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【電力小説】第9話 星空の下での断水作業
第9話「星空の下での断水作業」
澄んだ空気と静寂の山中
夜の山間、スズと加藤はサージタンクの前に立っていた。冷たく澄んだ空気が肌にしみ、ライトに照らされたタンクと配管が暗闇の中に浮かび上がっている。
「空気がひんやりしてて、頭がすっきりする感じですね。」スズがつぶやくと、加藤は軽く頷いた。
「山の空気だな。こういう冷え込みは気を抜くと体にこたえるから気をつけろよ。」
加藤は配管を指差しながら続けた。
「ここで少しずつ水を抜く。急に全部抜くと設備に大きなダメージを与えるんだ。順番を守って慎重にな。」
「サージタンクって、水圧鉄管の圧力変動を吸収する装置ですよね?」スズが確認すると、加藤は口角を上げた。
「その通りだ。例えば発電所で急に水を止めると、管の中で圧力が跳ね上がる。それを水撃現象って呼ぶ。これが起きると鉄管が破裂したり、水車が壊れたりする。」
「だから、このタンクで圧力を緩和するんですね。」スズは教科書で学んだ理論が目の前で現実として動いていることに感嘆した。
加藤の手際
「まずは俺がやる。見ておけ。」
加藤は一つ目のバルブに向かい、手をかけた。
ゴリゴリ、と金属が擦れる音が響く。バルブは固着していたが、加藤は落ち着いた様子で力を込め、ゆっくりと回していく。
「こういうのは力を入れすぎず、ゆっくり回すんだ。」加藤が手際よくバルブを全開にすると、タンク内部から水が流れ出す音が低く響き渡った。
「次はお前の番だ。」加藤はスズを促す。「あそこのバルブを開けてみろ。」
苦戦するスズ
スズは指示されたバルブに向かい、恐る恐る手をかけた。だが、全く動かない。
「固い……!」
何度か力を入れてみるが、バルブはびくともしない。
「焦るな。」加藤が後ろから声をかける。「力の向きを確認して、体重をうまく使え。」
スズは少し深呼吸をし、言われた通りに慎重に力を加えた。
「……動いた!」
ようやくバルブがわずかに回り始める。スズは汗をにじませながら、慎重に回し続け、ついに全開にすることができた。
「よし、それでいい。」加藤はスズの肩を軽く叩いた。「力任せじゃなくて、動かす感覚を覚えろ。それが次に生きる。」
「簡単そうに見えて、めちゃくちゃ大変ですね……。」スズは息をつきながらつぶやいた。
満天の星空と次のステップ
作業がすべて終わり、スズと加藤はサージタンクのそばで一息ついた。ふと見上げると、満天の星空が広がっていた。
「すごい……。星がこんなに綺麗に見えるなんて。」スズが感嘆の声を上げると、加藤は「これが山奥で働いてる特権だな」と笑った。
加藤は遠くを見つめながら話し始めた。
「発電所の仕事ってな、こうやって現場で手を動かすのも重要だけど、全体の流れを見られる目も必要なんだ。現場だけじゃなく、運用全体を考える力が求められる。」
その言葉に、スズはふと考え込んだ。「もっと設備全体を見られる仕事……。変電所とか、別の現場でなら新しい視点を学べるのかも。」
「変電所か。」加藤がスズの表情を見て微笑む。「面白い発想だな。お前がどこへ行ってもやっていけるように、現場の経験をきっちり積んでおけよ。それが全ての基礎になる。」
スズは静かに頷いた。満天の星空を見上げ、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。「変電所……新しい挑戦かも。」
山奥の静寂の中でスズは自分の中に芽生えた新たな可能性を感じながら、現場での一歩一歩をさらに確実にしようと決意を固めた。
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