宮部みゆき「魂手形 三島屋変調百物語 七之続」を読む

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 宮部みゆき作品はほぼ全て読んでいる。(と思う)。時代ものジャンルは元々好きだった上に、大好きな作家さんが書いたとなるともう最高である。

 語り役がおちかから小旦那に変わってからしばらく経つ。おちかのキャラクターも良かったが、この富次郎もまたいい。

 さて今作は火焔太鼓、一途の念、魂手形、の三篇から構成されている。

「あの座敷に行って話したい!」

 この「百物語」のシステムは、前の語り手であるおちかを、ある意味で『救う』ために編み出されたものだった。

 本作には三島屋ご夫妻の出番があまり無く少々淋しい。だが彼ら三島屋の夫婦がこのシリーズの土台なのだと思っている。

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【語って語り捨て 聞いて聞き捨て。語り手一人に聞き手も一人。一度にひとつの話を語ってもらって聞きとって、その話は決して外には漏らさず】

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、というものなのである。どうですか、この絶妙な設定。(本来の百物語は、人が集まって、順繰りに怪談を披露していく、蝋燭を一本ずつ消す…的なものです)

 最初の作品を読んだ時から、なんてよく考えられた魅力的な設定なのだろうと唸った。
 読者に「自分も三島屋に行って、おちかや富次郎に話を聞いてもらいたい!お勝さんたちに会いたい」と思わせているのではなかろうかと。自分はそうです。

 残念ながら語るような怪異の持ち合わせは無いけれど。

『人は語りたがる。嘘(うそ)も真実(まこと)、善きことも、悪しきことも。』

『火焔太鼓』

 微グルメ成分あり。語り手の兄嫁(作中だと嫂と表記)さんが、世間一般で言うところの『醜女』なのだが、滅法見た目の良い男のもとに嫁いでくる。
 この嫂さん、料理はうまいし、気立ても良くて、世間の声も悪意ある中傷もはねのけていっそ痛快でもあった。(美醜をあれこれ言われる事は、本人には酷くつらくしんどいことであっただろうけれども)
 可愛い義弟くんが「よし」が作る料理に、すっかり胃袋を掴まれてしまうんですね。ホントに可愛い。

 この一篇は、「よし」という名のこの嫂の存在感も大きい。キーマンなのである。

 切ないストーリー。でも温かい。

『一途の念』

 怖い話でしたね〜。まあ怪異を扱う作品なのですから、怖いのは既定路線ではあるのですが。
 あ、これにもグルメ描写がちょいと出てきます。醤油の焦げた匂いが漂ってきそうな焼き団子。
 本当に美味しそうでした。

 読み終わって「ああ、いい話だったな~…」というほのぼの系もあるが、これは読み終わった時に、ズンと重いものが来る作品。いやそれだけじゃないですけどね。

 おみよが、どこかで幸せであってほしいと、小旦那と同じように願って読み終わる。

『魂手形』

 表題作にもなっている一篇。単行本の約半分の分量を占める。

 最後の最後に、このシリーズ通しての重要人物…いいや、生きてないから重要あやかし、とでも言うべき存在が再び出てきます。

 作家の描写が凄いからなのか、文字だけで、重要あやかしの姿が脳内に浮かびます。他の人物もそうです。作家さんって本当に凄い。バカっぽいコメントですみません。語彙が貧弱ですみません。凄い凄いとしか言えない自分のバカ。

 語り手の人も、これまた魅力的。「好ましい」人物ってのがいますでしょう。この方はまさにそれ。
 (人間、裏の顔もあるかもしれませんが、まあそこは置いといて)
 語り手は幼いころ、祖母からひどく叩かれて育ったんですが、ある日やってきた使用人のお竹が、その虐待を止めるんですね。

 語り手の男の子の祖母にビシッッと言ってやるんです。そのお竹の強さが、「魂手形」を貫く一本の筋になってる。

 痛快。

 復讐譚でもある、この一篇は、お上公認の?とある組織という設定もステキです。

 読後感が爽やか!復讐譚なのに。いや、復讐譚だからこそこうでなくっちゃいけねえ。

 宮部みゆき作品を読んだ後は、読書って最高、と毎度毎度思うのです。
「模倣犯」のような陰惨な作品を読んだ後でさえも、です。

 この作家の作品の底には、いつも人間を信ずるものが流れている。

 おちかにも変化がありました。

 おちかも、その風変わりな夫も、また新たな物語を紡いでくれそうな予感。

 最高に面白い作品でした。お勧め!

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