古典で学ぶ働き方改革③(集中力を高める)
私はマネジメントの中で孟子の「万物みな我に備わる。身に反して誠なれば、楽しみ、焉(これ)より大なるはなし。」(この記事を参照)という格言を心掛けています。スタッフたちが自分の中にある思いにしたがって楽しみながら仕事ができる場づくりこそ経営者の仕事と考えているわけです。
その様な環境を作ることによって、一人一人が仕事に集中して自身のパフォーマンスを最大限に発揮できるようにすることで、会社の生産性が高まると考えるからです。
但し、環境だけで人がパフォーマンスを発揮できるかというわけではなく、一人一人が、どうすれば高い成果を出すことが出来るかを知っておかなければなりません。
今回は、まず儒教の経書(特に重視されている書物)の一つ『大学』の中にある下記の格言を紹介したうえで本題に入りたいと思います。
物格(いた)って后(のち)知至る。知至って后(のち)意誠なり。意誠にして后(のち)心正し。心正しくして后(のち)身修まる。身修って后(のち)家斉(ととの)う。家斉(ととの)いて后(のち)国治まる。国治まりて后(のち)天下平らかなり。
物事の道理を分かって始めて知恵を磨くことができる。知恵を磨くことで心のありようを正しくすることができる。心のありようを正しくあってこそ健康でいられる。健康でいることで家庭・国が治まり天下を太平にできる。
心のありようを正しくするために学ばなければならないことは荀子の記事でも述べましたが、ここで注目したいのは、家庭や国を治めるために、心や体のありようが正しくなければならないということです。リーダーの心と体が健康であってこそ、周囲の人も同様に健康でいることができ、個々が取組むべきことに集中でき、世の中が平和に収まるのです。
チーム、組織、会社に置き換えても同様であり、リーダー自身が心と体を整える術を知り実践することが組織のパフォーマンスには大きく影響すると考えます。最近のことがに置き換えると「マインドフルネス」な状態を作るこということです。
人は知らず知らずのうちに、だらだらと過ごして時間を無駄にしてみたり、一時的な感情のままに動いてしまい後悔するような行動をとったりしてしまいます。これらは意識して行うのではなく、無意識に行ってしまっているわけで、この状態を「オートパイロット状態」といいます。「オートパイロット状態」で動けることは当然メリットもありますが、常にその状態であると上記のような生産性を下げる状態にもなってしまいます。このようなオートパイロット状態を自己認識しセルフコントロールすることで、今やるべきことに集中することが、「マインドフルネス」の目的です。
前置きが長くなりましたが、今回は「マインドフルネス」に聞く先人の知恵として、禅僧で曹洞宗の開祖である道元禅師(1200~1253年)の言葉を紹介したいと思います。
道元禅師が宋からの海外留学(中世の留学なので現代の感覚では想像を絶する大変なものだと思います)から帰国後に記した『普勧坐禅儀』(ふかんざぜんぎ)に記されている内容から紐解いていきます。道元禅師は幼いころから神童といわれていたようでとても頭の良い方だったそうで、そんな人が苦労した後に感じたことを記録したものなので、少し(いや、とても)難解です。しかし、自分と向き合う(自己認識する)ためにはいろんな迷いもあって骨が折れるものですから、神童の難解な主張を紐解くことも自身の糧になると思います。
宗乗自在(しゅうじょうじざい)、何ぞ功夫を費やさん。
宗(大事なもの、世の中の理)は本来の自分自身の中にあるもので、人が工夫して得るものではない。早速、難しいですね。「自在」をどう理解するかですが、「今ここに在(い)るありのままの自分」ということです。大事な「ことを把握する唯一の方法は今の自分と向き合うこと」と私は理解していて、そのために行うのが「瞑想」です。
瞑想といってしまうと宗教的なイメージを持たれるかもしれませんが、実はGoogleやfacebookといった世界最先端の企業も取り入れています。脳科学でも瞑想中には脳の動きに変化があることも証明されているそうです。ざっくりってしまうと瞑想をしている時は普段行っている情報処理が停止している状態になるそうです。不要な工夫が止まって「宗乗自在」を感じることができるのが瞑想というわけです。そして、瞑想を行うことでストレスが減少したり、事故効力感がたかまったり、ポジティブに物事を考えることができたり、幸福感を感じたりすることができます。
夫(そ)れ参禅(さんぜん)は静室(じょうしつ)宜しく、飲食(おんじき)節あり。
諸縁を放捨し、万事を休息して、善悪を思わず、是非を管すること莫(なか)れ。
心意識(しんいしき)の運転を停め、念想観(ねんそうかん)の測量(しきりょう)を止(や)めて、作仏(さぶつ)を図ること莫れ。豈(あ)に坐臥(さが)に拘(かか)わらんや。
座禅(瞑想)は、飲食を節制するなど体調を整えて、静かな場所でやりましょう。仕事や雑事からいったん離れて、物事の善悪や善し悪しを考えることをとめましょう。思考を止めて、悟りを開こうなどと思ったり日常に思いを馳せることがないようにしましょう。
上記は、『普勧坐禅儀』の中にある瞑想のやり方を解説している部分です。では、余計なことを考えず思考をとめるには、瞑想は以下の様に行います。
まず、『普勧坐禅儀』の中にあるようにリラックスできる静かな場所で行っいます。「今」に意識を向けるために、呼吸に意識を向けていきます。
呼吸に意識を向けるように心がけても必ず注意がそがれたり雑念が湧いてくるものです。その時は、注意がそがれたことに気付き、そのことを認めます。注意がそがれたとしても自分を責める必要がありません。そして、雑念を手放して、もう一度自分の呼吸に意識を戻します。これを一定時間繰り返すことがマインドフルネスの瞑想で、「心意識の運転を停め、念想観の測量を止めて、作仏を図ること莫れ。」ということに通じると思います。
まとめ
他にも、『普勧坐禅儀』の中には瞑想のやり方のヒントになることが多く記載されていますので、興味があれば読み解いていくととても面白いかと思います。ただ、「生産性を高める」というゴールのためにそこまで面倒なことはやらなくても構いません。瞑想を日常に取り入れてオートパイロット状態を脱して、目の前の仕事に集中する力を高めて欲しいと思います。
Googleが開発したマインドネスプログラムの「search inside yourself」は時々日本でもセミナーが行われています。私も以前参加したことがありますが、この様な信頼できるプログラムに参加してみるのも「マインドフルネス」の実践に役立つと思います。