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岩絵具の流通と日本画を学ぶ機会の関係性について

こんにちは!
芸術大学で日本画を専攻している木本江美と申します。

今回の記事では「岩絵具の流通」「日本画を学ぶ機会」の2項目を取り上げます。
義務教育でしか美術をしたことがないけど興味があるという方に対しても分かりやすいようまとめました。
目次を参考にして、気になった箇所からご覧ください。


岩絵具について

岩絵具とは

岩絵具は日本画を描くときに主として使用する画材の1種です。主に鉱物を原料としています。実際は天然の鉱物だけでなく、ものによってはガラス質の素材に金属酸化物を加えて着色した人造鉱石なども含まれます。

岩絵具の入手難易度

通常、岩絵具を購入できる場所は非常に限られています。大概が日本画材や書道用品を専門に扱う小規模の個人店か、東京にある大型の画材店です。一部メーカーや販売店のオンラインショップで取り扱っている商品も僅かながらにあります。
しかしながら、街やショッピングセンターにある文房具店は勿論、油絵具やアクリル系の絵具を販売している所謂画材屋とされるお店でさえ一般的には取り扱いがないことがほとんどです。

その理由といたしまして、まず第一に岩絵具を使う(購入する)人口が他の絵具の場合と比べて少数で、つまりは一般に需要がないこと。
第二に大量生産に向いていない絵具であり、流通が限定されていること。
大きく分けてこれらの2点が挙げられます。

鉱石など天然素材を原料にした天然岩絵具は調達できる資源に限りがあります。一方、着色したガラス質のから製造される人造の岩絵具は天然岩絵具よりも材料としては調達しやすい種類であれども、これも製造に一定の時間を要する絵具です。それぞれの理由から全体的に岩絵具の価格帯は水彩絵具やアクリル絵具など他の絵具と比べても高く、さらに人造よりも天然、天然の中でも青色の群青という絵具は特に高価な傾向にあります。

正直な話、ある程度まとまった種類と量を買おうものなら絵具だけで一度に○万円がすぐになくなってしまいます。大学の課題作品や公募展に応募する作品など大きなサイズの絵を描く場合、人によってはさらにお金を費やすことになります。

日本画をはじめるハードルの高さ

画材費の問題

最近では簡単に日本画を始められるスターターキットなど、複数の絵具がまとまっており且つ手に取りやすい価格帯の商品が販売されるようになりました。それでも後々岩絵具や他の画材を揃えることを前提に考えた場合、利益を大きく出さずにあくまでも趣味として続けていくには日本画は水彩やアクリルと比べて費用面で引けをとります。

日本画をどこで習うか

画材費の問題に加え、日本画を習う場所が限られていることも日本画を描く人口が少ない一因でしょう。現在、岩絵具を購入される方の多くは教育機関の日本画専攻を卒業した方や現役の学生、日本画家の先生に師事した方であると思われます。

私は全国の美術部事情に精通している訳ではないのですが、美術科が設けられていない中学高校の美術部で個人が日本画に取り組める部はないに等しいのではないでしょうか。(この辺りの事情に詳しい方がいらっしゃいましたら、コメントで補足していただけますと幸いです)

絵画教室やカルチャースクールでも日本画はマイナーな部類です。ワークショップの講座まで視野を広げて、ようやく日本画を実践的に学ぶ場を見つけられる状態だと思います。

学びの場として日本画に触れられる土壌が満遍なく整えられているとは言い切れない現状、当然水彩や油画より描き手の人口も少ないですし、わざわざ岩絵具ないしは日本画材をお店の商品として調達しようと考える画材屋も限られてしまいます。

とはいえ勿論日本画を描く人口が少ないことが一般の画材屋に岩絵具がない1番の理由ではなく、個人的にはどちらかと言えば次に述べる点の方が有力ではないかと思います。

岩絵具の製造について

岩絵具の色について

冒頭でも記載したように、岩絵具は大量生産に向いていない絵具であるという話です。岩絵具の特徴の1つとして、同じ石から粒の大きさ毎に複数色の絵具が作られることが挙げられます。岩絵具を購入する際に絵具の容器に○番という数字もしくは白(びゃく)と表記されています。これらは粒子の大きさを表す単位で番手(ばんて)と呼ばれています。基本的に数字が小さいものほど粒子は粗く絵具の色が濃いです。番号が大きくなるほど細かく色は白っぽくなり、果ては白(びゃく)に行きつきます。

岩絵具の製造方法

岩絵具は色の違いを作るための作業工程に多大な労力がかけられています。
ある程度の大きさまで石を砕く・磨る作業をしましたら、番手ごとの大きさに区切られた網で粗い番手のものを振り分け、細かい粒子のものは水簸(すいひ)を行います。水簸とは、粒子の大きさの違いによって沈降速度が異なることを利用した粒子の振り分け操作のことです。

小学校の理科で習う、礫(れき)砂泥が沈殿するときの様子を思い浮かべてみてください。大きな粒子(礫)ほど速く下へ沈み、小さな粒子(泥)ほど沈むまでに時間がかかりましたよね。
細かい粒子を規定のサイズに振り分ける際に同じ操作をします。沈みきっていない上澄みを掬い出し、一連の流れを繰り返すことでより細かな粒子まで振り分け、色のバリエーションを増やすことができます。

この後大きさを分けた粒子を乾燥させる時間を設けます。製造者によって途中別工程を挟むことがあるかもしれませんが、概ね上記の手順で岩絵具が作られます。

岩絵具を製造している会社について

ここまでの説明で岩絵具という絵具をつくるにあたって、段階の多さと作業に手間がかけられていることをご理解いただけたでしょうか。

今現在、岩絵具を販売している個人店は多くの場合、昔から代々手製で絵具を作られているお店がほとんどです。故に大量生産することが難しいのですね。

他方で、製造メーカーとして日本画材の商品を全国各地に広く展開しているナカガワ胡粉絵具や吉祥は、自社の製造場があり独自の機械を設けています。比較的絵具を安定供給できる会社の存在により、日本画の絵具を取り扱い商品として加えている画材店も少しずつですが増えてきました。


余談:ナカガワ胡粉絵具とふるさと納税

ナカガワ胡粉絵具はふるさと納税の返礼品として自社の商品を提供しています。

ふるさと納税の仕組みについて簡単に説明しますと、希望の自治体へ寄付を行うことで翌年度の住民税の一部が控除され、加えてその地域から返礼品を貰えるという制度です。
感覚としては翌年度の住民税の一部を前納することで自治体の返礼品を貰うことができるというものでしょう。
国民年金を前納することによって支払う保険料が割引されるように、ふるさと納税制度を利用することによりある種の前納割としてその土地の特産品を得られるシステムですね。

なお、収入によって翌年度の住民税のうち控除できる上限の金額も変動しますので、利用される方は予めHPのシュミレーターにてお確かめください。

メーカー販売店の尽力と作家の後進育成

話を戻します。日本画材を実店舗で購入できるお店は依然として限られてはいるものの、今後も継続して販売ができるようにメーカーや販売店の方々は工夫して絵具づくりをし、一般に供給できるよう尽力されています。それ故の価格帯であることは自身も一消費者として承知しておくべきことだと思います。

また、日本画を学ぶ機会においても昨今のSNSの発展に伴い、YouTubeやTikTokなどの動画媒体にて初歩的な技法から本人の経験に基づく作品づくりの考え方までを発信して、後進育成に取り組まれる方々がいらっしゃいます。
「日本画」「描き方」などのキーワードから探すことができますので、是非一度ご検索ください。

【入りやすさ重視】岩絵具を購入できる実店舗紹介(大阪・京都・東京)

最後に、岩絵具を購入できる実店舗をいくつか紹介いたします。個人的に岩絵具の魅力はやはり直接見たときの色の豊かさと質感だと思っていますので、購入を検討していなくともご興味のある方はぜひ直にご覧いただきたいものです。

画材屋や日本画材店に馴染みのない方でも入りやすいお店を大阪・京都・東京それぞれでピックアップしました。実際に私が店舗へ行って感じたおすすめポイントも記載しています。

大阪-丹青堂本店

《おすすめポイント》
なんば駅から道頓堀に向かって歩く戒橋筋商店街沿いに店舗があります。周囲の路面店とは異なり一見階段しか見えず店舗と分かりにくいですが、繁華街にあるお店のため様々な方が中まで見に来られます。老舗の個人店のなかでも特に出入りのしやすいお店です。

京都-バックス画材

《おすすめポイント》
京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)の近くにある画材店です。T字路の交差点の突き当たりに店舗があり5台程度車の駐車スペースも完備されています。ここで販売されている岩絵具のメーカーはナカガワ胡粉絵具です。日本画材以外にも様々な種類の商品を取り扱っています。文具や小物もあるため老若男女が来店するようなお店です。

東京-PIGMENT TOKYO

《おすすめポイント》
2015年にオープンしたばかりで、ショップだけでなくワークショップを行う場やラボとしての役割も有する珍しい施設です。奥行きや天井までゆとりのある建物の壁一面に並べられた岩絵具やピグメントの列に圧巻されます。商品が博物館の所蔵品のように陳列されており、メディウム(接着剤)や箔を見比べるにしても見本が条件別に整頓されているため比較しやすいです。

紹介している店舗に限らず、岩絵具をはじめ画材や商品によっては容器として瓶を使用したり破損しやすいものを使用したりしている場合があります。
そのため、なるべく手荷物が少ない状態でお店へ行かれる方がじっくりとものを見ることができると思われます。


おわりに

いかがでしたか。
今回の記事では「岩絵具の流通」「日本画を学ぶ機会」の2項目を中心に取り上げました。
参考になった・面白かったと思っていただけましたら幸いです。⬇️にスキを頂けますと励みになります。

今後もnoteでは画材や制作に関することなどを投稿していきます。
また、Instagramでは作品や制作動画の投稿をしています。こちらもどうぞよろしくお願いします。

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絵描きの木本江美
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