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「がんノート」著者に聞く。清野栄一 ロングインタビュー 第3回 「誤嚥、肺炎、のどちんこの事」

ー誤嚥したのはいつなんですか?

「ICUに搬送される前だから、おそらく二回目の抗癌剤の後だと思います」

ー思いますって……よくわからないことだらけですね。

「気づいた時には終わっているのが誤嚥かもしれないですね。放射線治療をすると、唾液が出なくなって、口内炎が起きるんで、誤嚥しやすくなってたんだと思いますというのも後で知った受け売りだけど。普段から誤嚥はしてても免疫で肺炎にならないのは、がんと同じじゃないのかな? うちの父親も最期は誤嚥性肺炎と肺がんでした」

ー煙に巻かずに話してもらえますか。

「誤嚥、肺炎、短期間に敗血症、循環動態不全を起こしていたと知ったのは、ICUから生還した後だったんですよ」

ー誤嚥性肺炎の自覚もなかったと。

「明らかにヤバいというのはわかりました。朝方いつものように運動しようとしたら背中に激痛で、押忍、と言おうとしたら、ふぬけた声すら出なかった。背中といえば心臓。心臓といえば心筋梗塞で亡くなった知人を思い出して、別の友人に電話をかけた。肺炎でも呼吸ができているんだから心臓が止まったら心肺停止アウトだと思ったから。昼に肺のCTを撮ることになった。外来の時間帯だったんで、椅子に座って順番待ちしてたら壁にしがみつけずに椅子から床に崩れ落ちた。晩飯どころじゃなかったはずで、ベッドに横にもなれず、ベッドの柵に掴まって、嗚咽をこらえきれず、移動式レントゲンを撮るのに横になってみたら、薄暗い部屋とはいえ白い天井が暗闇の果てに遠ざかっていった。蛍光灯が照り返すリノリウムの淵。身じろぎもできずに眺めていた母の影。眩しいあかり。ステンレスのドア。細切れの記憶の淵……ICUで、切ってもいいですか? と訊かれたTシャツの絵柄まではっきり覚えているのに、そもそもどういう仕組みで誤嚥するのかよくわからないんですよ。」

ー小説に書いてある幼い頃の話が混ざってきてないですか?

「実際そうだったどころか……」

「おはよう! 今日も元気に書いてるかい?」

「君か! 実は、今インタビューを受けてる最中なんだ」

ーあなたですね!

「ところで喉の奥にある食道と気管のところって、なんでこんなややこしいつくりになってるんだろう」

「のどちんこ!」

「そうそう。あそこ!」

「肺への気道の入り口のところに蓋みたいな弁があるんだよ。
 息を吸いながら、飲み込めないでしょ。
 息を吸いながらごっくんできないというか。
 息を吸うときは弁が開いてるけど、飲み込めない。
 息を吐いて弁が閉じたときに、ごっくんできる」

ーご説明ついでに質問ですが、歯の治療中に患者さんがむせたりとかないんでしょうか?

「あるよ。
 何か食べる時は塞がるようになってるけど、年を取ると反射が弱くなったり、例えば、気管に少量の食物や水が入ってくると、当然汚染物なので、それを自分で出せなくなる。
 むせるならまだ良い方だけど、むせないでそのままだと、細菌物質が肺に停滞して繁殖、肺炎になるっていうことなんだ。
 さすがに、彼と同じ体験はしたくないですけどね」

----つづく----


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