感(Manageability):

• 困難な状況に対処できるという感覚、自分にはその状況を管理できる力があるという自信

3. 有意味感(Meaningfulness):

• 取り組む動機があると感じる環境、人生や出来事が価値あるものであり、困難にも対処しようという積極的な意欲

です。

これらは、生前から備わるものなのでしょうか。それとも、生後に育むことができるものなのでしょうか。その答えはYesでもあり、Noでもあります。

彼は研究を発展し、それらを形成する汎抵抗資源について述べています。汎抵抗資源とは、ストレスに対抗する自身の活力になり得る要素です。それには、ソーシャルサポート、ソーシャルネットワーク、社会関係、物質的な資源(モノやお金)、知識、宗教、哲学、芸術、さらには遺伝的要因や体質、気質などが含まれます。

この中には強化できるものそうでないものがあります。物質的な資源(モノやお金)、遺伝的要因、体質に関しては、生まれた環境で制限を受ける場合があります。それに比べ、ソーシャルサポート、ソーシャルネットワーク、社会関係、知識、宗教、哲学、芸術などは個人が培うことができる、もしくは培やすい要素です。

例えば、強力なソーシャルネットワークを持っている人は、困難な状況に直面した際に、周囲の支えを受けることで精神的な安心感を得ることができます。また、十分な知識や物質的なリソースがあれば、問題解決能力が向上し、ストレスへの対処がより効果的になります。

これらの資源は、一つひとつが相互に影響を与え、個人のストレス耐性を総合的に強化します。したがって、汎抵抗資源を積極的に培い、日常生活に取り入れることが、SOC(首尾一貫感覚)を強化し、健康で充実した人生を送るために不可欠なのです。

一朝一夕にこれを育むことはできませんが、自身の生活やこれまでの体験を振り返り、自身がストレスを受けやすい環境、どの汎抵抗資源を伸ばすことで、生きやすくなるかを考えてみるのはいかがでしょうか。きっと、あなたの生活を豊かに、なんとかやっていけるという感覚を育む手助けになることでしょう。

現代におけるSOCの重要性

1. ストレス社会におけるメンタルヘルスの危機

現代社会は、仕事や人間関係、経済的な不安など、多くのストレス要因に満ちています。特に、テクノロジーの進化や社会の急速な変化が、日常生活に新たなプレッシャーをもたらしています。こうしたストレス社会では、SOCのように、物事を理解し、対処し、意味を見いだす能力が重要です。SOCが強い人は、ストレスに対して柔軟に対応でき、メンタルヘルスを維持しやすいとされています。

2. 予測困難な未来に向けた適応力の強化

パンデミックや自然災害、経済の不安定さなど、予測不能な出来事が増加する中で、どのように対処するかがますます重要になっています。SOCの「把握可能感」や「処理可能感」は、困難な状況でも自分の能力を信じ、現実を理解しようとする姿勢を育てます。この感覚を持つことは、先が見えない未来に対する適応力を高め、混乱の中でも自信を持って行動できる力となります。

3. 個人のウェルビーイングと社会の安定に寄与する

SOCの強さは、個人のウェルビーイング(幸福感)にも影響を与えます。特に、社会全体が不安定な状況にある場合、個々が自分の生活や周囲の状況に意味を見いだすことは、社会全体の安定にもつながります。SOCが強い個人は、自己肯定感が高まり、コミュニティや職場において積極的に貢献しようとする傾向があります。これは、社会全体のレジリエンス(回復力)を向上させる要因ともなります。

まとめ

「coherence」という言葉は、統一性、一貫性理解可能で、秩序がある状態という意味で用いられ、精神的な健康を保ちやすい人の3つの特徴から、まとめてSense of Coherenceと名付けられました。

現代では、生命を脅かすイベントは過去と比較すると多くないでしょう。ただ、過去と比較すると情報量が多く簡単に得ることのできる時代になりました。時にそれらは作為的で恣意的です。その人に必要な情報ももちろんあるでしょうが、時に不安を招くものであったり、money-makingを目的としたものも多くあります。それらは時にストレスになることもあるため、情報との付き合い方も大切になっています

あなたの健康を守るためには、自分の感覚や世界の捉え方も共に磨いていく必要があるでしょう。このSOCは、ストレスや予測不能な出来事に適応するために不可欠な要素です。個人のメンタルヘルスの維持や、社会全体の安定にも寄与するこの感覚は、ますますその重要性を増しています。そして、これらを自身のペースで育み、ストレスとの付き合い方を会得してもらいたいと思います。


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