キノピコ

理系心をくすぐる小説を書きたいです これは架空の物語である。 過去、あるいは現在においてたまたま実在する人物、団体、出来事と類似していてもそれは偶然に過ぎない

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理系心をくすぐる小説を書きたいです これは架空の物語である。 過去、あるいは現在においてたまたま実在する人物、団体、出来事と類似していてもそれは偶然に過ぎない

最近の記事

【電力小説】山の事務所と訪問者

第6話「山の事務所と訪問者」 朝の訪問者 大狗電力センターでは、毎朝、業務開始前に全員で駐車場でラジオ体操をするのが日課だ。スズも他の社員たちと一緒に体操をしていたが、体は動かしても気持ちはどこかぼんやりしていた。 「上に手を伸ばしてー、左右に体を倒してー。」 上司がスピーカーから流れる体操音声に合わせて指示を出す。スズもなんとなくその動きを真似ていた。 ふと、何かの視線を感じた。隣の駐車スペースではなく、もっと奥。山の斜面からだった。 「……猿がいます!」 声を上

    • 【電力小説】第5話までの整理

      登場人物 佐藤スズ 主人公。新入社員で理系出身。大狗電力センターの保守課に配属。 現場経験を積みながら、技術者として成長中。 古川主任 大狗電力センター保守課の主任。親しみやすい性格でスズに仕事の重要性を説く。 第1話「電話の向こうの世界」で登場。 加藤先輩 スズの教育係であり頼れる存在。理系大学院卒で冷静な判断力を持つ。 第2話「地下4階の巡視」、第4話「雪山の発電所での緊急対応」に登場。 松下先輩 筋肉質で威圧感があるが、面倒見が良い。高校時代に柔道

      • 【電力小説】ダムを動かす夜

        第5話 ダムを動かす夜 夜を切り裂く電話 雨音が絶え間なく屋根を叩く山奥の夜。蜜柑ダム発電所の仮眠室で、スズは小さな電気ストーブに当たりながら記録簿を眺めていた。部屋は3畳ほどの狭い和室で、床下から発電機や水車の振動がじんわりと伝わってくる。 「この音、慣れないと落ち着かないな……。」 スズは静かな部屋で独り言をつぶやいた。仮眠室は寒々しく、畳にはシミが目立つ。ここで何十年もダムを見守ってきた技術者たちの気配が感じられるようだった。 その時、突然電話のベルが鳴り響いた

        • 【電力小説】雪山の発電所での緊急対応

          第4話「雪山の発電所での緊急対応」 突然の呼び出し 「スズ、山奥の星見川第三発電所で整流器が故障だ。お前も行くぞ。」 大狗電力センターの保守課で、先輩の加藤が短く言い放った。スズは一瞬言葉を失った。この発電所は冬になると完全に雪に閉ざされ、ヘリコプターでしか行けないと聞いていた。 「ヘリコプターで……ですか?」 「そうだ。現場を見て整流器盤を交換することになる。気を引き締めろ。」 未知の環境への不安と「私に役に立てるだろうか」という緊張がスズを襲う。それでも、スズは自分

          【電力小説】目と手で覚えろ―現場で学ぶプロの技

          第三話「屋外開閉所の挑戦」 「スズ、今日は屋外開閉所の点検に行くぞ。」 その一言に、佐藤スズは内心ドキッとした。屋外開閉所の点検は初めてだ。それに、今日同行するのは松下先輩――筋肉質で威圧感のあるこの先輩は、真剣な仕事ぶりで有名だった。 「はい、よろしくお願いします!」 スズは緊張を押し隠しながら、夏用の作業服にヘルメットをしっかりとかぶり、工具箱を持って松下の後ろについていった。 屋外開閉所にて 開けた空間に、ずらりと並ぶ屋外遮断器。周囲には「立入禁止」の黄色い看板

          【電力小説】目と手で覚えろ―現場で学ぶプロの技

          【電力小説】発電所巡視

          第二話「地下4階の巡視」 「今日は巡視だからな、気合入れていこうか。」 隣の運転席で、先輩の加藤が笑いながら言った。加藤はスズより3歳年上で、理系の大学院を卒業してすぐにこの発電所に配属された。今では頼れるメンターとしてスズを指導している。 「気合は入ってますけど……地下がちょっと怖いです。」 スズが正直に言うと、加藤は苦笑しながら答える。 「最初はみんなそうだよ。暗いし寒いし、何か音がするし。でもそのうち慣れる。巡視は現場を支える大事な仕事だって思えば、怖さより達成感の

          【電力小説】発電所巡視

          【電力小説】電話の向こうの世界

          第1話「電話の向こうの世界」 電話当番の緊張感 「スズちゃん、今日は電話当番ね。頼んだよ。」 大狗電力センターの保守課に配属されて3か月。佐藤スズはついに初めての電話当番を迎えた。古川主任のにやりとした笑顔に、「何か大変なことが起こる」という予感を覚える。 電力センターの電話対応は、知碓制御所や中央給電指令所からの連絡が中心だ。特に、1週間後に予定されている発電機の負荷遮断試験に向け、準備が本格化しているこの時期は、ミスが許されない。どんな些細な確認ミスでも、試験の成功

          【電力小説】電話の向こうの世界