![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/148701099/rectangle_large_type_2_50cd39dce7876e6bf8ed17757eba49bb.jpeg?width=1200)
「世界頭頸部がんの日」 歯
机に山積みになった原稿用紙の束と友人に送ったメールを読み返している。化学放射線治療を終えて退院したのは9月末だったから、かなり長い入院だったはずだが、早朝から読み返しているのに、まだ7月27日の原稿にたどり着けていない。敗血症でICUに搬送された8月の半ばをすぎると、原稿の量は極端に減っている。入院してからしばらくは、水を飲んでも激痛だったが、後半の嚥絶にくらべれば、筋トレをしていたぐらい元気だった。
書き手の事情はこのぐらいにして、放射線治療がはじまってから、痛さの原因になったのは、治療のために抜歯せざるを得なかった奥歯だった。たった一本の奥歯。その横にできた、となりの歯の、小さな突起。あのかすかな出っ張りにぶつかっていた舌先から口内炎がはじまって、麻酔薬を塗っても涙を流しながら食事するに至るまで尾を引くことになるなんて、思ってもいなかったのだ。