がんノート 「信達」抄
輸血を受けて病棟に戻るまで、はっきり覚えているのは細切れの記憶。
死ぬ間際に見るのは、白い天井じゃなくて、オピオイドの濃淡。
劇的じゃないどころかヤク漬けで一日たっているよりもなにも起きない。
最初に正気を取り戻したのは股間と放尿。
カテーテルを見に来た看護婦さんはかわいい人。
灰色がかった天井。大きなステンレスのドア。右手にスタジオのようなガラス張りの部屋。
スタジオのような窓。俺のデータは見張られている。
殺風景な部屋にあるはずの大量の生命維持装置は一切見えない。
ドアの